第573話 目処が立たない
パラパラッパラー!
『分割』を『付与』した熱光線で、黒いマンドラゴラから分離させた化神族を、バヨネッタさんが手にした瞬間、何とも気の抜けるファンファーレが安全地帯の町全体に鳴り響いた。それと同時に眼前にウインドウ画面が立ち上がる。どうやらこれでレイド戦は終了のようだ。ウインドウを操作すると、所持金やアイテムが増えているのが分かる。
「う〜ん? あんまり実入りが少ないか?」
アイテムの質や数がどれくらいのものなのか分からないが、手に入ったお金は千五百万ヘル程度しか入金されていない。
皆と話して、それぞれのリザルト報酬を比べると、カッテナさんがアイテムもお金も一番多かった。それは当然だろう。一番活躍していたのだから。それでも俺の2.5倍の三千七百五十万ヘルだった。ここから推察するに、化神族に乗っ取られた魔物一体の懸賞金が一億ヘルで、それがレイド戦参加者全員に、貢献度によって振り分けられているのだろう。
化神族に乗っ取られた魔物は全部で五体。牧場のオークは倒していないし、イエティはマンドラゴラの悲鳴によって絶命。その姿は白い毛に覆われた巨体となり、しばらく農場に横たわっていたが、死んで消滅した。きっと噴水広場でリスポーンしたのだろう。そしてイエティからは化神族はドロップしなかった。なので俺たちが入手出来た化神族は三つだ。これが良い結果なのかは分からないが、少なくともバヨネッタさんは不満だと顔が物語っている。
「他の冒険者も参戦していましたからねえ、報酬も分散してしまったのでしょう。これはしようがないですよ」
慰めたら睨まれた。相も変わらず理不尽だ。
「バヨネッタも、手に入らなかったものにいつまでも執着するなよ。それよりも、アイテム類をすぐにも換金して、期間限定ガチャをしないと、早期にレイド戦を終わらせた意味がなくなる」
デムレイさんの言葉に皆がハッとなる。確かに。と皆して報酬のお金をダイザーロくんに渡しながら、揃って中央通りまで戻ってきたのだが……、
「ああ……、そうだった」
中央通りは『老化』の魔物が暴れたせいで、どこも朽ち果てボロボロだ。当然武器屋やアイテム屋もボロボロで、営業なんてしていない。
岩山のダンジョンから帰還した面子で目配せし、俺が代表してバヨネッタさんに……、
「遊興地区も似たようなものよ。怨霊の魔法使いが暴れ回ったから」
ですよねえ。俺たちも見ているから覚えている。まあ、あの惨状じゃあなあ。
武器屋やアイテム屋は、中央通りと遊興地区、そして闘技場に存在する。中央通りの武器屋は品揃えが良く、これからエキストラフィールドへ冒険に行く冒険者たちが、冒険の準備を整える為の店が並んでいる。
対して遊興地区や闘技場の武器屋やアイテム屋は、冒険から帰ってきた冒険者だったり、同盟国からやって来た魔物たちが、武具やアイテムをお金に換金するのが主な目的の店だ。
まあ、中央通りは『老化』の魔物のせいで、遊興地区は怨霊の魔法使いのせいで、そして闘技場はイエティが氷漬けにしたせいで、どこも使いものにならなくなっているのだが。
「アイテムだけあっても、換金出来なきゃ意味ないじゃない」
バヨネッタさんがお冠だ。気持ちは皆同じだろう。現在進行形でガチャを回しているダイザーロくんへと、自然と視線が行ってしまう。
「ダイザーロくん、どう?」
俺の問い掛けに、ダイザーロくんは首を横に振るう。
「駄目ですね。いつもの調子でガチャをしているつもりなんですけど、
う〜む。流石のダイザーロくんであっても、物欲センサーには勝てないのか。となると、資金は心許ない。
「ハルアキ、カヌスに命令して、今すぐ町を元通りにさせなさい」
「今すぐは、無理だと思います」
「何でよ?」
「俺も町役場で色んな法案を提出して、カヌスが実行するのを見てきましたが、どうやらカヌス自身が自分に枷をかけているのか、どんなに早急な法案であっても、それが実行されるのは翌日、正確には、早朝四時に実行されるんです」
「早朝四時って!?」
眉間にシワを寄せるバヨネッタさんに、俺は首肯を返す。期間限定ガチャが次の期間限定ガチャに切り替わるのも早朝四時だ。
「恐らく今回も、その制約を破る事はないでしょうから、どれだけ早くても、この安全地帯の町が修復されるのは、日付けが変わって今日の四時だと思います」
俺の言葉に、がっくり肩を落とす面々。はあ、せっかく岩山のダンジョンを周回して、魔石や素材を集めてきたのに、それも無駄になってしまったか。
「もう! どこかにないの!? アイテムを換金出来る店は!?」
バヨネッタさんが空に向かって吠えるも、その声は虚しく木霊するだけである。だが悔しいのは俺も同じだ。俺は何か見落としがないか、『記録』で自分の記憶を掘り起こす。これまで町役場で目を通してきた様々な書類に、今さっきのレイド戦でのリザルト報酬。
「あ」
俺の呟きに、皆の視線が俺に集中した。その圧力が怖いくらいだ。
「何か思い出したのね?」
バヨネッタさんの言葉に、俺は何と返したものかと首を捻る。
「絶対ではないですが、まあ、あそこも店ですから」
と俺は皆を引き連れてある場所へと向かった。
「ここって、さっき戦った農業地区じゃない」
バヨネッタさんの言葉に頷きながら、俺はある一軒の店に入った。それに続く面々。店内に並べられているのは、肉や乳製品、それに野菜類だ。魚も並んでいるな。この安全地帯の町に魚の養殖施設はないから、冒険者や同盟国から持ち込まれたものだろう。
「おや? 皆さんどうされたのですか?」
カウンターで俺たちを出迎えてくれたのは、先程の農場主だ。聞けば牧場主と交代で、この店の経営をしているそうだ。
「どうも、さっきぶりです。で、単刀直入にお聞きしますけど、この店って買い取りしてますか?」
「ええ、していますよ」
農場主の言葉に、にわかに湧く面々。と言っても『にわかに』だ。どの程度買い取りをしてくれるか分からない。リザルト報酬に肉類がそれなりにあったので、恐らくイエティが自分が食べる分を入手したのか、他の魔物がエキストラフィールドで手に入れたかしたのだと思う。これらは売れるだろう。問題は武具や魔導具、魔石や素材などだ。一応町役場でこの店の事に目を通した限り、食材専門店ではなく、どんなものでも売買する形で申請がなされている。
しかし店内は食材一色だし、形式上『どんなものでも』売買するとしておいて、実際は食材オンリーの可能性は高い。俺は一縷の望みを賭けて、農場主に尋ねてみた。
「あのう、肉や野菜だけじゃなく、武器や魔導具、魔石や素材なんかの買い取りもして貰えるとありがたいんですけど」
「ありがたいって、もちろん買い取りしますよ」
「本当ですか!?」
「ええ。家畜や野菜の中には、特定のものを栄養にして育つものも少なくないですから。むしろ売ってくださるなら、こちらの方がありがたいくらいです」
破顔する農場主。特定のものを栄養に、ねえ。武器や魔導具を栄養にする家畜や野菜がいるのか。確かに、オークやマンドラゴラは『闇命の欠片』を吸収していたっけ。まあ、でも、これでリザルト報酬のアイテム類を換金する目処が立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます