第568話 初戦完封

「助太刀します!」


 俺たちが、中央通りで漆黒の骸骨と戦っている冒険者たちに参戦を申し込んだら、全員に睨まれた。「ふざけるなよ」と言外に言っているのが分かる。


「このイベントクエスト、レイド戦になっているようです」


 俺がそう言っても、冒険者皆が首を傾げるばかりだ。レイド戦が何なのか分かっていないのだろう。


「レイド戦はパーティ単位の戦闘ではなく、もっと大人数を想定しての大戦闘の事です。なので横入りがあっても、『カヌスの加護』が失われることはありません」


 俺の説明に冒険者たちが納得したのか、まばらに首肯を返してくれるが、そのうちの一人、どうやらこの場で他の冒険者たちを取りまとめていたらしい亡霊の冒険者が疑問を口にした。


「横入りがオーケーなのは分かったが、その場合、分け前はどうなるんだ?」


 確かに。どうなるんだろう? が、その疑問は武田さんが答えてくれた。


「貢献度によるようだ。化神族に取り込まれた魔物を倒すと、一億ヘルや武具、『空間庫』に収められていたアイテム類が、貢献度によって分配される仕組みらしい」


「成程な」


 状況を理解した亡霊の冒険者は、後からやって来た俺たち胡散げに見遣る。分配がどうなるか、頭の中で計算しているのだろう。


「俺たちの狙いは化神族だけだから、何なら他はそっちが総取りで良いよ」


 俺の発言が意外だったのだろう。亡霊の冒険者は信じられないものを見るように目を見開く。


「良いのか?」


 真偽を確かめるように、亡霊の冒険者はデムレイさんを見遣る。デムレイさんたちは、ダンジョンアタックでこの町の冒険者たちとパーティを組んで攻略していたりもしているから、二人は知り合いなのかも知れないな。


「俺個人としては、アイテムや武具も魅力的だが、パーティとしては化神族を手に入れるのが最優先なんだ。それに先に戦闘していたなら、そっちの方が貢献度は高いだろう?」


 デムレイさんの若干の嫌味の入った言葉に、肩を竦める亡霊の冒険者。


「成程。状況と本音は分かった。実際加勢してくれるのは助かる。俺たちでは攻めあぐねていたところだ」


 攻めあぐねるか。デムレイさんたちとダンジョンアタックをしていたくらいだ。俺よりレベルが高いはずだが、そんな面子が、いくら化神族に乗っ取られているからって、一体の魔物に攻めあぐねるか? しかし町の冒険者たちは、漆黒の骸骨から事実一定の距離をとってそれ以上近付かず、遠距離魔法でチクチク攻撃している。


「状況は?」


「ダナンダが浮かれて化神族を装備してしまったんだ。そのせいで何人か死に戻りさせられた」


 亡霊の冒険者の言葉に顔をしかめるデムレイさん。どうやらあの漆黒の骸骨はダナンダと言う名前らしく、デムレイさんとも既知であるようだ。


「ヤバいんですか?」


 俺が尋ねると、デムレイさんは首肯で返してくる。


「あいつの周囲の建物が朽ちているのが分かるだろう?」


 それは俺も気になっていた。漆黒の骸骨が腕を振るうたびに、周囲の建物がまるで動画の早送りのように朽ちて壊れていくのだ。恐らくスキルだろう。


「ダナンダのスキルは『老化』。周囲のものに対して、急速な時間経過を与えるスキルだ」


 成程。それは近付いたら一発でお陀仏だな。


「結界を張っても駄目ですか?」


「ああ。結界も他の魔法やスキルも老化させてしまうからな」


 亡霊の冒険者の言葉には、苦々しさが籠もっていた。それじゃあ普通は倒すのは無理だろう。しかし俺たちのパーティにはこの人がいる。


「ミカリー卿」


「そうだね。私なら近付く事も可能だろう」


 ミカリー卿には『不老』と言うユニークスキルがある。これなら『老化』に対しても無敵なはずだ。


「ただ、近付く事は出来ても、倒す手段がないがね」


 言われればそうだ。スキルや魔法も老化させられてしまうなら、魔法使いであるミカリー卿の攻撃は効かない事になる。どうするべきかと皆が頭を悩ませる。そうしている間も、漆黒の骸骨は周囲をボロボロにしながらこちらへ向かって来ていた。そこへカッテナさんが声を上げた。


「腕を振るっていると言う事は、その『老化』のスキルは、パッシブで常時発動していたり、結界のように範囲内に入った者に対して、問答無用で『老化』のスキルを強制するのではなく、腕を振るった方向に対して、スキルが飛んでいくアクティブスキルって事ですか?」


「基本は腕を振るって攻撃スキルとして使用するが、防御の時には自分を中心に範囲内に入った者を老化させるな」


「となると、時間勝負になるか」


 亡霊の冒険者の話に、手を口元に持ってきて俯き、しばし考え込むカッテナさん。どうやら妙案があるらしいが、リスクが伴うようだ。しかし覚悟を決めたのか、顔を上げて俺の方を見てきた。


「ハルアキ様。あの黒い骸骨のすぐ近くに転移扉を出現させられますか?」


「それは、可能ではあるけど、恐らく『老化』スキルの影響で、すぐに破壊されるよ?」


「それで構いません。私とミカリー卿をあの黒い骸骨の元まで運んでください」


「それは私はカッテナくんの盾って事かな?」


 カッテナさんの提案に、そう返すミカリー卿であったが、悪い気はしていないようで、笑顔である。


「すみません、事態を早急に収拾させたいもので。私が遠距離から『縮小』のスキルを『付与』した銃弾を撃ち込んでも、黒い骸骨に命中する前に『老化』で銃弾を破壊されてしまうので、出来るだけ近距離から銃弾を当てたいんです」


「成程。『縮小』で漆黒の骸骨の『老化』の威力を縮小させたところで、俺たちで漆黒の骸骨を攻撃して相手のHPを削り、弱体化したところで『分割』で漆黒の骸骨と化神族を分離させる作戦か。悪くないね。ただ……」


 相手の『老化』は範囲スキルでもあるから、下手したらカッテナさんが一気におばあちゃんになってしまう可能性がある。


「そこは私が結界を張って、リスクを出来るだけ下げるよ」


 とミカリー卿が頼もしい発言をしてくれた。まあ、それならいきなり老化する事は避けられるか。それでも時間勝負だけど。


「作戦が決まったなら、すぐに実行しよう。このままだと、中央通りが全壊だ」


 亡霊の冒険者の言に皆で首肯し、俺たちパーティや冒険者たちは、『老化』が『縮小』したらすぐに攻撃に移れるよう戦闘準備に入る。


「じゃあ行くよ」


 俺がミカリー卿とカッテナさんの前に転移扉を出現させると、直ぐ様そこへ飛び込むミカリー卿とカッテナさん。その転移扉の先は、こちらを向く漆黒の骸骨の真後ろだ。


 真後ろにいきなり敵が現れ、反射的に腕を振るう漆黒の骸骨。これによってあっという間に転移扉は崩壊してしまった。しかしミカリー卿は『老化』をものともせずに直ぐ様結界魔法で結界を張り、カッテナさんを守ると、結界が崩壊しようと言う数秒の間に、カッテナさんは手にしていた短機関銃二丁を漆黒の骸骨に撃ち込んでいく。その銃弾一発一発には、『付与』によって『縮小』が付与されており、これによって漆黒の骸骨の『老化』の力が見る見る縮小されていく。


 この事態に慌てた漆黒の骸骨だったが、もう遅い。『縮小』によって『老化』はほとんど使いものにならなくなり、それを確認した俺たちが、一斉に漆黒の骸骨に襲い掛かった。


 可哀想になる程ボコボコにされる漆黒の骸骨。しかしここで同情は無用だ。俺たちのお金と経験値と化神族ゲットの為に、成仏してください。その願いが届いたのか、俺たちパーティと町の冒険者たちによって、漆黒の骸骨は呆気なく粉砕され、復活する事はなかったのだった。


「はっ! 化神族!」


 倒した後に白い骨片と化した骸骨を見て気付いたが、明らかにオーバーキルだ。その場の全員で一斉にボコボコにしたので、化神族を分離させる隙なんてなかった。と思っていたら、いつの間にやらカッテナさんがちゃんとゲットしていてくれた。良かった。バヨネッタさんに怒られずに済む。さあて、次はバヨネッタさんたちのところへ向かうか。

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