第564話 脳への負荷

 恐らく魔法使い型であろう円柱状のゴーレムと、物理職であろうウニ型ゴーレム。武田さんの『転置』で敵パーティを挟撃する形になった俺たちは、直ぐ様戦闘行動へと移行する。


 ダンッ! ダンッ!


 黄金のデザートイーグルを取り出したカッテナさんが、魔法使い型の円柱ゴーレム二体へ発砲するも、銃弾が最大巨大化する前に、ウニ型ゴーレムが銃弾の速度と変わらぬ速度でその棘を射出し、銃弾に当てて弾いてみせた。


 これで円柱ゴーレムを倒せれば、戦闘が少しは楽になったのに。心の内で舌打ちするも、結果は変わらない。と状況を冷静に受け入れ、円柱ゴーレムがこちらへ飛ばしてくる岩塊の一つを、アニンの曲剣で真っ二つに斬り裂く。


 もう一方の円柱ゴーレムの岩塊はミカリー卿が結界魔法で防いだが、その間に円柱ゴーレムはウニ型ゴーレムと入れ替わるように、パーティの中央に引っ込んでしまった。


 俺たちの前に立ち塞がるウニ型ゴーレム。転がるように高速移動するウニ型ゴーレムは、それだけでも全身凶器だと言うのに、更に棘を銃弾の如く飛ばしてくるのだ。しかもその棘はウニ型ゴーレムによって、縦横無尽に自在に動くのだからたまったものじゃない。


 俺からしたらウニ型ゴーレム一体でも厄介だと言うのに、それが二体。その後方からは円柱ゴーレム二体が岩塊を生成しては飛ばして後方支援してくる。全く厄介極まりない。赤熱ゴーレムをリットーさんとデムレイさんが引き受けてくれているのが救いか。


 ウニ型ゴーレムの棘に、円柱ゴーレムの岩塊。それらが降り注ぐ戦場は混沌としていて、元々不安定な山道だった足場は更にボコボコになり、動き難くなった戦場では、敵ゴーレムの攻撃を回避するだけで手一杯だ。


 そんな中で、ミカリー卿は結界魔法に注力し、その後方ではカッテナさんが黄金のデザートイーグルを手に、敵ゴーレムを沈めるに足る一発を当てる隙を窺い、武田さんはヒカルとともに、『転置』を繰り返し、同じく攻撃の隙が生まれる瞬間を待っていた。


 そして俺はどうか? と言えば、意外と冷静だった。攻撃をするには敵ゴーレムの攻撃に間断がなく、避ける事に注力するしかないシチュエーションである為、『有頂天』で『共感覚』に対してのみ『時間操作』タイプBを施す事で、どの攻撃がどの角度から来るのか、それだけに集中出来る。すると『加速』付与の指輪を使用しても、『共感覚』……五感が『時間操作』タイプBで感じる世界がスローモーションで動くから、三半規管の揺れによる酔いが起きないのだ。これは嬉しい発見だった。


(この状態をデフォルトとして、『共感覚』を『武術操体』と合わせ、『全合一』へ)


「くっ……!」


 と『全合一』に切り替えた瞬間に、軽い目眩を感じてふらつく。その隙を見逃さないウニ型ゴーレムの棘が飛んでくるが、武田さんの『転置』によってミカリー卿の結界の中へと何とか難を逃れた。


「大丈夫かい?」


「大丈夫……です」


 心配から声を掛けてくれるミカリー卿に答えながら、気を落ち着ける。『共感覚』から『全合一』は無理があったのか? 思わず己の指に嵌まっている『加速』付与の指輪に視線を向ける。いや、そんな事はないだろう。『共感覚』のみの場合はいけたのだ。それを『全合一』にランクアップさせたら立ち眩みをした。この二つの違いは、『共感覚』と『武術操体』を融合させる事で、更に鋭敏になる感覚。つまり脳に入ってくる情報量の多さの違いだ。


 となると、俺が取るべき手段は二つ。一つは情報量を少なくする。『全合一』でも、『武術操体』を基本に、『共感覚』の中から戦闘に必要な視覚に感覚を集中させる。他の感覚は鈍るが、どうせ加速中は他の感覚は機能していないのと同じだ。これなら他の四感覚の分の魔力をアニンに注ぐ事で攻撃力を上げる事も可能。これが合理的と言えるだろうが、今後、敵の中に霧を発生させたり、目に見えない透明な攻撃などで、視覚が通用しない奴が出てきた時がヤバいか? 『瞬間予知』でギリいけるか?


 もう一つの手段は、『全合一』はそのままで、入ってくる情報量の速度を遅くする方法。つまり、『時間操作』を使って入ってくる情報量の速度を遅くすれば、加速中でも酔いもなく、これまでよりも高いパフォーマンスを出す事が可能だ。しかしそれは移動に関してのみで、攻撃力は今まで同様。攻撃の瞬間だけはアニンに魔力を集中させる必要がある。


 どちらも一長一短だ。でもどちらかを選ばなければ。とりあえずこの場に視界を邪魔タイプがいないのだから、前者の視覚に集中する方を試すか? などと『加速』付与の指輪を見ながら集中していると、外野がやけに静かになっている事に気付いた。


 もしや俺があれこれ考えている間に、もう戦闘が終わったのか? それだと俺、全くこの戦闘に貢献出来ていないな。と顔を上げると、戦闘はまだ継続中だった。やけに静かだったのは、眼前の光景がスローモーションに動いていたからだ。


(あれ? 俺いつの間にか『時間操作』を発動させていたのか?)


 と一瞬考えたが、俺のLPが減っていく感覚が、『時間操作』のそれと違う。どちらかと言えば、魔導具を使っている時のそれだった。何かしら魔導具が発動している。いや、何かしらなんて曖昧にぼかす必要もない。『加速』付与の指輪が発動しているんだ。


 今までと違った発動の仕方だが、何が起きているのかは直感で理解出来ている。『思考加速』。今さっきまで、この指輪は身体速度のみを向上させる魔導具だと勝手に思い込んでいたが、恐らくこの魔導具の元となる『加速』と言うスキルは、身体速度を向上させるだけでなく、それに付いていけるように、五感や思考速度も加速させる事が可能なのだろう。それならシンヤが『加速』中に自在に身体を動かせるのも納得出来る。


 そしてこれは俺からしたら正しく渡りに船だ。『加速』付与の指輪が、思考速度を上げてくれるなら、俺は『時間操作』タイプBに注力出来る。それも思考加速にLPを割かずに、身体速度を向上させるだけで良いのだから、思考加速分のLPをアニンに注ぐ事で攻撃力の上昇も出来る。


 買っておいて良かったぜ、『加速』付与の指輪! なんだよ、俺と相性良いじゃないか! ポイントに余裕が出来たら、もっとグレードの高い『加速』付与の魔導具を手に入れても良いかも知れないな。っと、それよりまずは眼前のゴーレムパーティを殲滅させる事に集中しないと。


 俺は『時間操作』タイプBを発動させ、ミカリー卿の結界から出ると、棘と岩塊が降り注ぐ中を高速で駆け抜け、『ゼイラン流海賊剣術』と『五閘拳・重拳』の掛け合わせで、ウニと円柱のゴーレムを素早く倒すと、俺たちは数的有利を作り出し、その勢いのまま、赤熱ゴーレムを俺とミカリー卿で結界に閉じ込めると、デムレイさんが『隕星』で大きな隕石を降らせる事で、赤熱ゴーレムを倒したのだった。

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