第533話 応援

「ああああああ〜〜〜」


 闘技場の観客席。アンデッドたちが大興奮でカッテナさんとイノシシ? 豚? いや違う。あれオークだ。こっちのオークは二足歩行じゃなくて四足歩行なんだった。その骸骨であろう巨大な魔物と闘っているのを見守っている俺の横で、バヨネッタさんが脱力しながら頭を抱えている。


「ええっと〜、元気出してください?」


 おっと言葉を間違えてしまったようだ。睨まれてしまった。


「も〜う、何であんなボロ宿の方が、私のサングリッター・スローンよりも高性能なのよ〜」


 高性能、か。それはある部分では間違っていない。サングリッター・スローンは町中であればただの寝床でしかないが、この安全地帯の町にある宿屋のベッドで一晩眠れば、HPMPが全回復するのだから。古のゲームからの仕様なので、日本人である俺からすれば当然のように受け入れられるものだが、バヨネッタさんたち異世界人からしたら、頭が混乱するのも当然だろう。


「まあ、良いじゃないですか。便利で」


 俺の言葉に何か言い返そうとして、それを飲み込み歯を食いしばるバヨネッタさん。ここで暴れたところで、現実は変わらないし、今更宿屋の性能を低くしろ。と文句言うのも馬鹿らしいからねえ。


「それより、カッテナさんの応援をしましょうよ」


「応援、ねえ。それって必要?」


 バヨネッタさんは応援されようがされまいが、我が道を往く人だからなあ。


「主人から応援されれば、やる気に繋がると思いますよ」


「ふ〜ん。それなら……、カッテナ!」


 とバヨネッタさんが骸骨オークと闘っている、と言うか逃げ回っているカッテナさんに声を掛けた。


「後一分で倒しなさい。出なければ……」


 バヨネッタさんは最後まで語らず、笑顔を見せるだけ。それだけでカッテナさんの顔が青ざめ、逃げから一転して、短機関銃による攻勢へと転じた。


 が、これではスカスカの骸骨オークに有効打を与えられないと悟るや、直ぐ様黄金のデザートイーグルに武器を持ち替え、自身に迫る巨大な骸骨オーク目掛けて、後の事など考えたくない。とばかりに、全弾撃ち込むのだった。結果からすれば、最初の巨大な黄金の銃弾によって骸骨オークの大半が破壊されたので、オーバーキルだった訳だが。


「成程。確かに応援は有効なようね」


 アンデッドたちが賭けの結果に悲喜交交となっている中、そんな言葉を呟くバヨネッタさんに、「それは応援とは言いません」と俺の口からは言えなかった。カッテナさん、何かごめん。でも賭けに勝てたから、その分は還元するよ。



 安全地帯の町を真上から見た時に、右上に位置する、町役場の右横にある闘技場。初日にサングリッター・スローンで眠り、次の日には完成していたそこでは、盛んに闘士たちによる闘いが毎日繰り広げられていた。


 闘士は俺たち対アンデッドである事もあるし、アンデッド同士や、アンデッド対他の魔物である事もある。まあ、同じ種族同士だと殺してもレベル上がらないもんな。いや、魔王ノブナガの影響で魔物同士なら上がるのか? ここまで影響が及んでいるのか? 分からないので、ベイビードゥに尋ねたら、ここも魔王ノブナガの影響下にあるそうだ。でもカヌスがいじっているので、同族同士ではレベルは上がらないそうだ。それでもプレイヤースキルは上がるみたいだけど。


 闘技場での賭け方にはいくつか種類がある。どちらが勝つか。と言う一番簡単な賭け方から、その勝ち方、負け方に倍率がついていて、それを当てるのだ。


 この闘技場は石と木で出来た簡素な闘技場なのだが、当然と言うべきか、初代魔王カヌスのあれやこれやが使われているので、闘士たちが闘う舞台の上空にはウインドウが現れ、そこには闘う闘士のレベルとHPMPが表示されると言う意味が分からないハイテクと言うか魔法が使われてるとか、賭け券売り場では観客席に入りきれなかった者たちの為に、闘いが見れるようになっていたり、次の闘士たちの情報が見れるウインドウがそこかしこに出ていたり、細かい情報の書かれたビラを売っているアンデッドがいたりする。本当の賭場みたいなのだ。


 闘技場での闘いは基本は制限時間十分で、相手のHPを削り切った、つまり殺した方が勝ちなのだが、十分で決着がつかない時と言う場合もある。そこで、最大HPから何割削ったか。で勝敗を付ける場合が出てきたりする訳だ。対戦相手によってHPに差があるからね。でもそこを逆手にとって、戦闘終了時の残存HPが多い方で決める賭け方もある。


 他にも、相手が強者対弱者だった場合、何分持つか、で賭ける賭け方や、俺たちなんかだと、負けの宣言でも決着がつくので、何分で宣言するか、なんて賭け方もあり、更にはこれらを複合して賭ける賭け方も出来るので、闘う闘士も真剣だが、賭けるアンデッドたちも物凄く真剣な表情をしているし、何なら、素知らぬ顔で俺たちに近付き、俺たちの会話に耳を立てて情報を得ようとする輩までいたりする。


 そして俺とバヨネッタさんが今回のカッテナさんの闘いに賭けた賭け方だが、レベル三十五の骸骨オーク相手に、レベル三十二のカッテナさんが三分以内に勝つ。と言うものだった。レベルが肉薄しているうえ、三分以内と言う制限があったので、倍率は8.7と高配当だった。たった十分で持ち金が約九倍になると思うと、そりゃあ賭け事にハマる者が続出するのも、禁止されるのも分かると言うものだ。


 え? 外から口出しして勝たせたみたいだけど良いのかって? 俺たちは『応援』しただけど?

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