第529話 すり合わせ
「さて、どうしたものですかね」
と皆を見渡したところで、
ピロン。
と間の抜けた音とともに、空中にウインドウが現れた。そこにはデイリークエストやらノーマルクエストやら、イベントクエストなんて項目が並んでいる。
『早速だが、ハルアキくんのゲームを参考にさせて貰ったよ』
どこからともなく頭の中に響くカヌスの声。完全にカヌスの手の平の上で転がされているな。
「これを全てクリアしろ。って事ですか?」
『いいや。先程も言ったが、君たちはレベルが低過ぎる。なので最低でも全員がレベル五十を超えて上限解放をしたうえで、ある条件を満たしたなら、そのエキストラフィールドから解放しよう』
はあ。面倒な事になった。視線を皆に向けても、全員が辟易しているのが分かる。
「このウインドウ、全員見えていますか?」
俺の質問に、皆が首肯で返してきた。普通、ウインドウは『鑑定』系統のスキル持ちしか出現しない仕様だ。それが出ているのは幸か不幸か異常事態であり、カヌスに俺たちのスキルを改竄する能力がある事を示唆している。
「皆さんのウインドウには何が表示されています?」
との俺の質問に答えてくれたのはデムレイさんだった。ウインドウを横にスッスッと動かしながら、情報を開示してくれた。
「自分を『鑑定』して貰った時に分かるようなものだな。レベル、ギフト、スキル、経験技能、魔道具でどんな魔法が使えるか、持ち物なんてのも分かるのは地味にありがたいな」
「経験技能?」
「ハルアキが日頃プレイヤースキルと呼んでいるものよ」
デムレイさんの聞き慣れない単語に首をひねると、バヨネッタさんが教えてくれた。あれか。
「他人のは視れないんですね?」
俺の質問に頷くデムレイさんだったが、それに対してダイザーロくんが手を上げた。
「俺は他の人のレベルやスキルなんかも分かります。多分鑑定の片眼鏡を付けているからでしょうけど」
とダイザーロくんが武田さんの方を見遣れば、武田さんも頷き返してくれた。実は俺も俺より低レベルの武田さん、ダイザーロくん、カッテナさんのステータスは視れているので、ダイザーロくんの推測は正しいだろう。
「さて、ステータスは分かりましたけど、やっぱりそれより気になるのは、ウインドウの他画面に出てくるこれらですかね」
俺の言に皆が無言になる。最初のウインドウ画面に出てきたのがクエスト関係。更に言えば、他の画面に、ガチャが出来る画面がある。つまり、俺たちのウインドウには、クエスト関係の画面、ガチャ関係の画面、ステータスの画面の三つの画面があるのだ。
「いよいよ、ゲームじみてきましたねえ」
「遊ばれている。と言うより、弄ばれていると言った感じだな」
武田さんの言葉に皆が頷く。
「とりあえず、ログインボーナスのガチャやっときます?」
と俺はガチャ画面にあるログインボーナスガチャを指差す。
「工藤は勇者だな」
武田さんに勇者と言われてもな。
「相手は魔王だぞ?」
その警戒はもっともだけど、たった七人相手に、ログボで罠を仕掛けてくるかなあ? いや、カヌスならあり得るか。
「俺が行きましょうか?」
逡巡している間に名乗りを上げたのはダイザーロくんだ。確かにダイザーロくんの幸運があれば、罠をすり抜けられるか。いや、
「ダイザーロくんがやった場合、他の人の参考にならないと思う。ここは俺がやるよ」
「は、はあ」
俺の意図を理解しておらず、頭の上にハテナマークを浮かべていそうな顔をしているダイザーロくんを横目に、俺は覚悟を決めてガチャ画面のログインボーナスの部分をタッチした。
しかしてウインドウから出てきたのは、対魔鋼のインゴットだった。
「…………」
『どうだい?』
どこかから聞こえるカヌスの声がワクワクしているのが分かる。
「これって、換金アイテムか何かですか?」
『換金アイテム?』
「ガチャ画面を見るに、ガチャをするにはお金が必要みたいじゃないですか? でも我々はこのシューと言う単位のお金を持っていないんです。なのでこれを渡されても……」
『え? 今、地上ではシューは流通していないのかい?』
カヌスの声が動揺している。本当に時勢に疎いんだな。
『シューは古代で広く流通していた金の単位だ。バヨネッタやデムレイであれば持っていると思うぞ』
とアニンが進言してくれた。
「バヨネッタさん、デムレイさん、どうやら古代で流通していたお金がシューみたいなんですけど、持っています?」
「え? シュー? シーユではなく?」
バヨネッタさんにデムレイさんも驚いている。どうやら時を経て、古代で流通していたお金の単位は、シューからシーユだと言う事になっていたみたいだ。
「アニンの話では、シーユではなく、シューが正しい発音みたいです」
愕然としてその場に崩れ落ちる二人。まあ、思い込んでいた常識が覆されたら、それはショックだろう。二人は置いておくとして、
「カヌス様」
『何だい?』
「こちらにも、恐らく多少はシューを持っている者もいるようなのですが、カヌス様の目論見だと、我々はレベルが五十を超えないとここから出られないのですよね?」
『そうだね?』
「どうやってシューを集めさせるつもりだったんですか?」
『…………』
返答がない。考えてなかったな。
『あー、このゲームのように、ここの魔物を倒したら、シューがドロップするような仕組みに……』
「それはゲーム内だからで、リアルにそれをやられると、贋金扱いになったり、シューの価値が暴落する事になるのですが」
『…………成程』
この魔王、凄いのかポンコツなのか分からないな。
「ええっと、こう言うのはどうでしょう。シューと言う本当にある貨幣でガチャをするのではなく、このエキストラフィールド独自の貨幣を作り出すのです」
『それ採用で』
「あと、倒した魔物の素材や魔石、このインゴットのようなアイテムと貨幣の交換所や、素材、魔石、インゴットなどを持ち込んだら武器防具を作製してくれる場所、HPMPの回復スポットを、魔物が寄り付かない安全地帯に設置して頂けると助かります」
『成程、エキストラフィールド内に簡単な町が欲しい訳か。流石はゲーム慣れしているね。参考になるよ』
「ははは、本物のクリエイターさんには敵いませんけどね」
『面白い。これは久々にクリエイター魂が燃え上がるよ』
あ、これは要らん火を点けてしまったかも知れん。はあ。もう俺たちに出来るのはここで生き残る事だけだ。
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