第522話 対ミイラ剣士

「ほう。準備が出来たのか?」


「ひとまず、かなあ」


 地下六十階。俺たちは野球ドームのような大きな空間の中央で立つ、シンヒラーへと話し掛ける。


「…………まあ良い。俺のやる事は決まっている。死ね」


 光の剣を顕し、当然の権利とばかりに一歩こちらへ踏み込んだシンヒラー。対して『時間操作』タイプAでこのフロア全体に対して俺は時間を遅くさせる。が、それでもシンヒラーの速度は速い。そこへカッテナさんが抵抗低下の眼鏡で更に速度を落とさせた。


「行くわよ」


 それを確認したところで、バヨネッタさんの号令で俺たちは地下六十階フロアへと足を踏み出した。


 そうなると起動する魔法陣の数々。そしてその中から様々なリビングウェポンたちが現れる。剣、槍などの単純な分け方でなく、剣も短剣、長剣、曲剣など様々で、槍も長槍、短槍、突撃槍に投げ槍、他にも斧や鈍器に弓なんてものまでありやがる。武器の見本市かな?


 その武器の多さに俺が武田さんを振り返ると、首を左右に振る武田さん。成程、大ボスであるシンヒラーがいる事で、このフロア自体が広がり、武器種が増えたと思うべきか。まあ、やる事は変わらないんだけど。


 俺とカッテナさん、デムレイさん、ダイザーロくん、ミカリー卿がシンヒラーを足止めしている間に、武田さんがバヨネッタさんを『転置』でこのフロアの奥にある台座に送る。これでバヨネッタさんで台座を起動させれば、少なくともリビングウェポンの無限湧きは止められる。まあ、その後に中ボスである阿修羅骸骨戦士が出てくるが、大量の敵を相手にするのと、ボス二体を相手にするなら、ボス二体の方がマシとの結論が出たので、今回はこれで行く事が決定した。


 俺たちが中央に位置するシンヒラーに接近すると、シンヒラーは当然のようにリビングウェポンの一つである長剣を、光の剣を持たない左手で握り、二刀流で構えた。


 視線で皆と合図を送り合うと、レベル五十となったデムレイさんが、最初は俺だと頷き返す。そしてシンヒラーのやや上空を囲うように、円形に現れる十個の時空を歪めるバスケットボール大の渦。その渦の一つから、高速で何かが射出された。それを当たり前のように光の剣で縦真っ二つに斬り裂くシンヒラー。その斬り裂かれたものは床面に着弾して、その威力からもうもうと土煙を上げる。それは普通であれば宇宙の彼方にあるはずの物体。たとえ大地の引力に引き込まれても、そのほとんどが大気で燃え尽きるもの。隕石。


 デムレイさんがレベル五十から上限解放して獲得したスキルは、『隕星』。宇宙の彼方から隕石を呼び込み、地上に落とすそれは、地下にあるダンジョンにあっても、時空を歪めて対象者に降ってくる凶星であった。


 これに手応えを感じたのであろうデムレイさんは、ドンドン行くぞ。とばかりに、十ある射出口から、ドンドンと隕石の雨を降らせ、シンヒラーをその場に足止めしていく。その間俺たちはデムレイさんが攻撃を受けないように、リビングウェポンの相手だ。


 剣が舞い、槍が飛び、斧が振るわれ、鈍器が暴れ回る。案外厄介なのが弓だ。遠距離なうえに使い手のいない弓は、こちらからはほぼ線でしかない。俺の『時間操作』タイプAでこのフロアの時間が遅くなっているから対処出来ているが、普通にやったらかなり厄介だったろう。これにはミカリー卿が積極的に魔法で対応していた。


 ミイラ男の口角が上がる。どうやら強敵との戦闘は望むところであるらしい。戦闘狂め。なら望み通りにしてやる。ちらりとミカリー卿、カッテナさんとダイザーロくんを見遣れば、俺の意図を察した三人。ミカリー卿が風魔法で群がる武器群を吹き飛ばし、その隙に短機関銃とブリッツクリークで、『隕星』の相手に慣れてきたシンヒラーに向けて撃ちはじめる。


 これで完全にシンヒラーはフロアの中央に足止めされた。更に追い討ち。とばかりに、俺の『重拳』の重力でシンヒラーをその場に繋ぎ止め、更に更にミカリー卿の数々の拘束魔法が、シンヒラーの動きを封じる。


 これなら! とデムレイさんを見れば、既にデムレイさんは次の手に移っていた。『隕星』は魔力を注ぎ込めば込む程に、その隕石が大きくなる。つまり、レベル五十を超えるデムレイさんであれば、


 ゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!


 直上の空間が渦を巻いて歪み、その中から直径十メートルは軽く超える小天体が姿を現し、流石のシンヒラーもその顔を歪めた。が、重力と拘束魔法で動きを封じられたシンヒラーに逃げる手立てなどあるはずもなく、小天体の直撃によって、シンヒラーがいた場所は、轟音とともに高い天井に届く程の大量の土砂を巻き上げ、そして重力によって地に、巻き上げられた土砂が落ちてくる。それを武田さんのヒカルが結界を張って受け止める。それを確認して、俺は『時間操作』タイプAを解除した。


「くはあ、悪いが俺はもう魔力ゼロだからな。これでシンヒラーが生きていたら、お前らで対処してくれ」


 とへたれ込むデムレイさん。流石にあの規模のスキルをバンバン放つのは無理だろう。


「これはやったんじゃないか?」


 ヒカルの結界で土砂の直撃を免れた俺たちは、フロアの半分を形成するに至ったクレーターの中心に埋まる隕石を見ながら、武田さんのそんな言葉をバックに、事の動向に身構えていた。が、これでどうにかなる程、甘くはなかったようだ。


 隕石のすぐ横に現れたのは魔法陣。


「ダイザーロくん」


「はい」


 言わずもがなとダイザーロくんが魔法陣にブリッツクリークのレールガンを撃ち込むも、そこから出てきた腕が、剣で弾丸を弾き飛ばした。マジかよー。と事の成り行きを見守れば、出てきたのは六本の腕を持った骸骨だった。あれが武田さんの言っていた中ボスだろう。そしてその中ボスが、手に持つ一本の剣で横の隕石を斬り崩すと、その中から、腕も足も使いものにならなくなった、満身創痍と言った感じのシンヒラーが現れた。だが消滅していないと言う事は、倒し切れなかったと言う事だろう。


 だがどうするか? ここで一気に攻勢に出るべきか? と逡巡していると、


「早く攻撃しなさい!」


 とその場にバヨネッタさんの声が響く。それによって弾かれるように二体のボスに全員が攻撃を撃ち込む。銃弾が、魔法が、熱光線が、二体のボスがいた場所に降り注ぎ、巻き上げられた土煙によって二体の姿が見えなくなったところで、その攻撃が止まり、土煙が引くのを待ち構えてる。


 しかして土煙が引いたその場所に、シンヒラーも中ボスもおらず、


「ふはははははは! 楽しいじゃねえか! やっぱり戦いは楽しくなくちゃなあ!」


 とクレーターから離れたところで声を上げるシンヒラーの姿があった。だがそれは今までのシンヒラーと少し違い、自身の使いものにならなくなった手足の代わりに、骨で出来た六つの腕と二つの足を備えていた。


「大ボスと中ボスで合体とかマジかよー」

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