第513話 強い役

 結局、地下四十階まで下りてきたが、ここまでにベイビードゥや他の大ボスとは出会う事もなく、また、鍵穴が二つの宝箱も見付からず、あとは台座にエメラルドの像を設置して、コンソールを操作し、ワープゲートを開くのみなのだが、そのコンソールのある部屋が問題だった。俺たちの前では雷の雨が降っている。


「ダイザーロ、行きなさい」


「そりゃあ、行くのは構いませんけど、俺じゃあ、台座のどこにどの像を設置すれば良いのか、分かりません」


 まあ、そうだろうね。


「それにバヨネッタさん、この片眼鏡で見た未来だと、この部屋には雷耐性のある怨霊が無限湧きするみたいで、ダイザーロくん一人で行かせるのは無謀かと」


「はあ」


 俺の説明に嘆息するバヨネッタさん。


「私、電撃系と相性悪いのよねえ」


 そうでしょうね。金は電気の伝導率も高かったはずだ。いや、待てよ。


「バヨネッタさん、予備の魔電ハイブリッドバッテリーとか持っていませんか?」


「持っているかと問われれば、持っているけど? …………成程」


 どうやら俺の意図が伝わったようだ。



「ふははははははっ! 楽勝過ぎて笑いが出るわね!」


 バヨネッタさん、テンションが凄えハイになっているなあ。まあ、それもそうか。バヨネッタさん一人で、俺たちへと迫る怨霊たちをバンバン撃ち落としている訳だし。


 俺の考えた作戦は簡単だ。まず俺たちの援護の下、ダイザーロくんに部屋の各所にバヨネッタさん作成の金の避雷針を立ててもらう。その避雷針を魔電ハイブリッドバッテリーと繋ぎ、魔力に変換。その魔力でバヨネッタさんが無双するだけだ。


 どうやら撃っても撃っても魔力量が減らないらしく、バヨネッタさんは『二倍化』でキーライフルを二つ、四つ、八つと増やすと、熱光線をどんどん撃ちまくる。


 そんな無双状態のバヨネッタさんの援護があって、俺たちは悠々と台座まで進む事が出来、デムレイさんが台座にエメラルドの像をさささささっと設置すると、コンソールの盤面が青く光り、そこに触れば、雷の雨と無限湧きの怨霊はスッと消えた。これでこの部屋もセーフティゾーンになったな。と思っていたが、そうではなかった。


「あれ?」


 地下二十階の時には、コンソールで無限湧きをを止めると、二つの青い光りが盤面に現れたのに、今回は何も現れない。


「あ」


 どうやら武田さんが何か言い忘れていたらしい。まあ、言わずとも分かるけど。何せ部屋の中央に、大きな魔法陣が出現したのだから。それが黄色い閃光を放ち、その魔法陣から、腕が四本ある黒いローブをまとった怨霊が現れたのだ。ここの中ボスか? ゾッとする威圧感に身が竦む。身体が動かない。これは!?


「『恐怖』……、だ。自身より……、レベルの低い相手、を、恐怖状態に……、して、行動力を……、下げるんだ」


 と武田さんが『恐怖』に耐えながら、必死に説明してくれたが、嫌らしいスキルだな。現在の俺はバヨネッタさんの『二倍化』でMPとレベル以外が二倍化されている。が、レベルが低い相手が対象なのであれば、俺がいくら強化されていても、動きに制限が掛かるので、意味がない。


 更にこの怨霊はその四本の手それぞれに、違う魔法を込めていく。恐らく地水火風だかの四属性を扱えるのだろう。


 ドゥゥゥゥゥンッッ!!


 まあ、そんな中ボスさんも、バヨネッタさんのキーライフル八連撃でイチコロだったけど。


「ふう…………。助かりました、バヨネッタさん」


「手応えなかったわ」


 言いながらバヨネッタさんは、中ボスが落とした鍵を拾い、俺に投げ渡してくる。


「どうします?」


「戻るわ。魔力はほぼ満タンだけど、精神的に疲れたし」


 まあ、それが良いかな。今ならベイビードゥも倒せそうな気がするけど、疲れているのは確かだし。そんな訳で俺たちは地上へ帰還したのだった。



「そうですか。情報ありがとうございます」


 俺はそうスマホに語り掛けながら、電話を切った。振り返ると、皆がちょっと大きめのこたつに入りながら、トランプでポーカーをしている。何故かバヨネッタ天魔国の保養施設となった旅館、その俺とミカリー卿、ダイザーロくんの部屋で。


「シンヤ父は何だって?」


 バヨネッタさんはブタだったようで、何の役も揃っていないカードを出しながら、俺に尋ねてきた。


「シンヤたち勇者一行が、ペッグ回廊の地下九十階を突破したそうです」


「ふ〜ん。そんな事を伝える為に、わざわざ電話してきたの?」


「まあ、嬉しかったんじゃないですか? 連絡と言うより、子供自慢って感じのテンションでしたから」


「ペッグ回廊の地下九十階って言うと、不死鳥だろ?」


 とデムレイさんが出した役は4と7のツーペアだ。それに合わせるようにカッテナさんが3とKのツーペアを出してきた。役としてはこっちの方が強いな。


「へえ。不死鳥なんですね」


 返事をしながら俺はバヨネッタさんの横に潜り込む。座り位置は俺の横にバヨネッタさん。ミカリー卿の横にダイザーロくん。武田さんとデムレイさんが窮屈そうに同じ場所で、カッテナさんが一人で座っている感じだ。初めカッテナさんは席を辞そうとしたが、バヨネッタさんがこれで問題ない。と言ったので、この座り位置になった。


「ああ。倒すと結構な枚数の不死鳥の羽根が手に入るらしい」


 そう言えばゼラン仙者が、金丹エリクサーの材料として、不死鳥の羽根を上げていたな。ここで手に入れていたのかな? いや、金さえ払えば冒険者が持ってくる。とも言っていたから、不死鳥はペッグ回廊以外にもいるのかも。


「悪いな、三人とも」


 俺がそんな事を考えていると、武田さんが2のスリーカードを出してきた。まあ、2でもスリーカードの方が役としては強いからね。


「それじゃあ私も」


 とそこに被せるようにミカリー卿が出してきた役は、5と9のフルハウスだった。流石はミカリー卿。


 これで残すはダイザーロくんだけだが、ダイザーロくんはぷるぷる震えながら、スッと五枚のカードを伏せる。


「負けました」


「そう言うの良いから、出しなさい」


 とバヨネッタさんが指を鳴らすと、五枚のカードはひるがえり、その役を教えてくれる。


「これは!! ロイヤルストレートフラッシュ!!」


「しかもスペードだぜ!?」


 ダイザーロくんが作った役は、スペードの10、J、Q、K、Aで作られた、最強のロイヤルストレートフラッシュだった。


「マジかよー」


「また、ダイザーロに負けたー」


「これで何連敗だろうねえ」


 などと男たちが口々に愚痴を漏らす。それもそうなるだろう強さだ。ダイザーロくんは今のを含めて五連勝しているし、勝てなかったとしても、作る役が強い役なのだ。変なところでリアルラックがあるけど、ここで運を使い過ぎて、戦いで死なないか心配になってくるな。

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