第506話 卑屈になる

 あ、レベルが上がっている。『鑑定(低)』で確認すると、今の戦いでレベルが二つも上がって四十になった。なったと言うか戻ったと言うか。でも今後の戦いの事を考えると、このアルティニン廟でレベルを五十オーバーにしておきたい。


「どうやら、レベルアップしたみたいだな」


 顔に出ていたのか、デムレイさんがそう話し掛けてきた。


「はい。これで俺もレベル四十です」


「ほう。俺も一つレベル上がったみたいだし、ボス戦にしてはそれ程歯応えがある相手ではなかったが、経験値は結構持っていたんだな」


 見ればデムレイさんも戦いでの傷が癒えている。いや、皆そうか。いやいや、ミカリー卿は元々だった。それにしても、


「そうですか? 俺は結構死にかけましたけど。あのサメみたいの、初めて見ましたけど、あんな事も出来るんですね?」


 と俺が尋ねれば、少し自慢気に口角を上げるデムレイさん。


「まあな。言ったろ、岩石を操るのは得意なんだよ。さっきのはハルアキの『清塩』と俺の持つ鉱物類を混ぜ合わせて造った人造サメだ。見た目は似せていたが、鉱物の種類を変える事で、『反撃』に対応させていたんだ」


 へえ、考えて攻撃していたんだ。


「そう言えばバヨネッタさんの黄金のドームが凄かったですけど、あれ、何だったんですか? エルデタータを閉じ込めたかったのは分かりますけど」


 話を振ると、こちらも勝ち誇ったような顔をする。


「私のキーライフルは熱光線を発射する武器よ。光線と言う性質上、鏡に反射するの」


 あの中鏡面になっていたのか。


「エルデタータはキーライフルの攻撃を、『反撃』で倍返ししてくるだろうから、それを結界で強化した鏡面ドームで弾き返せば、倒す事は難しくなかったわ。まあ、向こうも私みたいに結界を張ったり、『二倍化』で増えていたり強化していたりで、少しだけ時間が掛かったけど」


 成程、デムレイさんは敵に合わせて柔軟に戦法を変え、バヨネッタさんは己の攻撃がどのような性質であるかを理解しているから簡単に勝てたのか。


「それよりハルアキ、少し横目で見ただけだけど、面白い戦い方をしていたわね?」


「面白い戦い方ですか?」


 どこら辺だろう? と首をひねる。


「小さな転移扉を使っていたわね」


「ああ、それは俺も気になったな」


 とデムレイさんまで乗っかってきた。二人して悪い笑顔を見せているなあ。まあ、言いたい事は分かる。


「あの転移扉を使えば、フロア内の行き来ももっと楽に……」


「お断りします」


「…………話の途中なんだけど?」


 半眼で見られても、転移扉で移動するのはなしだ。


「気にするな、工藤。この二人も断られるのは前提で言っているからな。でなければ、お前の転移扉より先に、俺の『転置』を利用しようとしている」


 武田さんの言に大きく頷く。それは確かにそうだ。でもそんな事をすれば、転移先でトラブルが起こる事を理解しているから、武田さんに『転置』を使うようには頼まなかったのだろう。


「ちょっと、つまらないネタバラシはやめなさいよ」


「工藤も真面目だから、からかい甲斐があるのは認めるが、やり過ぎると嫌われるぞ」


「それはないわね」


 そこは言い切るんだ、バヨネッタさん。自分に自信があるのか、俺を信じてくれているのか、ここは信じられていると信じておこう。


「あの」


 そんな戦いの後の雑談に、ダイザーロくんとカッテナさんが入ってきた。


「お二人もお疲れ様でした。すみません、すぐに加勢に行かなくて」


「本当よ」


 うう。バヨネッタさん、チクチクが痛いです。


「いえ、今回は自分たちの不甲斐なさが招いた事です。本来であれば、弱い俺たちの方こそ、先に敵を仕留めて、加勢に向かわなければならなかったんです」


 ダイザーロくんに同調するように首肯するカッテナさん。んん? なんか二人して思い詰めている?


「あの、ここから先は俺たちに戦いを任せて貰えませんか?」


「それは出来ないけど」


「え!?」


 俺の返答に驚きで返す二人。


「そうですよね。俺たちなんて別にいてもいなくても……」


 意外だな。ダイザーロくんでも卑屈になる事あるんだ。


「別に戦うなとは言ってないよ。独断専行を許していないだけ。ここから先は一致団結しないと乗り越えられない。それだけの話だよ」


 俺がそう説明しても、二人の顔は納得していない。まあ、気持ちは分からんでもないけど。


「ダイザーロくんとカッテナさんからしたら、俺たちは強く見える?」


「え……、はい」


 うん、今武田さんを確認してから頷いたね。まあ、良いけど。


「じゃあ、この面子なら魔王にも勝てると思う?」


「はい」


 え? 即答? そう言う認識なの?


「それじゃあ、何の為にこのアルティニン廟を踏破しようとしていると思っていたの?」


「地下界の豊富な魔石資源を確保する為では?」


「ああ、うん。それはそうなんだけど。それだけでなく、俺たちも今より強くならないと、魔王に太刀打ち出来ないから、自身のレベルアップも目的に入っているんだよ」


「そうなんですか!?」


 二人してめっちゃ驚いとるな。


「それにベイビードゥやエルデタータと戦って、ここのボスが一筋縄でいかない事は、理解出来ているじゃない」


「でも、皆様我々より先にエルデタータを倒しておられましたし」


「さっきの戦いは運良く倒せただけだよ」


「運良く、ですか?」


 ピンときていないみたいだなあ。


「エルデタータが分体にならずに、単体で襲ってきたら、俺たちは一瞬で全滅していたよ」


「え?」


 驚きながら二人は俺以外の仲間を見渡し、それぞれが頷いている事にまた驚いている。


「このアルティニン廟ってところは、それだけヤバい場所って事。俺たちだって気を抜いたら、次の瞬間死ぬかも知れない。だからこそ俺たちも強くならないといけない。ここより先は更にヤバいだろうからね。二人だけに戦いを任せて、レベル上げを疎かにしていたなら、俺たちの方が二人より先にやられてしまう。だから、二人だけで頑張るとか言わずに、皆で強くなっていこう」


 俺の発言は二人からしたら衝撃だったようだが、一応納得はしてくれたらしく、今後もこれまで同様に戦っていく事が決定した。

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