第499話 宝箱の中身
鍵の掛かった宝箱に入っていたのは、
「スイッチ?」
クイズに使うあれではなく、先端にボタンの付いた取っ手である。取っ手は鍵同様に装飾されていて、その中でも目を引くのが、中心に並んだ五つの魔石だ。その魔石が光っている。
「これは……何?」
『我に聞かれても分からぬが?』
ですよねえ。まあ、何であれ、このダンジョンのキーとなるギミックである事は間違いないが、これがプラスのギミックなのか、マイナスのギミックなのか。
『下手には押せぬよな』
そうなんだよねえ。これで良からぬギミックが作動しないとも限らないし、ある一定の場所で使用するものかも知れない。使いどころがどこなのか謎過ぎる。なので『空間庫』行きでーす。
「さて」
俺が入ってきた入り口以外に、出入り出来る入り口が二つある訳だが、どちらへ行くべきか。俺は恐る恐る両方の入り口から顔を覗かせるが、今度は上からギロチンが落ちてくるような事はなかった。ホッとしながら二方向を確認したが、両方魔物も罠もない。なので『清塩』で塩の塊を作って放ってみる。
南の方はこれまたジャキンジャキンと刃物の飛び出てくる仕掛けで、西の方からは魔法陣から魔物が出てきた。なら魔物かな。聖属性の俺とここのアンデット系魔物は相性が良い。向こうからしたら相性最悪だろうけど。なので魔物の出現した西の方へ突入していった。
出来るだけ早く武田さんと合流したくて急ぐ俺を嘲笑うように、魔物の出現した通路も、両壁がじわじわと迫ってくる。前の落とし穴もそうだが、どっちにもこう言う二段構えの罠があるとか、このダンジョンを作ったダンジョンメイカーのカヌスは、世界を恨んでいたんじゃないのか?
『一度開いた竜の口も、易々と閉じさせなかったしな』
くっ、愚痴をこぼしていても仕方ない。とにかく全速力でダッシュだ。俺は『時間操作』タイプBを使って、己の速度を上げ、魔物だらけの一本道を駆け抜けていった。
ドシン……。
俺が駆け抜けていったすぐ後に、振り返れば通路はなくなっていた。魔物たちは諸共ペシャンコだろう。
「はあはあ。このダンジョン殺意高過ぎる」
『今度は大部屋だな』
アニンの言葉に振り返ると、またまた出てくる魔物たち。そして下がってくる天井にはぶっとい針が生えている。
『お、ハルアキ、宝箱があるぞ』
もう! 情報量が多過ぎるんだよ! と心の中で叫びながら、キョロキョロすれば、俺が入ってきた通路の反対側に出口、そして左右に宝箱があった。
「グオオオオッ!!」
迫るゾンビを斬り伏せ、
「舐めるなよ!!」
と俺は部屋の中央まで進み出ると、円柱状に『聖結界』を展開した。
「ふははははは!! これで天井も落ちてこれなければ、魔物どもも攻撃出来まい!」
そうやって声を張り上げて、から笑いをする俺を、
『虚しくないか?』
とたしなめるアニンだった。やめろ! 今そんな話をしたら、『有頂天』状態が解けるじゃないか!
『それはすまなかった』
十分程経過しただろうか? スマホでひと遊びしていたら、大部屋が魔物でギチギチになっていた。
「凄えな」
思わずそんな声を漏らしたが、俺には関係のない話だ。今からこいつらを滅するだけだし。と俺は円柱状にしていた『聖結界』を、部屋中に広げる。何故部屋に入ってすぐにそれをやらなかったのかと言われれば、先に部屋中に『聖結界』を展開した場合、床の魔物を出現させる魔法陣がどうなるか? それが気になったから避けたのだ。まあ、大丈夫だろうけど、このダンジョン殺意高めだからなあ。それに魔物を倒せば魔石が手に入るしね。って事で、倒した魔物たちの魔石を、掃除機に吸わせてから、俺はゆっくりと宝箱の吟味をする事とした。
「宝箱、結構な数あるな」
『うむ。片方に五個ずつで、計十個か』
まずは右の宝箱の方へ進むも、どれも鍵が掛かっていて開かない。それを確認してから左の方の宝箱へ向かうと、こっちの宝箱は全て鍵が掛かっておらず、当然のように中身も全て鍵だ。
「うわあ、いやらしい」
『カヌスの最後のダンジョンらしいからのう。今までの集大成なのかも知れぬな』
だとしても、中々の病み具合だ。そう思いながら右の宝箱まで戻る。
「さて、これだけ宝箱があるんだから、一個くらい鍵で宝箱を開けてみるか」
『良いんじゃないか?』
だよねえ。って事で、右端の宝箱を、装飾された鍵で開けてみた。
カチャン。
と言う音とともに鍵が光となって消滅し、その光が宝箱に吸収されたかと思うと、宝箱がひとりでに開き、中から黒々とした煙が立ち上った。そしてそれは形を成し、魔物へと変わる。
バギンッ!!
同時に破壊される『聖結界』。嘘だろ!? 『有頂天』状態の『聖結界』が破壊されるレベルの魔物かよ!?
見た目は真っ黒で頭が二つある犬の魔物だ。オルトロスってやつだな。オルトロスは確かアンデット系ではなかったはずだ。三つ首のケルベロスなら冥界の番犬だけど。
「グルアアアッ!!」
ギュインッ!!
その鋭い爪と牙で襲ってくるオルトロス。速い! レベルも高いのだろう、目が追い付かない。攻撃力も高く、アニンのバトルスーツの上から、その爪と牙が食い込んでくる。
「くっ」
このままでは、と俺はアニンをバトルスーツから二百丁の銃に変化させると、四方八方へ滅多撃ちさせる。相手もひるんでくれたら儲けもの。
「グルアアアッ!!」
お構いなしに突っ込んできたな。が、それでも『逆転(呪)』のお陰で多少弾丸が効いて、速力を落としてくれたのはありがたい。これならば、と俺は五閘拳・重拳の為にぐるりと全身で円運動を行う。間に合え!
「グルアアアッ!!」
重拳の予備動作で無防備だった俺の左腕にオルトロスが食らいつき、当たり前のように左腕を引きちぎる。だからどうした。もう予備動作は終わっている!
ドゴンッ!!
俺が重拳で思っいっきりオルトロスを蹴り上げると、奴はべシャリと天井の針に縫い付けられ、その動きを止めた。今! とアニンを手元に戻すと、曲剣へと変化させてその二つの首を斬り落としたのだった。
「はあ、はあ、はあ、…………きっつ」
俺が右手両膝を床について息を整えていると、
『どうするんだ、あの宝箱。天井がどんどん迫ってきているが?』
とアニンが急かす。ぐぬぬ。と思いながらも、俺はちぎれた左腕をハイポーションで治すと、残る四つの宝箱を、アニンで解錠し、中身を良く確認もせずに『空間庫』に入れて、大部屋から脱出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます