第493話 国名決定

 いくら合議制だからって、多数決で決定するなよ。全会一致にしろよ。五対四でバヨネッタ王国が誕生してしまった。


「どうするんですか、バヨネッタさん! 本当にバヨネッタ王国が誕生してしまいますよ!?」


「そうね。バヨネッタ王国にするか、バヨネッタ帝国にするか、バヨネッタ皇国にするかで迷うわね。いっそバヨネッタ天国にしようかしら?」


 そこはどうでも良いよ!


「だから運営はどうするんですか? って話ですよ!」


 俺が吠えると、全員の視線が俺に向けられた。その目が、お前がどうにかしろ。と訴えていた。いや、ミカリー卿とデムレイさんは楽しそうに見ているけど。大の大人が高校生に国家運営を頼るな! そんなんなら、そりゃあバヨネッタさんを国王に推すよ!


「はあ。じゃあ俺が首席宰相、略して首相って事で本当に良いんですね?」


 バヨネッタさん含め、全会一致である。何じゃそりゃあ。


 仕方ないので俺は色々決め事をと、空いている席に座ろうかと思ったのだが、円卓にそんな席はない。当然か。と思っていると、バヨネッタさんが自分の分と俺の分の席を『金剛』と『黄金化』によって作ってくれた。円卓を一望できる一段高い場所にだ。当然バヨネッタさんの席の方が豪華である。玉座だ。まあ、何であれ、これで少しは落ち着いて合議を進められる。


「もう一度確認しますが、あなた方は使徒バヨネッタの下、再び国家統一を果たす。と言う方針に異論はありませんね?」


 バヨネッタさんが国王になる事に賛成した五人はもちろん、反対した四人の王様にも視線を向けるが、一度決定された決議に反論はないらしく、四人からも首肯で返された。


「分かりました。ではここにおられる九名の王様には、これからも王様として領地運営を行って貰います」


「我々は王のままと言う事ですか?」


 コルト王国のチーク王から当然の質問がなされた。


「はい。役職名としては使徒バヨネッタに恭順する臣下、そうですねえ、臣王と言う役職名を名乗ってください」


「分かりました」


 と九人が首肯する。物分り良過ぎだろ。それとも使徒ってそれだけ敬われる立場なのか?


「やる事も特に変わりません。九名の臣王による合議制で再統一されたこの地の運営を行ってくれれば問題ありません」


 九人が再度首肯する。


「私は何をすれば良いのかしら?」


 とそこへバヨネッタさんが頬杖突きながら口を挟んできた。


「運営に携わりたいんですか?」


「面倒事には携わりたくないわねえ」


 でしょうねえ。


「バヨネッタさんには王の上に君臨する立場となられるので、皇帝を名乗って貰います」


「バヨネッタ皇帝、皇帝バヨネッタ、バヨネッタ皇、バヨネッタ帝、う〜ん」


 バヨネッタさんは顎に手を当てて考え込む。言い方としてはバヨネッタ帝になるのかな。オルドランド帝国のジョンポチ帝と同じになるけど、あそこって、帝国と名は付いているけど、実態は大きな王国なんだよなあ。昔は帝国として、諸侯王みたいなのを各地に置いていたみたいだけど、それも侯爵などの爵位に置き換わっているし、ジョンポチ帝も帝ではあっても皇帝ではないので、一度も自らも周囲も皇帝と呼んでいない。まあ、ここは異世界だから、色々あるよね。天国だってあるんだし。


「ハルアキ、私って天使が使徒と任じた魔女なのよね?」


「そうですね」


「なら私は、天よりこの地を治める為に遣わされた魔女、天魔って事でどうかしら? 天魔バヨネッタ。凄く良いと思わない?」


 何言っているんだこの人。と思っているのは俺だけのようで、九人の臣王たちは歓声を上げて拍手している。ああ、なんだかなあ。これを止められる人間がここにいないよー。ちらりと武田さんを見ても首を横に振られてしまった。頭痛い。


「では天魔陛下。この国の名はバヨネッタ天魔国と言う名称でよろしいでしょうか?」


 俺はあえて恭しくバヨネッタさんに頭を下げて、この話に乗っかる事にした。


「そうね、それで良いわ」


 そうしてバヨネッタさんは、黄金の玉座より臣王たちを見回してこう宣言したのだ。


「この国は今よりバヨネッタ天魔国となった。その旨、しっかり布告なさい」


 巻き起こる拍手に、俺の頭痛は更にズキズキと俺を痛め付ける。


「ええ、天魔陛下」


「何かしら?」


 機嫌良さそうだなあ、バヨネッタさん。


「国名が決まりましたので、次の議題と行きたいのですが?」


「次の議題?」


「とりあえず国家運営の基盤と、金毛の角ウサギの事は決めておかないと」


 これに鷹揚に頷くバヨネッタさん。思い出してくれたらしい。俺たちがここへ来た理由を。


「金毛の角ウサギの事は確かに決めなければならないけれど、国家運営に関しては、さっきハルアキが話した通りで良いのじゃないの?」


「あれは基本的な部分で、あれをそのままにすると、合議によって天魔陛下を引き摺り下ろす事も可能となってしまうのですが」


「すぐに決めましょう」


 俺は恭しく頭を下げる。


「まず、天魔は臣王の絶対的上の立場であり、陛下自らの意思による譲渡か、陛下が逝去なされた場合以外に、この地位を得る事が出来ないように、この場で決定させましょう」


 これにバヨネッタさんと九人の臣王も同意し、これは速やかに議決された。


「更に天魔陛下は基本的に国家運営には関わらない方針を自ら仰られておいでなので、陛下には国家の顔、象徴として君臨して戴きます」


 これに頷くバヨネッタさん。これは天皇が日本の政治に口を挟まないのと似たようなものだ。


「ですが天魔陛下におかれましては、場合によっては、その意を臣王による合議を通さず、直截臣王や天魔国国民に下さねばならない場合もありましょう。なので、陛下に天魔勅令の権限を持たせる決定を」


「それは良いわね」


 とバヨネッタさんが九人の臣王を見遣れば、あっという間に議決が下され、バヨネッタさんに絶対的権限がもたらされたのだ。それに口角を上げるバヨネッタさん。


「これで色々話を通すのが楽になったわ。ではまず、この場で私が勅令を下すわ」


「へ?」


 いきなりかよ!?


「私の腹心であるハルアキ首相に、天魔より下で臣王より上の地位を与え、ハルアキにも、合議を通さずに臣王、国民に命令を下す権利を与えるわ」


 ええええええ!? いや、九人の臣王たちからも拍手が巻き起こっていますけど、それで良いのか!? バヨネッタさん、にやにや顔でこっちを見ないでください。どうなる俺の人生。

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