第488話 解決の糸口

 俺たちは一旦サングリッター・スローンに戻り、操縦室で気持ちを落ち着けていた。


「これは超長距離射撃しかないですね」


 と俺は武田さんを見遣る。


「何だよ?」


「ガイツクールがまだ余っているんですけど」


 思いっ切り顔をしかめられた。


「俺にガイツクールと融合して、超長距離射撃をしろと?」


 俺は首肯する。


「さっき言ったように、俺は遠距離型じゃないんだよ。それにそのガイツクールって、武闘大会だっけ? それの景品だろう?」


 まあ、それはそうなんだけど、かつて勇者だった武田さんがガイツクールと融合して強くなるのは、魔王軍との戦いにおいて有意義なんだよなあ。


「ガイツクールに関しては、工藤一人で決められる事じゃないはずだ。諦めて他の案を出せ」


「どうせ内心じゃあ、あの金毛の角ウサギが怖いからやりたくないんでしょう?」


「うるさいなあ」


 否定しないのかよ。まあ、あの根源的恐怖は拭えないよねえ。あと遠距離となると、やっぱりバヨネッタさんになるんだけど、サングリッター・スローンじゃあ、角ウサギが丸焦げどころか跡形も残らない。う〜ん。カッテナさんに『千里眼』みたいな空間把握系のスキルを獲得して貰うか。と俺が頭を悩ませていると、


「この飛空艇の砲撃がどのくらいのものかは知らないが、この飛空艇の性能であれば、セクシーマン山から、ここハーンシネア山脈までを見通す事は出来るのか?」


 とバヨネッタさんに尋ねてきたのはデムレイさんだ。


「元々この船は、魔王のいる魔大陸へ、その対岸のパジャン国などがある東大陸から一撃当てられるように設計されているから。国一つなら、複数のドローンを経由して、目標を確認する事は可能よ」


 おお、凄いな。山を半分吹っ飛ばす性能の砲撃を、高精密に出来る高機動飛空艇とか、改めて考えてもとんでもないよなあ。


「だったら、バヨネッタはその性能で金毛の角ウサギの位置を特定して、あの骸骨騎士と戦っていた時に使っていた長銃で、セクシーマン山から撃ち抜けないのか? あれなら、砲撃と違って角ウサギの死体も残るだろう」


 デムレイさん頭良いな。サングリッター・スローンはバヨネッタさんのガイツクールであるリコピンが動かしているのだから、リコピンと融合しているバヨネッタさんなら、キーライフルでセクシーマン山から、ここまで狙えるんじゃって話か。


「無理ね」


 無理だった。


「キーライフルは熱光線を撃ち出すのだけど、熱光線が大気との摩擦で減衰するから、キーライフルレベルの熱光線だと、このハーンシネア山脈まで届かないのよ。たとえ限界突破しても無理」


 魔女必殺の限界突破をしても無理……なのか?


「バヨネッタさん、ツヴァイリッターを使えばどうでしょう?」


 俺の提案に、バヨネッタさんの目が見開く。


「そうね、ツヴァイリッターならガイツクールリンクシステムで、ハルアキと繋がって、その分魔力量も増えるから、限界突破でここまで熱光線を届かせる事は可能かも知れないわね」


 バヨネッタさんのこの発言に、場がにわかに沸き立つ。


「でも、当てるとなると相当に難しいわ。何せ相手はそれなりの速さで動くのだから」


 確かに。相手は基地やら城みたいな建造物ではなく、動く角ウサギだ。しかもなるだけ生前の状態を残した形で殺したい。そうなると頭か心臓を狙い撃つ事になる訳で、本当に神業が必要になってくるな。ウルフシャの凄さが分かるし、その後二千年以上誰も金毛の角ウサギを狩れなかった理由も分かる。


「セクシーマン山からの超長距離射撃をするとして、限界突破で何回撃てますか?」


「それはハルアキ次第ね」


「俺次第、ですか?」


「ハルアキは確か『有頂天』状態で、体内の坩堝を三つまで開放出来るのよね?」


 ああ、つまり、チャレンジ出来る回数は三回って事ですね。


「『有頂天』状態にならなきゃ駄目ですかね?」


「精度は上げておくに越した事はないでしょう」


 ですよねー。となると、更に精度を上げる為にも、金毛の角ウサギには一ヶ所に留まっていて貰わなければ困るなあ。


「一ヶ所に追い込んで撃つなら、巻き狩りだな」


 デムレイさんの発言に、皆が首肯する。巻き狩りや巻き狩り猟と呼ばれる狩猟方法がある。これは地球でも洋の東西を問わずに行われる狩猟方法だと思われるが、要するに人間や狩猟犬が獲物を一ヶ所に追い込み、そこを殿様や貴族などが撃ち落とす狩猟方法である。異世界でもやられているんだな、巻き狩り。


「問題は人数だね。相応の報酬を支払えば、オヨボ族も手伝ってくれるだろうけど、それでもあの金毛の角ウサギを囲うには人が足りないだろうねえ。何せ全く近付けないんだ。ビチューレ小国家群や、モーハルドからも人を集めるかい?」


 懸念を示すミカリー卿。他の皆も同様だ。あの金毛の角ウサギの『威圧』は、その範囲から考えて百人二百人程度で取り囲めるものではない。もっと大人数で取り囲まないと、無理だろう。が、バヨネッタさんはそこに不安を感じていないように不敵な笑みをみせていた。


「ウサギを囲うのは問題ないわ。ハルアキ」


 はあ。そりゃあこっちに振られるよなあ。皆が何かあるのか? って顔でこっちを見ている。あるにはあるが気乗りはしない。


「ミデン、ですか?」


 俺の言葉ににっこり頷くバヨネッタさん。我が家の魔犬ミデンは、今、実家で飼われている訳で、それは実家に行かなければならない訳で、はあ、気乗りしない。

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