第484話 三度目の……

 サングリッター・スローンに乗って、やってきましたアルティニン廟。これで三度目かあ。


「武田さん、こう言うの、何て言うんでしたっけ?」


「二度ある事は三度ある。か?」


「三度目の正直。とは言ってくれないんですね」


「工藤の英雄運のせいで、面倒臭い事が起こる予感しかしないな」


 酷い言われようだ。俺だって好きで英雄運のギフトを持って生まれてきた訳じゃない。


「じゃあ、試してみますか」


 と俺が『空間庫』からアルミラージの入った瓶を取り出した時点で、アルティニンの目の色が変わった。これは当たりだろう。と瓶のフタを開ければ、早く食べさせろ。とばかりにアルティニンがよだれを垂らしながら大口を開ける。


「おお! 開いた!」


 皆で喜びあったのも束の間の事であった。ドバッと背中から溢れる冷や汗と、『瞬間予知』で見た未来の映像から、俺は素早く『聖結界』を展開させる。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ッッッ!!!!


 炎、雷、氷、岩、更に光線まで混じった様々な魔法が、アルティニンの口の向こうから攻撃を仕掛けてきたのだ。その攻撃の強度からして、レベル四十を超えている。『聖結界』と『逆転(呪)』がなければ俺たちは全滅させられていただろう。


「完全に待ち伏せされていたんですけど!」


 俺は武田さんを睨んだ。


「奴の仕業だ!」


 と武田さんは魔物の集団を睨んでいる。


「カッテナ! 早く竜の口を閉じなさい! 一度撤退するわよ!」


 バヨネッタさんの命令に、しかしカッテナさんは動かない。いや、動けないのだ。恐らく直感で相手とのレベル差を感じ取ってしまい、身が竦んで動けないのだろう。


「おやおやおや? 五十年振りの来客だから、盛大に持て成してやろうと思ったら、何でお前がここにいるんだ? セクシーマン」


 ぞろぞろとレベル四十オーバーの骸骨やらゾンビやら悪霊やらを従えて、骸骨騎士は抜き身の剣を手で叩きながらそう宣った。武田さんを知っているのか。「奴の仕業だ」はこいつか。しかし強いぞこの骸骨騎士。多分レベル五十の上限解放している。


「ベイビードゥか。あの時倒したと思ったんだがな。生きてのか?」


「死ぬとか生きるとかじゃないのさ。元からな。だからこうやって復活した。それに比べて、お前は弱っちくなっちまったなあ?」


 俺の後ろの武田さんが歯ぎしりしている。が言い返しはしない。出来ないのだろう。


「はっ。あんたがどこの誰か知らないけどね。そこを退かないと言うなら、痛い目見るわよ」


 バヨネッタさんの言にケタケタ笑う骸骨騎士。


「女あ、さっき逃げるって言ってなかったか?」


「一時撤退するって言ったのよ!」


 これには骸骨騎士の後ろの魔物たちも大笑いしていた。


「なめんじゃないわよ」


「バヨネッタさん、ここを壊したら、レベル四十オーバーの魔物たちが、野に放たれる事になるので、ご勘弁を」


 サングリッター・スローンの坩堝砲なら、骸骨騎士以外は一掃出来るだろうが、骸骨騎士の軍勢がこれだけとは限らない。


「じゃあ、どうしろと言うのよ!」


 それを考えているんです! 何かないか? 何かないか? 俺の『聖結界』でこいつらを閉じ込めている間に手を打たないと。何か、何か何か…………!


「ウサギ!」


「はあ?」


 その場にいる全員が首を傾げた。


「気でも触れたか?」


 触れてません武田さん。マジ顔で心配しないでください。


「アレキサンドロス大王とアルミラージ、角ウサギの逸話は、話しましたよね?」


「ああ」


「あの逸話に出てくる角ウサギ自体にも逸話があって、そのウサギを目にすると、猛獣たちも逃げ出すと言うんです!」


「つまり、このアルティニンも角ウサギが苦手である可能性があると?」


 武田さんの質問に俺は首肯で返す。


「ありえるな。でなければ、二千年以上もウサギをポーションに漬けて保存しておく理由がない」


 全員が首肯する。骸骨騎士が歯ぎしりしているって事は、当たりかな?


「しかしだ。お前ら今、角ウサギ持っていないだろ?」


 とケタケタ笑う骸骨騎士。


「お前ら! 今のうちにこの邪魔な結界をぶっ壊しちまえ!」


 骸骨騎士の命令に、ときの声を上げた魔物たちが、一斉にこちらへ向かって攻撃してきた。いくら『逆転(呪)』があっても、この物量では長く持たないぞ。


「二分持たせろ! すぐに取ってくる!」


 と武田さんが『転置』で瞬間移動したところで、バヨネッタさん、ミカリー卿、デムレイさんが『聖結界』の中に入り、戦闘を開始した。バヨネッタさんはキーライフルで、ミカリー卿は魔導書で、デムレイさんは岩を身体にまとって戦っている。デムレイさんの戦っている姿は初めて見たが、あれがスキルなのかな。


 それに遅れる事数秒で、ダイザーロくんとカッテナさんも『聖結界』の中に飛び込んでいく。俺はこの『聖結界』の維持で精一杯で、戦闘に参加出来ずにいた。何せドンドンとアルティニンの口の中から魔物が出てくるのだ。それにしてもアンデッド系ばかりだ。流石はアルティニン『廟』だな。


 それにしても、俺に出来る事は他にないか? 考えろ! 考えろ! 考えろ! ……!!


「これならどうだ!」


 と俺が『空間庫』から取り出したのは、オルドランドのベフメ伯爵領で手に入れた、ライオンよりも大きな角ウサギの魔石だった。これにアルティニンが反応して、開けたままにしていた口が少し動いた。それを見逃さなかったカッテナさん。


「はああああ!!」


 高く飛び上がったかと思うと、ライダーキックのような蹴りをアルティニンにかまし、『反発』によって強引にその口を塞いだのだ。


「良いわよ! カッテナ!」


「はい! でも長くは保ちそうにありません!」


 大きくても普通の角ウサギでは駄目か。逸話ではアレキサンドロス大王に贈られたウサギは、角は黒く、毛は黄色か金色だと言われているからな。特殊個体なのだろう。


「チッ! まずは竜の口を閉じている女から狙え!」


 骸骨騎士の命令で、魔物たちがカッテナさんに迫る。が、一瞬にしてその場から消えるカッテナさん。


「待たせた!」


 振り返れば武田さんと、その横にカッテナさんがいた。


「預かってきたぞ! 角ウサギの肉だ!」


 言って武田さんがポーション漬けのウサギ肉を掲げれば、再び開こうとしていたアルティニンの口が徐々に閉じていく。


「チッ。今回はここまでとしておくか。撤収だ!」


 骸骨騎士はアルティニンの口が閉じ切る前に、自身とともにアンデッド軍団を口の中に撤収させたのだった。


「はあ。何とか乗り切りましたね」


「どうだかな」


 その場にへたり込む俺相手に、武田さんは不穏な事を口にする。


「切り刻まれたウサギ肉だからな。持って数日だと考えておいた方が良いだろう。その間に竜の口をしっかり閉じさせる方法を見付けないと」


 ああ、もう。今度はそっちか。となると、やるべきは分裂したビチューレ王家それぞれで管理されている角ウサギ肉の回収か。それが無理なら、特殊個体である黄金の角ウサギを捕まえるしかないな。

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