第456話 対東部将軍(中編)
地面から飛び出す無数の大剣に衝撃波。しかし飛び出してきたのは大剣だけではなかった。その大剣と衝撃波に吹き飛ばされるように、黒衣を着た戦士たちが地面から飛び出してきたのだ。
「優しいんだな」
着地して発した俺の一言に、イヤルガムは大剣を地面から抜いて肩に担ぎ直す。
「手柄の横取りをされたくなかっただけだ」
と地面から吹き飛ばされた、どこの候補者の戦士か分からない者たちを、足で退けながら語るイヤルガム。別に次期教皇候補になれるのは一人だと言った覚えはないんだけどなあ。と俺は地面に転がる戦士たちを見ながら思う。この戦士たちに気付いていなかった訳ではない。最優先がイヤルガムとの戦いだっただけだ。地面の中に隠れるなんて中々だが、俺には重拳があるので、それだけなら楽に倒せただろうからだ。
しかしどうしたものか。あの大剣は地面から無数の大剣を発生させる魔導具だろう。衝撃波を生むイヤルガムのスキルと合わさり、相当厄介な代物になっている。そう言えば、あの異様な膂力も気になるところだ。『怪力』も持っているのかも知れない。モーハルド人にしては珍しいスキル二つ持ちか。まあ、俺も初めてデウサリウス像に拝んだ時には、『聖結界』と『回復』の二つを授かったし、いない訳ではないよなあ。しかし高レベル者との戦闘は一筋縄ではいかない。
「どうしました? 来ないならこっちから行きますよ」
言ってイヤルガムが一気に俺との距離を詰める。眼前に迫ったイヤルガムから横一閃に振るわれる大剣を、俺は海賊曲剣で上にかち上げ軌道を逸らす。そしてその勢いのままに俺は身体を回転させて、もう一度下から曲剣を斬り上げるが、イヤルガムも同様に身体を回転させており、剣閃の流された体勢を立て直して、アニンの曲剣とイヤルガムの大剣がぶつかり、両者の間に火花が散り、同時に大剣の衝撃波と重拳の重力で周囲の地面がへこむ。
「ぜいやッ!!」
「はっ!!」
気合いとともに剣を斬り結ぶイヤルガムと俺。俺たちが動く程に重力と衝撃波が辺りに撒き散らされ、足元がガタガタになって動き辛さが増していく。それを俺は嫌い、イヤルガムから回転しながら距離を取ると、重拳でもって周囲一帯を押し潰し、地均しを行う。
重拳の重力圏内にいるはずのイヤルガムだったが、その並外れた膂力でこれに耐えると、大剣を地面に突き刺し、無数の大剣が列を成して地面から突き出してきた。俺はそれをアニンを大盾にする事で、受けると言うよりも己が吹き飛ばされる形にして、大剣から発生する衝撃波を受け流す。
「やりますなあ!」
凶悪な笑顔で一度地面から大剣を抜いたイヤルガムは、大剣を肩に担ぎ直すと、その大剣を直ぐ様上段から地面に再度つき刺す。すると俺を取り囲むように地面から飛び出してくる無数の大剣。これは罠だ。これだけの数の大剣で全方位から攻撃されては、たとえアニンの大盾で自分を囲って防いだとしても、先程の一直線の攻撃と違い、その衝撃波を逃がす先がなく、大盾を貫通して俺にダメージを与えてくる。そうなると上に逃れるしかないが、そうすればイヤルガムは衝撃波を放ってくるだろう。空中だと翼を出しても衝撃波に体勢を崩され、次手が不利になる。とは言え、ここは上に逃れるしか手がないか。
俺は地面から飛び出してくる大剣から逃れる為に、翼を出して上に飛ぶ。だがイヤルガムの次手は、俺の予想の斜め上だった。再び地面に大剣を突き刺すイヤルガム。そこから、大剣よりも更に大きな、大地そのものが剣となったかのような巨大な剣が、俺に向かって飛び出してきたからだ。
(いきなり決めにきたか!)
俺はどうやってこの絶体絶命の危機を打開するか、脳を高速回転させる。『有頂天』を使えば全能力が向上して、この状況を打開する事は出来るだろう。しかし出来るなら奥の手は隠しておきたい。デーイッシュ派の動向が気になるからだ。奴らが教皇を輩出する機会をみすみす逃すとは思えない。この後に何かしら手を打ってくる時に、ここで『有頂天』を使って、いざと言う時に使えないのでは笑えない。ならどうする? どうする!?
「器用ですね」
俺の行動にイヤルガムは呆気に取られながら、そんな一言をこぼす。
「はは。ぶっつけ本番だったけど、何とかなるものですね」
俺は自分に迫る巨大な剣を、『空間庫』を開いて収納させたのだ。まさか出来るとは思わなかった。普通は攻撃には相手固有の魔力が浸透しているので、『空間庫』には収納できない。生物が『空間庫』に収納出来ないのもそれが理由だ。魔導具が収納出来るのは、生物の魔力が動的で、魔導具の魔力が静的であると言う違いもある。例外的に庭型『空間庫』やオルさんの
「じゃあ、返しますね」
俺がぽつりと一言放つと、大剣を正眼に構えるイヤルガム。そこへ巨大な剣が俺の『空間庫』から降ってきた。
「はあああっ!!」
イヤルガムはそれを大剣で受け止める。大剣の衝撃波で崩れていく巨大な剣だったが、それでも質量の差は
「ぐは……っ!」
前方の巨大な剣と後方の俺の掌底に挟まれて、潰されるイヤルガム。それでも巨大な剣は止まらず、俺はその場から上空へと飛び去り逃げる。
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