第446話 女の対決(後編)
「ユニコーンの角は特殊な薬の素材だ。
とは観戦している武田さんの言。成程。神鎮鉄のようなものか。病気の中にはバァによって引き起こされた紫斑病やブンマオ病、ベナ草の病気のようにスキルによって引き起こされるものもあるものな。
「ユニコーンの角が反魔法なら、武田さんの紫斑病も治せたんじゃないんですか?」
「ははは。言われているねえ、セクシーマン」
とはミカリー卿だ。これに対して武田さんは嘆息している。
「別に使わなかった訳じゃねえよ。普通に常用していたさ」
でも治らなかったのか。
「さっきも言ったが、ユニコーンの角は反魔法だ。スキルもギフトも無効化される。工藤、ギフトにどんなものがあったか覚えているか?」
「ギフトに、ですか?」
そんなの人それぞれだろ。俺の『超時空操作』に『清浄星』。シンヤの『覚醒』にカッテナさんの『反発』。それぞれだ。…………いや、『英雄運』は百人に一人が持っているんだっけ。そうか!
「『五体』と『五感』ですね」
「そう言う事だ。反魔法のユニコーンの角を使い過ぎれば、『五体』と『五感』に異常をきたす。だからこそ薬師のガドガンに、用法用量を決めて貰って、微量を服用していたんだ。だがそれでは紫斑病には勝てなくてな。ま、こんな事になっちまったって訳だ」
「そうでしたか。なんか馬鹿な事聞いてすみませんでした」
「気にするなよ」
手をひらひらさせる武田さん。俺はどうにも配慮に欠けて仕方ないな。などと自省している間にも、勝負は進んでいた。
と言うかガドガンさん、ユニコーンだけで勝てるんじゃないか? あのユニコーン、角で頑丈な丸太の矢を砕いているし。最初からユニコーンに乗って戦えば良かったのに。
「自分の実力を分からせたかったのでしょう」
俺の横でバヨネッタさんがこぼした。確かあのユニコーンは代々ガドガン家で使役している従魔であるらしいし、それならばユニコーンにあまりに頼り過ぎるのも違うと思ってしまうか。実際の戦場に出たら、そんな事言っていられないけど。
そしてここでも俺の思惑は見事に外れる事になった。またも攻守が反転したのだ。カッテナさんが矢を元の大きさに戻さなくなり、これにより、矢は見辛くなったばかりか、一点にその威力を集中させる事となった。角を掻い潜って、頑丈なユニコーン(サイ)の皮膚にも、傷が出来るようになってきたのだ。
「勝ったな」
とそこでぼそりと口にしたのは、ミカリー卿に未だに首根っこを掴まれているマチコさんだった。勝った? ここで勝ったと言われると、まるでガドガンさんが勝つみたいだが、今押しているのはカッテナさんだ。いやいや、ここまで俺の予想は外れまくっているのだから、ガドガンさんの巻き返しもあるのでは?
「ガドガンさんが勝つ。って事ですか?」
俺はそれとなくマチコさんに尋ねてみた。
「ええ。ダルジールに血を流させたのは相手の悪手だったかと」
とマチコさんはしたり顔だ。どう言う事かと武田さんを見ると、武田さんも同様の顔をしている。ミカリー卿もだ。ユニコーンの血がキーワードらしい。確かユニコーンは薬獣で、肉も骨も血も薬の材料になると言う。何せ汗さえも爆薬になるのだ。そうなると、血は何になるんだ? 毒薬か? 毒と薬は表裏一体だし、その可能性は大きい。しかしカッテナさんは遠距離の狙撃手だ。毒の範囲の外側では、意味ないのでは?
などと考えを巡らせていると、ユニコーンの身体が段々とピンクから赤に変わっていく。あれは血汗か? 赤兎馬のような汗血馬ならぬ汗血サイなのか? 訳が分からずユニコーンを注視していると、何やら赤い湯気が昇ってきていた。それがガドガンさんの風魔法でグラウンド中に広がっていく。成程、血煙か。血に毒があり、それが体表で蒸発する事で霧状になり、風魔法によって遠距離の相手にも毒を効かせる事を可能にするのか。しかも『聖結界』に囲まれていては逃げ場もない。本人は解毒薬を予め飲んでいるのだろう。いや待て、
「大丈夫なんですか?」
俺は焦って横にいるマチコさんに尋ねていた。あの血煙が人を殺せる猛毒だとしたら、すぐに勝負を止めなければならない。
「問題ありません。あれは麻酔薬ですから」
「麻酔薬?」
「ユニコーンの血には麻酔効果があって、ああやって動いて血汗を出しながら発汗し、周囲にそれを霧状にして振り撒くんです。ユニコーンは草食獣ですから、あの血煙で肉食獣や魔物から逃げるんですよ」
成程。
「でも効きますかね? 相手のギフトは『反発』ですけど」
「あ」
マチコさんもそこまでは考えていなかったようだ。
「効くわよ」
答えたのはバヨネッタさんだ。何故言い切れるのだろう?
「もしもカッテナの『反発』が完璧なら、空気も跳ね返しているはずだけれど、あの子、普通に呼吸しているでしょ」
ああ、確かに。全部を跳ね返している訳じゃないから、息をしているし、目も見えているし、耳も聞こえている。
「意識的にしている訳じゃないだろうから、そこはこれからの特訓次第ね」
とバヨネッタさんが口にしたところで、眠気に耐えられなくなったカッテナさんが、前のめりにぶっ倒れた。これ以上の続行は不可能だな。
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