第433話 適材適所?

「何故、そう言い切れるんですか?」


 マジマジと武田さんを見ても、その自信に揺らぎはない。


「ガドガン家は、代々特殊なスキルを受け継いでいるんだ」


「特殊なスキル?」


「ああ。『継承』と言うスキルだ。これにより、ガドガン家は代々その記憶を受け継いできた」


「それは……」


 色々とあった事だろう。俺は思わずガドガンさんへ同情の視線を向けてしまった。


「問題ありません。これによって受けてきた恩恵と比較すれば、周囲の視線など、瑣末事です」


 とガドガンさんは気にしない風な受け答えだ。それが本音なのかどうかは、俺には判断出来ない。


「それで、ガドガンさんは、これから行くダンジョンの中がどうなっているのか知っている。と?」


 俺の質問に力強く頷くガドガンさん。


「道案内が出来るのは分かったけれど、こちらに同行させて良いの?」


 とはバヨネッタさん。何か懸念があるらしい。


「彼女も歴代のガドガン同様に薬師なのでしょう。しかも聖伏殿に出入り出来ると言う事は、彼女はストーノ教皇付きの薬師なんじゃないの?」


 成程。危篤状態にあるストーノ教皇を置いて、薬師が旅に出るのは如何なものか。それなら武田さんが同行する方が納得がいく。


「それなんだが……」


 口ごもる武田さんの代わりに、ガドガンさんが口を開く。


猊下げいかの死に面して、私は無力なのです」


 薬師なのに?


「終末医療となると、こちらの世界よりも日本の方が進んでいてな。ガドガンの出る幕がないんだよ」


 成程。怪我に対してはポーションのあるこちらの世界の方が優位であっても、病気のケアとなると、地球の方がレベルが高いと言う事か。


「それなら、こちらに同行しようと?」


「はい。成功報酬として、今度、両世界合同で創設される学校への推薦を約束して貰いました」


 教皇様の推薦かな? こちらの世界と地球が繫がった事で、文化交流として、両世界から資金や人材を出し合い、両世界の住人が通える学校の設立が進められている。ガドガンさんの推薦先は、その中でも医学科や薬学科のある大学だろう。だが、今回は終末医療と言う事でガドガンさんと相性が悪かっただけで、紫斑病を治療した薬を開発したガドガンさんの知識を『継承』しているのだから、どちらかと言えば講師なり教授なりで迎え入れた方が良いのじゃないだろうか。


「理由は理解しましたけど……」


「あなた、戦えるの?」


 バヨネッタさんは俺が言い難い事をズバッと言うなあ。


「俺より強いよ」


 と武田さんはお墨付きを与える。


「タケダが基準じゃ当てにならないわ」


 そうなんだよねえ。武田さんより少し強い程度だと困る。武田さんには、それをカバー出来る『空識』と言うユニークスキルがあるからだ。あれの探索能力と『転置』とのコンボは非常に強力である。武田さんが天賦の塔で従魔にした一つ目の魔物のヒカルを加えれば、かなりの無双が出来るのだ。


「……頑張ります」


 う〜ん、今の「頑張ります」には自信のなさが出ていて不安になる。


「武田さん」


 俺が真意を確かめたくて武田さんを見遣ると、何も発する事なく、その目は力強くこちらを見詰め返してきた。それは言外に、自分はここから離れられない。と口にしているように俺には感じられた。


「話題を変えましょう」


 俺の発言に、バヨネッタさんは何も言わずに一口お茶をすすった。



 ガドガンさんも加えて、五人で会議室の卓を囲み、新たに入れられたお茶を飲みながら、俺は話題を提供した。


「無礼な話ですみませんけど、ストーノ教皇がお亡くなりになられた場合、次の教皇が誰になられるのか、もう決定しているんですか?」


 これに現地の三人は首を横に振るう。


「教皇が退位または崩御なされた場合、各地より枢機卿がこの聖伏殿に集まり、その中から次期教皇を選出する選挙が行われる事になっている」


 とはバンジョーさん。


「コンクラーベですか」


 それを聞いた俺の発言に首肯してくれたのは、武田さんだけだった。他の三人は首を傾げている。


「まあ、地球にも似た制度がある。って話です。それで、コンクラーベとなると、投票数の三分の二を獲得した人間が次の教皇ですか?」


「いや、半数だ」


 と武田さん。こっちは半数で良いんだな。


「枢機卿って何人いるんですか?」


「百二十五人だ。その内の八十一名によって選挙がなされる」


 俺の疑問に直ぐ様バンジョーさんが答えてくれた。全員に選挙権がある訳じゃないのか。


「各地から集まるって事は、選挙が開かれるまで結構期間がありますよね?」


「いや、教皇様の崩御から一ヶ月後と期限が決められている」


 そうなのか。オルさんがクーヨンの港からモーハルドまで三ヶ月掛かると想定していた。となるとこちらの世界での旅は、それくらいが妥当なのかも知れない。もう動いている枢機卿もいるだろうな。


「次期教皇の有力候補って、何人かいるんですよね?」


「そうだな。と言っても、ここにきてデーイッシュ派が軒並み枢機卿から外されてしまったからな。今回の教皇選挙はコニン派から選出されるのは確定だ」


 それでも百二十五人も枢機卿がいると言う事は、今まで何人枢機卿がいたんだ? 無駄を削ったって事か? それともデーイッシュ派に押え付けられていた人間を昇格させたのだろうか? まあ、ここを深掘りしたら止まらなくなりそうだから止めておこう。


「有力候補はゴウーズ首席枢機卿とマッカメン枢機卿とテイニー枢機卿。この三人による三つ巴だと思う」


「三人としては、誰になって欲しいんですか?」


 この質問には、三人して顔を見合わせていた。多分、武田さんがここを離れられない理由がこの教皇選挙にあると思う。

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