第408話 人探し
「まあ、お前たちはそれ程気にしなくて良い」
とはゼラン仙者の言葉だ。
「どうしてですか?」
「お前たちはこれから有頂天を修得するからな」
それとこれと関係があると? 俺は首を傾げる。
「前にも言ったが、有頂天とは世界と己を同期させるものだ。世界と同一化してしまえば、万象図の生命体の位置を把握する機能を持ってしても、把握出来なくなるのは道理だろう」
成程。確かにその理屈なら俺たちは把握されないだろうけど、これは戦争だ。他の兵隊さんたちはそうはいかない。これまでの勇者対魔王の戦いとは規模が違うと言う話だろう。対策を考えないと。
「難しい顔をしているな。考える事が多そうだ」
ゼラン仙者、誰のせいだと思っているんですか?
「睨むな。私は、一人で背負い込むな。と言いたかったのだ。そもそも十年二十年生きた程度の子供一人が、世界の命運全てを背負わせなければならない程、この世界はヤワではない」
それは……そうかも知れないけど。確かにバヨネッタさんやオルさん、辻原議員やうちの商会の面々など、頼れる人間は多い。がそれでも考えずにいられないのは性分だろうか。
「まずは有頂天を修得する事に専念するんだな」
ゼラン仙者は立ち上がると、付いて来い。とでも言うよう手を振り宮殿へと歩き出した。
シンヤたち勇者パーティが、パジャンさんとリットーさんのタッグチームと戦っている。場所はパジャンさんがジゲン仙者から奪った『絶結界』の中だ。その『絶結界』が設けられているのは、宮殿の地下の何もない空間。修行用の空間だそうで、何もないのに不思議と明るい。
そこで俺とゼラン仙者は、『絶結界』の外から『絶結界』への入口に設置された、パジャンさんの水晶板に映るシンヤたちの様子を観戦している。『絶結界』と『水晶』が合わさると、こんな事も可能なんだな。
しかし皆の戦闘が激しい。先程のグッドマンとの戦闘が茶番に思える程に、パジャンさん以外は大技を繰り出している。その分大味な戦いとも言えるが。これには理由がある。この後の有頂天の修行に入るには、魔力をほぼ空にしなければいけないからだ。だから俺も先程の休憩で多少戻った魔力を、また『清塩』に変換して『空間庫』に収めている。
「あいつらもさっきの戦闘であれだけ気合い入れて戦っていれば、グッドマンも早々に立ち去ったかも知れないのに」
シンヤたちの奮起ぶりに、思わず愚痴をこぼさずにはいられない。
「私に気を使ったのだろう」
とこれを聞いたゼラン仙者が、シンヤたちを擁護するように口を開いた。
「前々から、この修行場以外での聖域での戦闘は固く禁じていたからな。真面目なシンヤたちはそれで動けなくなっていたのだろうさ」
シンヤも変に日本人らしいなあ。他のパーティメンバーにしろリットーさんにしろ、根が真面目なのだろう。
「何せ金に糸目を付けずに建てた宮殿だからな。建材に瑕疵でも付けようものなら、相応の金額を請求していたところだ」
ああ、そう言う意味ですか。そりゃあシンヤたちの動きも固くなるよ。しかしここでそれを言うとは、やはり外道仙者だなあ。これでさっき良い言葉吐いた同一人物だもんなあ。
「それで、そっちはどうなんだ?」
「そっち、とは?」
俺は質問の意図が分からず首を傾げる。色々あるからね。
「戦争の準備等色々聞きたいが、まずは地球の勇者探しだ。こちらの
ああ、それか。
「まだですね。武田さんが各地の天賦の塔を回るついでに、勇者探しもしてくれましたけど、見付かりませんでした。日本にいないのはほぼ確定だと思います。小笠原諸島とか、離島や辺境にいたら分かりませんけど。同時に各国に勇者探しを要請して、探し回って貰っていますけど、今のところはどの国の探索系スキルにも反応なしです」
「もう魔王軍が回収しているんじゃないか?」
それは俺も考えた。滅茶苦茶な事をする魔王軍なら、既に地球の勇者を回収……殺していてもおかしくない。でも、
「その可能性は低いと、俺は思っています」
「何故だ?」
「回収はしているかも知れません。が、殺していないでしょう。もしくは魔王でもおいそれと手が出せない場所にでもいるのか。手は出せるけど放っているのか。放っている可能性が高いかな」
「ふむ」
「恐らくですけど、今回の魔王たちの計画には、勇者二人の命を、同時に捧げる必要があるんだと思います。勇者の体内にあるコンソールがどのようなものか知りませんけど、一回で行える仕事量に上限でもあるのでしょう。勇者一人分では、今回の魔王たちの計画達成には不十分だから、シンヤ共々今は放っておいて、揃ったところで二つのコンソールを手に入れる。多分ですけど、勇者のレベルも関係しているかも知れません」
「勇者のレベルか。それは確かに関係しているかも知れないな。そうじゃないなら、奴らはとっくにシンヤたちを殺していてもおかしくない。勇者を殺した時のレベルが高ければ高い程、勇者のコンソールで出来る事も増えると考えるのが妥当か」
魔王の計画の為に勇者を育てなければならないなんて、何とも矛盾と理不尽を感じる話だ。今後見出される地球の勇者も、ある程度自衛をして貰わなくてはならないから、鍛える事になる。二人の勇者を鍛える程に、魔王たちの計画は前進する。言葉に表せない複雑な感情が俺の心を占め、水晶板に映るシンヤを見ても、素直に応援出来ずにいた。
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