第406話 魔王軍の偉い人たち

 一段落着いたところで、前庭で車座になる皆を見ながら、俺は『空間庫』からホワイトボードを取り出した。


「なんか立て続けに色んな奴らが出てきたから、現状把握がてらに羅列したいと思いまーす」


 うん。誰も聞いていないな。



 魔王軍━━。


 当然その頂点は魔王である。現在その座に就いているのは魔王ノブナガ。その身一つに六人の魔王が内在している恐るべき魔王だ。


 現在六人の内で判明しているのは四名。


 一人は当然、織田信長。本物の信長が転生したものであるらしい。そのギフトは『狂乱』で、生まれつきの魔王だ。また『信仰』のスキルを持っている為、レベルが上がり易いと思われる。これは内在する他の五名の魔王にも影響があるのではないかと思われる。他にもスキルを持っているかも知れない。姿形に関しては分かっていない。カロエルの塔で会った時には、中国のお面のようなものを被っていたからね。


 次に織田供則トモノリ。俺の中学からの悪友の一人だ。織田性だが信長とは関係がない。『Play The Philosopher』。通称PTPと言われる攻略難易度が頭おかしい海外のVRゲームを遊んでいる内に、その知は世界の深淵を覗き、この世界の運営から魔王となる選択肢を提示されて、世界を改変すべく魔王となった男。こう表記するとなんか格好良い気がしてくるのがちょっとムカつくな。スキルはどうやら『音』が関係しているらしい。


 ブラフマー。南アジア系の顔をした美丈夫。本人曰くインドの最高神三柱トリムルティの一柱、本物のブラフマーであるらしい。流石に最高神が出てくるのは無理ゲー過ぎる。偽物であるか、もしくは何かしら行動に制限がかかっていると俺たちは踏んでいる。実際、会った感じ本人は静観モードだった。ただし何が切っ掛けで本気になるか分からないので動向には注意が必要だろう。使うスキルは『抹消』。その効果は対象を完全にこの世から抹消する。記録的にも記憶的にも。強過ぎるスキルなので、何かしら制約があると思われる。他にもスキルを保有している可能性あり。


 バァ。古来中国より言い伝えられるひでりがみ。バァは魃の中国語読みのようだ。古代中国神話では黄帝の娘であり、今世でもその声は女性のものだった。そのスキルは『灼熱』と『疫種』。『灼熱』で世界に干魃を起こし、『疫種』で疫病をもたらす魔王。こちらの世界で何度も転生を繰り返し、その度に疫病を振り撒く為、こちらの世界の住民からは相当嫌がられているらしい。武田さんが前世で倒した魔王だが、その最期にポーションの材料となるベナ草だけが罹るウイルスを遺して転生した。『清塩』の事で俺は命を狙われている。


 そして残る二人の魔王。少年と老爺だ。この二人がどんな魔王なのかは分かっていない。少年はカロエルの塔で声を聞いた限り、まだ声変わり前のようだった。分かるのはそれくらいで、老爺に関しては全く情報がない。


 そして魔王軍で魔王に次いで注意すべきなのが六魔将だ。魔王軍において魔王の下の地位にある六人。


 そんな六魔将で最初に会ったのが『狂科学者マッドサイエンティスト』のロコモコ。バヨネッタさんと同じ魔女島出身の魔女だ。見た目は黒いローブに黒い三角帽、眼鏡を掛け、黒髪は三つ編みで移動手段は箒。と正に魔女である。がその本性は悪い魔女だ。彼女のギフトは『解剖』。そしてスキルは『合成』。ロコモコはこの二つの力を使って、改造手術をするのを悦びとしている。後述するオリバー・グッドマンに改造手術を施したのも彼女のようだ。バヨネッタさん曰く、最悪な改造モンスターを造るのが趣味らしい。バヨネッタさん一家とは父親の事で過去に確執を持つ。


 次に会ったのがクラウンベル。魔大陸でトモノリと話をした時、脇に控えてメイドをしていた。銀髪で青白い肌をしている。戦闘の様子は見ていないので何とも言えないが、いきなりどこからともなく現れるので、空間系能力のスキルを有していると思われる。彼女だけ六魔将の中で二つ名がないなあ。と思って聞いたら、ゼラン仙者とリットーさんから『血海』との二つ名を教えて貰った。そんな物騒なメイドさんにお世話されていたのか。


 次に小太郎くんとの戦いで、名前だけ出てきたのが『魔天使』ネネエル。だが彼女は有名だ。古くから歴代の魔王に仕え続けている異質の天使。聞いた話では、褐色の肌に漆黒の翼を有しているそうだ。そのスキルの一つが『魔王召喚』である。どうやら魔王には二種類のパターンが存在するそうだ。己からこちらの世界へやってくるパターンと、ネネエルによって召喚されるパターン。前者の場合はトモノリなどが当てはまり、後者はバァのような転生パターンが多いらしい。後者の場合は、魔大陸や魔族が人間たちに攻め込まれた時に召喚するので、必然的に転生パターンが多くなるようだ。


 そして直近で会った二人の内の一人が、『聖天四精』オリバー・グッドマン。俺たちの運命がねじ曲がったあの事故と言う名の、天使ネオトロンによる追突事件の被害者の一人であり、あの事故により異世界転移した人物。日本で英語教師をしていた。見た目は金髪碧眼で日本人が思い描く外国人と言った風体だ。しゃべり方の癖までそんな感じで、とても胡散臭い。スキルは『四元素』。これによって大概の事象を作り出す事が出来ると想像される。更にカラヅと言う国の守護獣、聖天大猿を倒して、その魔石を手に入れた事で、聖属性と『天駆』と言うスキルも獲得している。前述もしたが、この魔石を体内に埋め込む手術をしたのはロコモコらしい。グッドマンは最近六魔将に就いたらしく(恐らくは聖天大猿を倒し、魔石を手に入れる事で)、それ以前はラクズマと言う男がその地位にいた事をこちらは把握していた。


 もう一人が『邪仙』ムーシェン。見た目は黒い道士服を着た黒髪の壮年の男で、なんとゼラン仙者の兄弟子だと言う。普段は魔大陸の奥、魔王の住む御殿に引っ込み、ほとんど外に出てくる事はないそうだ。以前シンヤを操りデレダ迷宮で激戦を繰り広げた、偵察部隊のギリードの親玉がこのムーシェンと言う人らしい。要するに権謀術数を張り巡らせるのが普段のお仕事のようだ。にしては戦力の逐次投入はどう言う事なのか? と尋ねたら、ゼラン仙者に「あいつら『狂乱』でおかしくなっているからな」と返された。成程。狂っている奴らをまとめ上げるのは大変そうだ。


 そしてここまで話題に上げていないが、もう一人六魔将がいる。六魔将総代の『覇剣』ムンダイヤである。その剣の一振りは天を割り、その一振りは大地を裂き、その一振りは海を断つ。そんなおとぎ話の英雄の如きエピソードで彩られているのがムンダイヤだ。魔王よりも魔王である。と言われるこの男は、乱世においては魔王の剣として敵を挫き、魔王なき治世においては賢君として魔大陸を統治する。もうこの人がいれば魔王はいらないんじゃないの? と尋ねたら、ゼラン仙者もリットーさんも同意してくれたが、ムンダイヤ自身が強烈な魔王信奉者の為、そうはならないそうだ。


 なんであれ、魔王六人に六魔将が揃っている魔王軍に対して、こちらは化神族とガイツクールを持っているのが、俺、バンジョーさん、バヨネッタさん、シンヤ、リットーさん、パジャンさんの六人と向こうの半分。出来るのならあと六人、ガイツクールの所持者を増やして魔王軍との戦争に備えておきたい。武田さん、どうするかなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る