第403話 金髪碧眼
人影は白いローブを着た金髪碧眼の男だった。ローブの袖や襟は金で縁取られ、程良く華やかな意匠となっている。その右手には木の杖が握られ、その先端には四つの魔石が嵌め込まれている。正に白魔道士と言った風体だ。
(何者だ?)
その疑問を俺が誰何する暇もなく、サブさんが偃月刀から水弾を飛ばし、ヤスさんが段平から炎弾を飛ばし、シンヤが霊王剣から物質切断の光波を飛ばす。
だがしかし、それら三つの攻撃は白ローブの男に当たるかと思えば、男の像を歪め、爆散とともに消滅する。幻か。その消滅の仕方から、俺はあれが幻であると判断した。
「Oh! 酷いじゃないでスカ。折角の登場だと言うノニ、名乗らせてもくれないなンテ」
言って男は消えた幻の数メートル横に現れた。片言で話す男は、怪しい外国人タレントのようだ。
「先に奇襲してきたのはそっちだろうが!」
ゴウマオさんが、両手の手甲を打ち鳴らしながら男を睨み付ける。
「Uh huh そうでシタ。間抜けニモこの非常時に一国の王が、城から少ない護衛だけでこんなところヲぶらぶらしているカラ、思わず攻撃してしまいまシタ」
なんて理由だ。確かにラシンシャ天の行動は
「フッフッフ、しかし良かったのでスカ? 私への攻撃ヨリ、自国の王の救出を優先しなクテ?」
「必要ないからな」
俺の言葉に、白ローブの男は片眉をピクリと上げ、自身が炎で攻撃したラズゥさんの簡易転移扉を見遣る。すると燃え上がる簡易転移扉を中心に、竜巻の如き豪風が吹き荒れ、炎が一掃される。
そこにいたのは無傷のラシンシャ天とラズゥさん、女官たち。そして竜巻の中心にリットーさんがいた。
俺たちは分かっていたのだ。簡易転移扉の向こうに、リットーさんの姿が見えたから、男の攻撃で天や女官たちが傷付く、ましてや死ぬなんて事はありえないと。
「成程、遍歴騎士のリットーでスカ。まさか転移扉の向こうにアナタが控えているトハ、私の計算違いでシタ」
「たまたまだ。私もゼラン様に用があったからな。ゼストルスで飛んでくるより、転移門を経由して来た方が早いと思っただけだ」
「フゥ、ついていませんネエ。これでそちらを多少ナリ混乱させられるト思ったのでスガ」
白ローブの男は両手を肩まで上げて首を振るう。ますます怪しい外国人だ。
「それで?」
俺が尋ねると、白ローブの男は首を傾げた。
「名乗ってくれるんじゃなかったのか?」
「そうでシタ」
言って白ローブの男は胡散臭くも恭しく、空中でこちらに一礼したのだ。
「私の名前ハ、Oliver Goodmanと申しマス」
「オリバー・グッドマン?」
「Yes」
その名に俺は自分でも分かる程眉間にシワを寄せるが、上空の男はそれに気も留めず、自己紹介を続ける。
「私の名前ハ、オリバー・グッドマン。魔王軍六魔将の一人デス」
この発言で全員の男への警戒度が跳ね上がった。ロコモコと同格の六魔将となると、一筋縄ではいかない。と皆が分かっているのだ。
「ラズゥさん!」
「もうやっているわよ!」
ラズゥさんにラシンシャ天をすぐにこの場から退避して貰うように頼んだら、既に次の簡易転移扉を展開している最中だった。俺たちはその間オリバー・グッドマンの攻撃がラシンシャ天に当たらないように、ラシンシャ天を中心に円形に防御体制を敷く。
「出来たわ!」
とラズゥさん。流石に早い。そして出来てすぐにラシンシャ天と女官たちは、簡易転移扉へと突入してこの場から退場した。
「…………攻撃しなくて良かったのか?」
「yeah 私の目的ハこの国の王を殺害する事ではありませんカラ」
「…………そうかよ」
まあ、この場にラシンシャ天がいたのは偶然だからな。ここに来た目的ではないだろう。
「怖い顔ですネエ」
グッドマンから見て、俺は怖い顔をしているそうだ。それはそうなのかも知れない。
「同じ地球人として、この状況に思うところがない訳ではないよ」
「……昔の話デス」
向こうとしても思うところがあるようだ。
「やっぱり地球人なのか?」
「違いマス」
シンヤが俺に尋ねる。がそれを遮るようにグッドマンが否定した。
「私ハ、魔族。魔王軍六魔将の一人デス」
魔族ねえ?
「オリバー・グッドマンの名前は知っていた。俺たちと同じ事故で行方不明になった人間の一人で、唯一の外国人だったから、俺も、多分タカシも、当時のニュースで目にして記憶している。確か英語教師だったかな?」
俺の発言に、その顔に余裕の笑みを
「あの事故で死んだトモノリと違って、オリバー・グッドマンは異世界転移者のはずだ。その肉体は地球人のそれのはず」
「違いマス! 私は魔族デス! この身体には魔石が内蔵されているのデス!!」
強気の否定。それは図らずも、グッドマンが少なくとも純粋な魔族でない事を強調していた。
「ロコモコの改造手術か」
俺の独り言のような呟きは、グッドマンの逆鱗に触れるものだったようだ。一瞬にして怒気を沸騰させたグッドマンが、右手に握った杖をこちらへかざすと、炎の柱が立ち上る。それは一瞬前まで俺がいた場所で、『時間操作』タイプBで逃れていなければ、黒焦げになっていたような威力だった。
「だったら、何だと言うのでスカ!? あんなゴミ溜めのような世界に比べレバ、魔族となって思うママに力を揮える事ハ、至上の歓びデス!!」
余程地球での、日本での暮らしに、鬱憤が溜まっていたらしい。
「成程、ね。理解は出来ないけど納得はした。その上で言わせて貰うけど、もう少し穏便な生き方は出来なかったのか?」
「友人が魔王やっている奴ガ、知った風な口をきクナ!!」
はい。すみません。俺とシンヤはしきりに恐縮してしまった。
「私はこれで良いノダ!! 人間と言う汚物は全て滅ぼシテくれル!!」
地球の生活によっぽどの何かがあったようだ。
「じゃあ何で魔王にならなかったんだ?」
ゴウマオさんがぼそりと呟くと、キッとそちらを睨むグッドマン。確かに。魔王になると言う選択肢だってあっただろう。
「私ノ怪我や知識程度でハ転移が精々デ、魔王に転生出来なかったんダヨ!!」
選択肢はなかったようだ。そう言えばトモノリは魔王に転生するのに、それ以前に天使と接触していたようだし、多分普通に転生転移するだけでは魔王にはなれないのだろう。
「全く、邪魔くさい人間どもダ! 折角私が穏便に済ませようとしてイタのに、予定変更ダ! 目的のモノは貴様らを全滅させてカラ手に入れヨウ!」
言って杖を構えるグッドマン。成程、ここはゼラン仙者の宮殿。ゼラン仙者がこれまで集めてきた宝にグッドマンのめぼしいものがあるようだ。
「ハルアキ、来るぞ」
シンヤの言に、俺は意識を思考からグッドマンの方へ切り替えた。はあ。『清塩』作るのに魔力使ったから、俺の魔力残量少ないんですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます