第399話 最高峰
「う〜む、そうなると計画が狂うな」
言って顎に手を当てるゼラン仙者。
「俺たちがビチューレに行くと、何か問題があるんですか?」
尋ねる俺に、ゼラン仙者は残念そうな顔を見せる。
「いやな、事態が事態だから、私もシンヤたちに同行しようと思っていたんだ」
「はあ」
それはまあ、問題ないんじゃないだろうか。
「そこでついでと言っては何だが、仙道の真髄を会得して貰おうと思っていたのだ」
「仙道の真髄、ですか?」
俺の問い掛けに首肯で返すゼラン仙者。
「ハルアキはリットーを通じて共感覚、武術操体、そして全合一を会得しているな?」
「はい」
これらがリットーさんがゼラン仙者に師事して会得したものだと言う事は、デレダ迷宮でリットーさんから教えて貰った。
「その真髄。リットーもまだ到達していない仙道の深奥に、お前たちを導こうと思っていたのだ」
「全合一が到達点じゃあなかったんですね」
鷹揚に首肯するゼラン仙者。
「うむ。全合一は己の身体を極限まで扱う為の技術だ。だが今度の戦いでは、それだけでは限界がくる。お前たちはそれに対応する術を身に付けなければならないのだ」
それは、そうなのか? 五感を統一した共感覚に、五体を統一した武術操体、そしてこの二つを統一した全合一。己の身体を極限まで使いこなす術は既に身に付けているのだ。これ以上何をどうしろと言うのか。
「仙道とは、つまり自然と己との境界を取り払い、世界と己を一つにする術なのだ」
「はあ」
何を言っているのか理解出来ません。
「それが出来るようになると、どうなるんですか?」
皆が静かに見守る中、俺が尋ねると、ゼラン仙者はまたも鷹揚に頷き、説明を始めた。
「簡単な事だ。ハルアキはこの世界、いや、この宇宙が詰まる所、時空と魔力で出来ている事を知っているな?」
そう言えば浅野が、トモノリと魔大陸で話した時に、そんな事を話していた気がする。この宇宙を最小単位まで分解すると、時空と言うものとなり、そこに魔力が影響を与えて、様々な反応が起こり、その結果、このような宇宙の姿になったのだと。俺はゼラン仙者に首肯で返した。
「では時空が何か分かるか?」
分からないので俺は首を横に振った。
「時空は、仙道では『想空』と言ってな、それは『無にして全』であり、『可能性の
「はあ」
余計に良く分からなくなってきたな。
「仙道の真髄では、これと己を同一化させる事で、魔力の吸収量が増大する上に、スキルやギフトを己の思うままに
へえ。凄いなあ。ついていけずに棒読みの感想になってしまうけど。
「とは言え、それは仙道の始祖マソンが唱えた、極致であり理想だ。実際は魔力の増大と多少スキルの扱いが今よりもし易くなる程度だと考えてくれ」
「はあ。まあ、確かに、それを覚えれば今よりも強くなれそうなのは理解出来ました」
「今はそれで良い」
「で、俺はそれを覚えれば良い訳ですか?」
首肯するゼラン仙者。
「今度の魔王は今までとは別格だ。仙道を修める者として、真髄にまで到達している事は、魔王打倒の絶対条件となってくるだろう。ならば効率的に、早いうちに、と思ったのだがな」
成程。その考えは理解出来る。俺はどうするべきか、とちらりとバヨネッタさんを見遣るが、自分で考えろ、と首を横に振られてしまった。う〜ん。
「バヨネッタさんって、検査入院ですから、数日中には退院ですよね?」
「医者からはそう聞いているわ」
「その後はゴルードさんのところで、武器の新調ですか?」
「ええ」
となると、一週間、長くて十日か。いや、バヨネッタさんの事だから、前倒しするかもなあ。う〜んう〜ん。
「分かりました。三月
「ふ〜ん。私を待たせるなんて、ハルアキも偉くなったものね?」
「あははー。偉いも何も、不甲斐ないばかりですけど」
俺の返答に、嘆息して首を振るうバヨネッタさん。
「まあ良いわ。こっちはこっちで、やっておきたい事もあったし」
とバヨネッタさんはサルサルさんの方をちらりと見遣った。
「でも、その日が刻限よ。必ずものにしてきなさい。敵もあなたの成熟を待っていてくれる程、気が長い訳じゃなさそうだもの」
そうだ。他の魔王はともかく、バァが俺を狙ってくる可能性は大いにある。それを退ける為にも、早々に真髄に到達しなくては。…………、
「ところでその真髄って、何か名前あるんですか? 武術操体とか全合一みたいに」
俺の質問にゼラン仙者の口角が上がる。あれ? なんだろう? 凄く嫌な予感がするんだけど?
「ああ。その真髄の名は、仙道の到達点、最高峰である事から、奇しくもモーハルドにある世界一の聖峰の名から━━」
え? まさか!?
「セクシーマンと言う!!」
「すいません。今回の話はなかったと言う方向で」
「何故だ!?」
何故も何も無いんですけど。そんな名前の技術を覚えるくらいなら、魔王に全裸特攻仕掛けた方がマシなんですけど。
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