第383話 風雷の攻防
力が溢れ出る感覚とともに、世界が白塩に覆われる。恐らくジゲン仙者を相手にしているから、『逆転(呪)』が発動しているせいだろう。ジゲン仙者もこれを恐れて俺より低レベルの忍者軍団で俺を仕留めようとしたのだと想像がつく。結果はああなってしまったが。
「これならいける」
俺は意識を敵城へ向け、両手を前に突き出す。それに呼応するように世界を覆う白塩は巨大な竜巻となって敵城を取り囲んだ。
「このまま押し潰す」
手を握ると、白塩の竜巻が徐々に狭まっていく。城郭から砕け散り、その破片が天へと昇っていく。いける! このまま……、
ズドーンッ!!
視界が光に包まれたのと轟音に身体が振動したのは同時だった。ビクリとして頭上を見遣れば、そこには武田さんの従魔のヒカルが結界を張っていた。
「ハルアキ、相手を侮るなよ。敵はレベル五十オーバーだ」
武田さんの言葉にハッとして気を引き締め直した。そうだ。相手にはレベル五十オーバーが三人もいるんだ。そう思って敵城の方を見れば、壊れた天守閣の上に、天狗が二人浮いていた。白塩の竜巻であの二人は猛風に晒されているはずなのに、まるでそよ風でも浴びているかのようだ。
赤面の順風耳が両手を天に上げると、空が暗雲に包まれ、暴風が白塩の空間を断ち切るように吹き荒れる。これによって白塩の竜巻は切り崩され、白塩の竜巻で覆われていた敵城がまたもその姿を露わにする。
空から降る白塩が、まるで雪のように見えた。俺は握る手に力を込めるが、白塩の竜巻はつむじ風程度にしか吹き上がらない。俺の力と順風耳の『暴風』の力が拮抗しているのか。あいつをあの場所に留めておくには、『清塩』を使い続けないといけないようだ。
「来るぞ!」
武田さんの言葉に身構えると、世界が光と轟音に包まれる。『霹靂』とは良く言ったものだ。などと少しの思考も命取りだった。眼前に刀を構えた緑面の天狗、千里眼がいたからだ。
その鋭い突きに死を覚悟する。と次の瞬間には俺の視界は別の場所を映していた。と同時に身体が落下する感覚。俺、落ちている?
下を見たら壊れた敵城と天守閣の上に立つ順風耳。武田さんの『転置』か。と俺は天守閣の上に着地すると、振り返る順風耳に向かって黒槍を伸長させる。
ガーンッ!
雷鳴と同時に眼前に現れた千里眼が、俺の黒槍を受け流した。成程、『霹靂』の能力は雷を発生させるだけでなく、雷の速度で移動も出来るのか。見れば武田さんも雷で攻撃を受けていた。それをヒカルの結界でなんとか防いでいる。
ガーンッ!
そんな事を思った次の瞬間には俺の背後に千里眼が現れ、上段に刀を構えていた。そしてまたも歪む俺の視界。ドサッと白塩の上に尻もちを突くと、横に武田さんがいた。
「武田さん、『
「慣れろ。これはそう言う戦いだ。相手は雷速だぞ? 『空識』の未来視で未来を認識出来なきゃ、ハルアキは既に死んでいるし、お前が死んだら俺たちは詰むんだよ」
成程、俺の生死がこの戦いの未来を決定する訳ですか。
「ではドンドンやってください」
俺が同意した瞬間、またも俺は空中に飛ばされていた。せめて心の準備はさせて欲しかったよ。と心の中で愚痴りながら、前方に見える敵城の上にいる順風耳に向かって黒槍を飛ばす。
が、そこに頭上から千里眼の攻撃。それを回避するように俺はまた『転置』で別の場所へ。それを追うように千里眼が雷速で現れる。何度も何度も転移しても現れる千里眼。
上から、下から、右から、左から、前から、後ろから、『転置』で転移しても、どこからでも現れるな。と言うか『転置』は物と物の位置を入れ替えるスキルだろ? 武田さんは何と俺を入れ替えているんだ?
ギィンッ!
そこに上段から千里眼の刀が振り下ろされるのを、俺は黒剣で受け流した。更に斬り結ぶ俺と千里眼。そこにも白塩がしんしんと降り続けていた。
ギィンッ!
互いの剣を弾いて距離を取る。ああ、成程ね、この白塩の雪と俺の位置を入れ替えているのか。と俺はこの様子を見守っているだろう武田さんに、指を鳴らすようなジェスチャーで指示を出す。
「何だよ? 手短にな」
俺のジェスチャーは通じたらしく、武田さんの側に転移してくれた。
「攻勢に出ます。千里眼の周囲に細かく転移させてください」
これだけ白塩の雪が降っているなら出来るだろう。
ギィンッ!
雷速で現れた千里眼の横薙ぎを黒剣で受け止め、俺は別の場所に転移する。追ってくる千里眼の刀を躱し、その周囲を細かく転移し始める。
俺を目で追いながら歯ぎしりする千里眼。この転移スピードに目が付いてこられる方が凄いな。流石は『千里眼』か。
ギィンッ! ギィンッ!
でも動きはどうかな?
ギィンッ! ギィンッ!
俺は武田さんに指で指示を出して、更に転移スピードを上げて貰う。ここまでくるとこちらの目も滑るが、『逆転(呪)』などのバフのお陰で身体が付いてくる。きっといつもの状態ならばこの転移スピードに付いていけずに身体が悲鳴を上げていた事だろう。と言うか、武田さん凄いな。流石は元勇者。あの人も大概人外だな。
それでも雷速の千里眼は俺と斬り結ぶが、その身体は徐々に切り傷に塗れてゆき、
ギィンッ!!
俺がその刀を弾き飛ばすと、己の死期を悟ったような顔をして、腹に俺の黒剣の突きを食らったのだ。が、ガシッとそのまま俺を抱き締める千里眼。こいつもか!
ズドーンッ!!
そこに巨大な雷が落ちるも、武田さんの『転置』で何とか難を逃れたのだった。
「はあ、はあ、はあ、残るは……」
『転置』でまた天守閣の上に転移する。順風耳はその手を下ろし、静かに立ち尽くしていた。
「攻撃もしてこないんだな?」
「宗主様を捕らえられてはな」
そうか。俺と武田さんがこの二人と戦っている間に、バヨネッタさんたちが敵城に攻め込んでジゲン仙者を確保したのか。
「なら、あんたはどうする?」
「はははっ!! 甘いな小僧! これはどちらかが全滅するまで続くのだ。俺を生かせば俺はいつかお前を殺す! お前の仲間を、家族を殺すぞ!」
「そうかよ」
そして俺は奥歯を噛み締めながら順風耳の首を落とした。
次の瞬間、俺は城内の床の間にいた。バヨネッタさんの向こうに、床に伏せる老人がいた。
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