第352話 食えない
食事が終わり、食器をキッチンに片した俺は、皆が興味を持っていたメカランを皿に載せてリビングに持って行った。タカシとシンヤ以外の視線が、その二色のお菓子に集まる。
「これがメカランねえ」
バヨネッタさんがフォークを握ってメカランを刺そうとするも、キンッと金属音のようなものが響いてこれを弾き返した。
「本当に硬いわね」
これに倣って皆して、次々にフォークでメカランを触っていく。
「本当に食い物なのか?」
と武田さんが手で持って指で弾いた。その姿に女性陣が引いている。
「な、なんだよ?」
「え、だってそれ、タカシが口にくわえたやつでしょう?」
アネカネに指摘されて、武田さんはそっとメカランを皿に戻した。
「大丈夫ですよ。台所で水洗いしてきましたから」
「何が大丈夫なのか分からないわ」
とバヨネッタさん。そうですか。
「武田さんの見立てはどうですか?」
「確かにウインドウには食品と書かれているな。味は獣肉に似ているそうだ」
まあ、牛タンと鶏ささみの味だったしね。
「ただし食べられないとも書かれているな」
「なんすかそれ?」
後ろでタカシが吹き出していた。声を出さずに笑いながら腹を抱えるな。
「食品なんですよね?」
「ああ。これを食せし者、神の祝福を得て、秘されし力を発現するであろう。と付記されている」
確かにトモノリが神の祝福とか言っていたっけ。
「秘されし力、ねえ」
腕組みをする面々。しばらくの沈黙の後、バヨネッタさんが口を開く。
「タケダ、これを口にして私にギフトが発現すると思う?」
これに武田さんは首を横に振るった。
「そう」
バヨネッタさんもそれ以上追求しない。つまり自分には、今持っている以上のギフトが存在しない事を分かっていたのだろう。バヨネッタさんのギフトが何なのか知らないけど。
「この中だと誰がギフトを発現させられそうですか?」
アネカネが尋ねると、武田さんがぐるりと部屋の全員を見回す。まあ、俺はないだろうな。『英雄運』に『瞬間予知』。そして今回の『清塩』だ。三つあるとサリィの占い師のお婆さんに言われていた全て発現したのだから。
「三人。アネカネとヤスとタカシだな」
「良し!!」
「シャッ!」
「俺え!?」
喜びでガッツポーズをするアネカネとヤスさんとは対照的に、タカシは自分を指差して驚いている。
「まあ、タカシにも供されたんだ。トモノリからしたら可能性を感じていたんだろう」
シンヤの言にタカシが高速で首を左右に振るう。
「いや、無理無理無理無理無理無理!! これを口にするって事は、次の戦争で最前線に立つって事だよな!?」
「それはタカシに発現するギフトによるな。『家事』とか『ドブさらい』とか、明らかに戦闘向きじゃないギフトだったら最前線から外されるだろ」
「な、成程。…………いや、『ドブさらい』ってなんだよ! そんなギフトあるのか?」
「適当言っただけだよ」
このボケにちゃんとツッコミ入れられるなら、それ程動揺も酷くなさそうだ。
「まあ、トモノリもタカシが食べられないのは織り込み済みで、こちらに手土産として渡したんだろうしな」
俺の言にシンヤが首肯する。
「で、どうする二人は?」
タカシの話が一段落したところで、二人に話を振る。
「もちろん……」
「お断りよ」
アネカネが何か話そうとする前に、バヨネッタさんが拒否権を発動した。
「ええ、何でよ、お姉ちゃん? 私はギフト欲しいんだけど?」
バヨネッタさんに向かって文句を口にするアネカネ。
「メカランは現状これ一つしかなく、今後入手出来る可能性も極めて低いわ。なら、絶対最前線に行く事になるガイツクールの所持者が食べるべきよ」
こう言われてはアネカネも反論出来ないようだ。ヤスさんの方も沈黙している。確かにバヨネッタさんの言っている事は正しい。一つしかないのなら、魔王と戦う事になるガイツクール所持者、今ならリットーさんやバンジョーさんが口にするべきだろう。分かってはいるが納得出来ないアネカネは、唇を尖らせて不満を顕にしているが。
「それにアネカネじゃ無理だしね」
「ハルアキまで! 無理ってなによ!」
「じゃあ、これを歯で砕いて飲み込めるの?」
俺の言葉にアネカネが「あ!」と声を漏らす。そう、メカランは硬いのだ。噛もうとしても歯の方が欠けてしまう程に。だから俺もシンヤもアニンやガイツクールを使って食べたのだ。まあ、何かしらで砕いて口に含む事は出来るかだろうけど。それを食すと言うだろうか?
「ええ〜。じゃあ私もガイツクール手に入れるわ」
無茶言うなあ。
「アネカネ、あなた今回の戦い、エシュロンに張り付いて、情報収集を頼まれていなかった?」
それでも難色を示すバヨネッタさん。姉として妹には前線に出てきて欲しくないのかも知れない。
「そうだけど、この戦い、戦力を残して敗北しても、二度目はないんだよ?」
アネカネの言ももっともだ。それはそうなんだよなあ。バヨネッタさんとしても反論したいが、何と言い返すべきか迷っているようだ。
「まあ、待てよ」
間に入ったのは武田さんだった。ほくそ笑むその顔から、何か解決案があるのが窺える。
「アネカネとしては、要はギフトが発現すれば良いんだろう?」
武田さんの問いにアネカネが首肯する。確かに、今のアネカネは目的と手段が逆になっていた。
「だったらもう少し待てばそれは解決されるぞ」
「もう少し待てば、ですか? もしかしてメカランの製造方法が分かったとか?」
俺が尋ねると、しかし武田さんは首を左右に振るう。
「確かに製造方法は分かったが、地球でも異世界でも製造は無理だな。なにせ作るのに魔王の血が不可欠だ」
「魔王の血、ですか? うええええ」
吐き気を催してしまった。だってそれはつまり、俺とシンヤはトモノリの血を胃に入れたと言う事だからだ。
「それならどうして、アネカネのギフトが発現すると言い切れるの?」
バヨネッタさんの問いに、武田さんは俺同様に気持ち悪そうにしているシンヤを見た。
「僕?」
「そうだ。シンヤのギフトは『覚醒』だろう?」
「…………そうか、この『覚醒』を使って眠っているギフトを覚醒させれば……」
「そう言う事だ」
成程。それなら納得だ。アネカネもヤスさんも期待の眼差しをシンヤに向けている。
「でも、もう少し待てばって事は、まだ出来ないんですね?」
俺の問い掛けに武田さんが首肯すると、二人も残念そうな顔に。
「まあ、発現して間もないギフトだからな。案外次のレベルアップくらいで使えるようになるかも知れないぞ」
と武田さんが付け加えれば、明るくなるアネカネ。感情の浮き沈みが激しいな。そして地味に喜んでいるヤスさんがなんかかわいい。
「なんにせよ、誰もがギフトを獲得出来るようになるなら、俺が前線に出されるような事態は避けられるな」
後ろでタカシがほっとしている。
「残念だがタカシ。前線に出るかどうかは別にして、タカシには俺と一緒に天賦の塔でレベル上げをして貰う」
「は? 何でだよ?」
「タカシのスキルって『探知』だったよな? 地球の勇者探し、頑張って貰うぞ」
「うげえ、マジかあ……」
項垂れるタカシを、武田さんが他人事のようにご愁傷様と見ている。が、
「武田さんも俺と一緒にレベル上げして貰いますよ」
「俺もか!?」
「当然ですよ。確か『空識』もレベルが上がれば探知範囲が広がるんですよね?」
「…………はい」
俺は武田さんに笑顔を向けたのに、武田さんは青い顔をして頷くのだった。
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