第344話 中学時代を振り返る
「リョウちゃんの手の平で踊るつもりか?」
俺の質問に、トモノリはだんまりだ。逆にタカシとシンヤは訳が分からないと言った顔をしている。浅野は薄い笑顔でその内心は読めない。
「…………そうだ」
「…………そうか」
俺がここから何を言おうかと思案しているところへ、タカシが割って入る。
「ちょっと待ったーーーー!! 何でリョウちゃんの名前がここでいきなり出てくるんだよ!?」
狼狽えながら質問してくるタカシ。それに同意するように何度も頷くシンヤ。二人とも何とか情報を引き出そうと必死だな。
「そう驚く事じゃあないだろ? 俺たちが事故に遭ってから、ここまでの青写真を描いたのはリョウちゃんだ」
「何で言い切れるんだよ!?」
タカシは納得出来ないと言った顔をしている。まあ、それはそうだろうなあ。友人が友人同士を殺し合わせるような事をさせるだなんで、信じたくないのは理解出来る。
「タカシが信じたくないのは理解出来るが、それと同じくらい、リョウちゃんがこう言った事をする人間な事が、俺には信じられるよ」
俺がそう口にすると、タカシは黙り込んだ。
「…………確かに、
この言葉に、場にいる全員が首肯する。
「ハルアキ、俺もリョウちゃんにはっきり指示されて魔王をやっている訳じゃないんだ」
とトモノリ。
「それは分かっているよ。でも裏でリョウちゃんが暗躍しているだろうとも思っているんだろ?」
「まあな。
そう、俺たちの会話から分かるように、裏から手を回すのが上手い人間なのだ。リョウちゃんとは。
リョウちゃんとは中学からの友達だが、ジュニアオリンピックに出るようなリョウちゃんは、優秀過ぎるが為に周りから羨望の的であるとともに、嫉妬の的でもあった。でもリョウちゃんは、それを楽しんでいるように俺には見えた。
その言動が奇抜だったリョウちゃんは、中学でイジメにあっていた。それを庇ったのが俺たちの出会いだ。俺たちはイジメグループと真っ向から対立し、リョウちゃんにちょっかいを出すようなら、すぐに飛んでいってリョウちゃんを庇っていた。それは中学生にしては立派な正義感だったが、単に正義の味方に憧れていたとも言えた。皆の羨望の的である有名人を、俺が助けている。と言う優越感があったのは否定出来ない。
結論から言えば、リョウちゃんに俺たちの救いの手は必要なかった。
リョウちゃんはジュニアオリンピックの選手らしく、学校にいつもいる訳ではなく、世界各地を飛び回っていた。だからリョウちゃんに対するイジメも散発的だったが、それも俺たちに妨害されて、イジメグループは自分たちのストレス発散が出来ずに悶々としていたのだ。そしてそのイライラが、毎日学校に通う俺たちに向けられるのに、さして時間は掛からなかった。
流石は有名人をイジメるだけはあるグループで、その後ろには高校生がおり、親は街の有力者が揃っていた。
イジメは恥をかかす事から始まる。集団の中で笑い者にして、仲間外れにするのだ。物を隠したり、間違った情報を与えたりで、教師に叱責させ、それをクラスで笑い者にするのだ。それで精神が折れれば儲けもので、自分たちの自由に出来る奴隷の出来上がりだ。これで奴隷扱いになっていた方がマシだったかも知れない。
ここで下手に意地を張ると、イジメは更に苛烈になる。直接的な暴力に訴えてくるのだ。まずは隙を突いて転ばせたり、肘鉄やら裏拳で攻撃してくる。これにも屈しないと、人気のないところへ呼び出して集団で殴る蹴るの暴行にレベルアップする。
俺たちはそれでも屈しなかった。下手に仲間がいたのが良くなかったのかも知れない。一人ならあいつらに屈するなり、登校拒否の引き籠もりになるなり、転校するなり、違う運命をたどっていただろうが、俺には仲間がいる。仲間が辛いイジメに耐えている。と俺たちはイジメに我慢して学校に通っていた。
そんな中学生のやせ我慢が、頭の良いリョウちゃんにバレないはずがなく、俺たちがイジメにあっている事は、程なくしてリョウちゃんの知るところとなった。
それからのリョウちゃんの行動は速かった。俺たちの事を知った次の日に学校に行くと、既にイジメグループが学校に来なくなっていたのだ。そしてその次の日にはイジメグループは一人ひとり別の中学に転校となり、更に次の日には、彼らの親が失職した事が学校で話題に上がっていた。
どうなっているのか? 俺たちがリョウちゃんに説明を求めると、まるで前日の夕飯の話でもするかのように、リョウちゃんは説明してくれた。
イジメグループによるイジメの証拠をちゃんと取っていた事。音声や動画でリョウちゃんをイジメグループがイジメている姿、声をちゃんと残していたのだ。それだけではない。リョウちゃんは彼らの親兄弟の醜態までも集めていたのだ。
彼らの父親が会社でパワハラやモラハラ、セクハラをする姿を、母親が若い男と不倫している姿を、他の兄弟が学校でイジメをしている姿を。これだけあっては地元に居場所がないのも頷ける。だがリョウちゃんはこれだけでは終わらない人間だ。
リョウちゃんの手はウチの学校でイジメをしていた他のグループや、教育委員会にまで及んだ。イジメグループやその親兄弟にしたように、音声や動画を既に収集済み。これでもって裏から彼らを恐喝していった事で、リョウちゃんは俺たちが通う中学周辺地域の清浄化を一人で成し遂げてしまったのである。
たった一人の中学生が、裏から手を回してそんな大それた事を成してしまった衝撃は、同じ中学生には大き過ぎる程大きく、簡単にリョウちゃんを崇拝対象に思ってしまえる程だった。だが俺たちの関係はそうならなかった。
「そっか! ありがとうな!」
鈍感にして自分の欲求に忠実なタカシが、普通にリョウちゃんにお礼を言って握手をしたからだ。
これにはリョウちゃんをもってしても予想出来なかったらしく、リョウちゃんはその場で大笑い。俺たちもつられて大笑いし、何だかその場が和やかな雰囲気となり、俺たちはその日改めて、六人で友達となったのだ。
「なあ、三人の間に何があったんだ? トモノリも、浅野も、リョウちゃんも、俺たちより事情に通じている。って事は、三人に共通する何かがあったんだよな?」
「…………」
「…………」
俺の言葉にだんまりか。それとも言えない契約か? 俺たちが事故に遭うより先に、三人が天使に会っていたであろう事は察せる。俺はそうなったきっかけが知りたい。
「……ゲームよ」
口を開いたのは浅野だった。
「ゲーム?」
俺とタカシ、シンヤは首を傾げる。ゲームなら六人で良くやっていたが、三人だけで?
「あ! それってもしかして、あの海外のPCゲームの事?」
口を開いたのはシンヤだ。
「何それ? 俺知らないんだけど?」
「俺も」
タカシとともにまたも首を傾げる。
「二人とも英語の成績悪かったでしょ」
とは浅野。成程。それなら俺とタカシは誘わないか。しかしゲームか。事情を知らなければ、たかがゲームで? と怒りの感情が渦巻くところだが。俺たちはアンゲルスタの問題で色々体験しているからな。
「そのゲームが、トモノリの人生観を一変させたのか?」
俺の質問に、トモノリは首肯で返した。
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