第321話 トンデモSFです
「アニン……!」
「アニン?」
俺がふと漏らした言葉に、テレビ画面の向こうで浅野が首を傾げている。
「ああ、いや、これって……」
と俺がテーブルに置かれた黒い球体を指差すと、待っていました! とばかりに浅野が話し出す。
「それはこちらの言語でガイツクールと言われている魔法生体兵器よ。地球の言語にしたら、シェイプシフターね。そいつは凄いのよ。武器をはじめ様々な物に変化でき、様々な事象を発生させるだけでなく、使用者と同化して、使用者のレベルを無視して高位生命体へと押し上げるの。ふふ、何を隠そう私や仲間が着ているこの黒のスーツもガイツクールなのよ」
「ガイツクール……、化神族じゃあないのか」
「化神族? 何それ?」
つらつらとガイツクールの説明をした浅野だったが、どうやら浅野は化神族を知らないらしい。俺は皆と目で会話をして、右手からアニンを呼び出す。右手の平から黒い球体が現れて、一つの目だけがギョロリと開く。
「!! それ! え!? 何で!? 地球にはまだガイツクールを作り出せるような技術力はなかったはず! ガイツクールを作り出すには魔法技術が必須だもの! 神話時代に魔法文明が廃れて久しい地球に、ガイツクールがあるはずない!」
相当動揺しているな。これでマウント取るつもりだったのだろうか? いや、ただ驚いているだけか。
「当たりだよ。こいつは地球産のガイツクール? じゃあない。向こうの、異世界で俺が見付けた化神族って言われる存在だよ」
『こいつ呼ばわりは酷いじゃないか』
アニンに白い目で見られた。まあまあ、軽い悪口なんて、仲が良い証拠だろう。
「成程、異世界は剣と魔法の世界だったわね。それならガイツクールが存在していてもおかしくないか。となると、その異世界は相当文明が発達しているのね? 『剣』と魔法の異世界と聞いていたから、ゲーム、漫画、アニメ、ラノベみたいに、中近世ヨーロッパ風の世界なのかと勝手に思っていたわ」
「中近世って言うのはそうかもな。ヨーロッパ風には限定出来ないけど。向こうも色んな国があるし。ただ車や船なんかの内燃機関で動く物は少ないから、移動は基本的に馬車や帆船だね。ファンタジー世界らしく飛竜もあるけど限定的だし。浄化の魔法や『空間庫』、異空間魔法みたいなスキルがあるから、衛生面は意外としっかりしているかな」
それを聞いて腕を組む浅野。
「それでなんでガイツクールにまでたどり着くの? これって、地球の科学力を超える技術で作られた人工生命体なんだけど?」
「そうなのか?」
「そうよ。私は知的好奇心を満たしてくれそうだからって理由で、地球よりも科学が発展している世界への転移を天使に望んだんだから」
成程。才女である浅野美空らしい転移先の選択だ。
「で? 何が分かったんだ?」
こう質問したのは失敗だった。画面の向こうで浅野はニヤリと口角を上げる。どうやら話したくて仕方なかったようだ。
「この世界は時空で出来ていて、それは一つの力によって如何様にも、それこそこの宇宙のようにも、異世界のようにも変化すると言う事よ」
何じゃそりゃ?
「この世界は時間と空間で出来ているって事?」
訳が分からないだろうタカシがこちらを振り向き尋ねてくるが、尋ねる相手が違わないか? いや、違わないのか。浅野に尋ねても、訳分からない返答をされると思ったのだろう。
「この場合は『
浅野が満足そうに頷いているので、正解なのだろう。
「どう違うんだ?」
「時間と空間って言うのは、互いに作用し合う関係性にあるんだよ。空間に強い力、例えば重力なんかを加えると、時間が遅く進む事が知られている」
「そうなのか?」
「ああ、地上よりも重力の軽い東京スカイツリーの展望台だと、展望台の方がわずかに早く進むそうだ」
「マジで!?」
「ほんのわずかだよ。人生に影響出ないレベル。ブラックホールに入ると時が止まる。なんて話聞いた事あるだろ?」
「ない」
なかったか。
「つまり時間と空間は時空と言う一つのもので、それに俺たちは埋め尽くされているって事か?」
俺は気持ちを切り替えて浅野に尋ねる。
「いいえ、違うわ」
違った。
「私たちを構成している分子も原子も電子も中性子もスピンも、何もかもがこの時空で構成されていて、この時空が一つの力の影響によって変化したものが、今の私たちのような像としてこの宇宙で形作られているのよ」
分かったような分からないような。
「その一つの力ってなんだ? 大統一理論のあれか?」
「魔力よ」
「魔力!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ええ。この魔力の、超次元的引力によって、この宇宙はこんなにも様々な物で溢れているの」
どう言う事か? と皆の視線が俺に向けられるが、俺は首を横に振るわざるを得ない。これだけの情報では、俺にも何が何だか分からないからだ。
「どう言う事だ?」
「魔力は基本的に一魔力一引力一方向と決まっていて、それは次元によって向ける方向に制限があるの」
ふむふむ。
「それは次元に対して一つ多くて、0次元なら一方向、私たちが生きる四次元なら五方向に引力が働くの」
「それだと相殺し合って、結局何もない平均的な世界にならないか」
俺の質問に浅野が満足そうに頷く。
「魔力は方向の数だけ重なって見える性質があるの」
「『重なって見える』? 重なるんじゃなくて?」
「高次元的には重なっていないのよ。私たちが四次元に生きているから、五次元以上の魔力は重なって見えたり、感じたりするの」
なんとなく分かるような? 高次元的には色々な方向に引力を伸ばしている魔力だけど、四次元世界では、感じられる方向の数が少ないから、ある方向に重なって強力な引力になって見えたり、感じたりするってところか。
「この重なりの性質の為に、世界に蔓延している魔力は一様ではないの。魔力が集まって引力が強い所があれば弱い所もある。つまり異世界のように魔力の多い世界や次元があれば、地球のように魔力の顕現が物理法則だけで終わっているような弱い世界もあるの」
ふむふむ。
「この引力が強い所で何が起こるかと言うと、時空がギュッと収縮して、波動を生み、更に収縮すると粒子になるの」
ほうほう。
「そして別地点で、例えばブラックホールや中性子星、例えば異世界とか別次元で引力が強くなれば、その引力に引き摺られて、粒子は波動に戻され、最終的には時空にまで分解するわ」
成程。粒子と波動の二重性が起こるのは、そのバックボーンに魔力があるからと? まあ、雑学レベルの俺の知識では、自分で何を言っているのか理解出来ていないけど。
「良く分からんが、良かったね」
自分で聞いといて何だが、理解出来んかったな。
「何を他人事みたいに。この魔力の引力を利用して魔法は運用されているのよ?」
そうなのか? いや、そうなるのか。
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