第306話 共通
俺とシンヤがトドメを刺したドミニクが、砂になって崩れ落ちた。一瞬、また逃げられたのではないか、と周囲を窺うが、バヨネッタさんたちが平然としている事から、これが本当にドミニクの最期だったのだ。と腑に落ちた。
砂になって崩れ落ちるなんて、本当に人間じゃなくなっていたんだな。と何か虚しさが心に風を吹かせたが、元々こいつとはスタート地点から違うんだった。と思い直した。同情の入る余地はないか。
『おめでとう戦士たちよ』
壁に埋め込まれた天使カロエルが、するりと壁を抜け出し、床に着地する。その行為に身構え武器を取る俺たち。
『大丈夫です。私にあなたたちと交戦する意思はありません。むしろこの環境から解放して下さった事に、感謝さえしていますよ』
その微笑はドミニクを思わせるもので、成程、姉弟らしいと感じさせた。そしてそれが胡散臭さに通じる。
「感謝、ねえ?」
それはバヨネッタさんも同様のようで、後ろから聞こえる声音は、それをマジマジと感じさせた。
『ええ。ですから、あなた方地球人には、そのお礼をしなければなりませんね』
「お礼? あなたの弟を殺した我々に?」
俺の言葉に、しかしカロエルは微笑のまま頷く。
『先程の話を聞いていたでしょう? あのドミニクは私の弟ではありません。弟が使っていたアバターに、私が用意した人工魂を埋め込んで動いていた偽物です』
「あなたが用意したと言う事は、あなたの目的の為に用意したと言う事でしょう? ならドミニクが倒されたのはあなたの目的が潰されたも同義。やはり感謝されるいわれはないわね」
バヨネッタさんの言葉に俺も同意だ。
『いえいえ、私としてはどちらでも良かったのですよ、ドミニクがこの地球を統一しても、あなた方がドミニクを討ち倒しても。結果として私がする事は地球のステージを上げる事ですから』
「ならあなたはやるべき事をやるだけで、私たちに感謝している訳じゃあないじゃない」
全くだ。
『バレました? まあ、私としては意外な結果ではありました。この地球であれば、私が用意したドミニクはほぼ無敵でしたから、外宇宙や異世界からの侵攻でもなければ、何であれドミニクによる地球統一は果たされ、地球はそれをベースに新たなるステージへと進む。と考えていましたから』
そうなのか。異世界はバヨネッタさんたちの世界がある事から、その存在は確定しているけど、外宇宙云々と口にすると言う事は、宇宙人が存在すると言っているも同義だ。こんな場面だから顔には出さないが、テンション上がるな。
『なので、あなた方が私の感知しないところで、異世界と関わりを持ち、独自に交流を築いて、知らぬ間にレベルアップまで果たして私の前に現れたなんて、運営に携わる者としては、大喜びですよ』
「大喜び? それこそ意外だな。運営なら、知的生命体が無軌道な進化をしないように監視して、俺たちがあらぬ方向に進化しようとしたら、その強大な力で滅亡させるものだと思っていたけど?」
俺の言葉に、しかしカロエルはキョトンとした顔を向ける。
『ふふふ。そう言った作品がお好きなのですか?』
カロエルに笑われて、俺は顔が熱くなるのを感じた。確かに今の発言には俺の趣味が含まれていたかも知れない。
『まあ、ただ、あなたのおっしゃられる事もまるで的外れではありません。我々運営も一枚岩ではありませんから。望まぬ進化に一定の制裁を下す勢力はありますけど、どちらかと言えば、それはプレイヤー側の方が多いと思われますね』
成程、確かに。ゲームのリセマラみたいに、自分の好みの進化をしなかった時に、それをリセットする輩がいる訳か。それは納得だな。
「お〜い! なんか話しているけど、戦いは終わったのか!?」
とそこに、礼拝堂の階段から、武田さんとジェランが顔を覗かせてこちらを窺っていた。
「はい! こちらの勝利です! 何かあったんですか!? 武田さん!」
下手をすればここも戦場となっていたはずだ。そんな危険地帯に、ジェランとともにやってくるとは、余程緊急性の高い『何か』でもあったのだろうか?
「そうか、それでか」
「はあ……?」
「そっちのお姉さんは天使様か?」
「はい、そうですけど?」
俺からカロエルが天使だと聞いた武田さんは、自らカロエルの前に進み出ると、その足下へ
「それで? 何かあったんですか?」
長時間
「ああ、いや、第五階層の研究室のモニターで、外の様子を見たら、空の『聖結界』が消えていたからな。それに第六階層のカメラは壊れて何も見えなくなっているしで、慌ててこっちに来たんだけど、第六階層、地獄みたいになっていたな。まあ、ドミニクを倒したんなら良いけどな」
「待ってください。空の『聖結界』が、消えていたんですか?」
「え? ああ。工藤が戦いの決着が付いたから、消したんじゃないのか?」
「俺はそんな事していません」
ぞわりと悪寒がして、背中を冷や汗が流れる。
パチパチパチパチパチ…………
そこに鳴り響く拍手の音。全員の視線がそちらへ向くと、何者かが礼拝堂の壁に寄り掛かり、拍手していた。
「いやあ、お見事だとここは褒めておくよ。まさかドミニクを倒してしまうとはね」
声音は男。身体は金糸銀糸を使った華やかでゆったりした服装に身を包み、その顔は中国の京劇を思わせる独特の仮面で覆われている。さっきまでまるで気配を感じなかったと言うのに、今ではこの男が放つ魔力の強さだけで気分が悪くなりそうだ。
だが、そんな事は俺にはどうでも良かった。いや、俺とシンヤには、と言い換えた方が良いだろう。シンヤに目配せすれば、シンヤも目で頷き返してきた。やっぱり、この声で気付くよな。俺とシンヤが知る共通の友達、
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