第303話 対天狗(三)
「ふむ。中々の結界のようだな。どれだけの耐久度があるのか、試してみたくなる」
言ってドミニクが右手を振るえば、そこに炎の竜巻が唸りを上げて天へと伸びていく。火災旋風と言われるやつだ。しかも巨大な。
そして火災旋風は、まるで生き物のように俺を標的と定めて突撃してきた。ゴッと言うナイトアマリリスの結界と火災旋風がぶつかる嫌な衝撃音に、背筋がゾッとする。これは食らったら骨も残らないやつだ。しかし結界を張ってくれているナイトアマリリスも、人工坩堝から異音が聞こえてきている。このままでは何分と持たない。
俺は『時間操作』タイプBでその場から脱出しようとするが、背筋に悪寒が走ってその足を止める。と俺が回避しようとした先で、火災旋風が立ち昇った。
こっちは駄目か! と振り返るとそこでも火災旋風が。俺は逃げ場を探して周囲をぐるりと見渡すが、既に俺自身火災旋風に取り囲まれていた。先手が上手いなドミニク。火災旋風の向こうですました微笑を見せる奴の姿に、もしかしたら俺と同様の予知能力があるのかも知れないと勘繰る。俺より使いこなしていそうだが。
「まずは一人だ」
ドミニクが手を握り締めると、俺を取り囲む火災旋風が一斉に襲い掛かってきた。が、それはすぐに掻き消えて、俺は豪火に焼かれて命を落とす事を免れる。
「戦っているのはハルアキだけじゃないんだ!」
声の降ってきた空を仰ぎ見れば、ゼストルスに乗ったリットーさんが回遊していた。『回旋』の逆回転で、火災旋風を打ち消してくれたのか。
「流石はラスボス。一筋縄じゃいかないか」
と呑気に腕を組んで次の作戦を考え込むドミニク。
「何を呆けているの! 今の内に攻撃しなさい!」
ドミニクの、戦場とは思えないあまりに大胆な行動に、思わず見入ってしまっていた俺たちは、ハッと我に帰ってドミニクへと突っ込んでいく。
だが当たらない。腕を組んであーでもないこーでもないと思考を巡らせているドミニク相手に、俺も勇者パーティ四人も、一撃も与える事が出来なかった。
その間隙を縫って、ゼラン仙者が雷雲のレールガンで剣を飛ばして攻撃するが、その
「皆! 離れろ!」
そこにリットーさんがゼストルスに乗って回転しながら突撃してきたが、ドミニクは高速回転する真・螺旋槍を、左手一本で受け止め、その回転を留めてしまった。
「グガアアアアッ!!」
だがそれで終わらないのがこのコンビだ。ゼストルスが至近距離から竜の炎をぶち撒ける。
だがその攻撃も、ドミニクの翼の一振りで相殺されてしまった。
「面白いな」
言ってドミニクが左手に力を込めると、その手が青白く燃え上がった。溶けるリットーさんの真・螺旋槍。
「くっ!?」
直ぐ様退避を試みるリットーさんに、ドミニクの右手に現れた、青白炎の剣が弧を描いて襲い掛かる。
キーンッ!
ドミニクとリットーさんの間に割り込んだナイトアマリリスだったが、その結界が保ったのはほんの一瞬の事だった。結界はその剣の威力に砕け散り、ナイトアマリリス自体も真っ二つに断ち斬られたのだ。
「助かった! バヨネッタよ!」
しかしその一瞬がリットーさんの生死を分かち、ドミニクの側から退避する事に成功していた。
「一機失った分は、請求するからね!」
「私だって槍を失ったのだぞ!?」
「自業自得でしょう!?」
何を言い合っているのやら。しかし不味いな。リットーさんの攻撃手段が減じてしまった。
「ふむ。あの竜騎士を相手にするのは面倒だな」
そう呟いたドミニクが両手と両翼を振るうと、このエリア全体に数十もの火災旋風が立ち昇り、それらがまるで意思を持つ怪物のように無秩序に暴れ回る。
「くっ!」
「面倒なのはどっちよ!」
リットーさんは歯噛みしながら火災旋風を相手に『回旋』で打ち消していき、バヨネッタさんは俺たちにナイトアマリリスで結界を張っていく。これで二人は攻撃に参加出来なくなった訳だ。もうドミニクの相手を出来るのは、俺と勇者パーティ、それにゼラン仙者だけか。
「悪いが私は戦線離脱する!」
とゼラン仙者は早々にバヨネッタさんとリットーさんの方へと退避していった。ただしこれはこの階層に来るまでに取り決めておいた作戦通りだ。元々ゼラン仙者は攻撃向きのスキルを持っていない。
ゼラン仙者のスキル名は『集配』。ドミニクの『分配』が己の経験値を仲間に分け与えるのと同様に、ゼラン仙者の『集配』はその魔力を仲間に分け与える。そんなの持っているなら、第三階層前に俺に魔力を分けて欲しかったが、
「どれだけ払える?」
と言われては何にも言えなかった。ゼラン仙者の『集配』は様々なものを自分に集約し、そこから分配すると言うものだ。となると、一旦皆の魔力をゼラン仙者に集約しなければならず、それは迷惑が掛かる。俺には出来ないなあ。と諦めた。
ここに来てまでブレない外道仙者。なのでエレベーター内で交渉し、この面子の中でもレベルの高いバヨネッタさんとリットーさんの魔力がやばくなったら、ゼラン仙者がそのサポートに回る事になったのだが、交渉しといて良かった。もちろん俺たちの魔力を多少ゼラン仙者に差し出す事になったが、すぐに回復する量だ。あとはゼラン仙者が自前の魔力で分配している。
「しかしこれ程の魔力を放出して、底が見えないな」
俺の呟きにドミニクが口角を上げる。ああ、言わなくてもその顔で分かるよ。魂のプールから魂を呼び出し、その魔力を使っているんだろう? バヨネッタさんが魂には魔力とエネルギーが溢れていると言っていたからな。本当に
火災旋風の隙間を縫うように、『時間操作』タイプBで加速して奴の後方に回り込み、両手の黒刃で攻撃するも、奴の青白炎の剣の一振りによって、黒刃は斬り裂かれ、両手が炎上する。それに対して歯を食い縛り、腰から黒刃を生やして炎上する両手を斬り落とす。炎上した両手は炭化して宙に掻き消え、俺の腕は切断されたところから『回復』によって再生した。
「ははは。人型をしていても流石は化け物だな」
貴様に言われたくないな。
「どこまでが君の回復ラインなのか試してみたいところだが、余裕を見せて自滅するのは避けたいところだ」
と青白炎の剣を振り上げるドミニク。その余裕が身を滅ぼすんだよ! と俺は地面から黒槍を十本突き上げるが、それは飛び跳ねたドミニクによって躱されてしまった。
「気付いていなかったとでも?」
バスッ!!
がそのドミニクの胴が真っ二つとなり、その体は上半身と下半身に分かれ、下半身は地に落ちる。ドミニクが振り返ると、シンヤが霊王剣を構えていた。
「気付いていなかったのかい?」
俺の言に微笑をほんの少し歪めるドミニクだったが、すぐに冷静さを取り戻すと、
「全く、これでお終いだと思われては困るな」
と下半身をくっつけようと下半身まで飛んできて、その動きを止めた。
「何をした?」
「気付いていなかったのかい?」
俺はあえてドミニクを真似るように口角を上げて、顔に微笑を浮かべて応えた。
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