第267話 足止め
「あんたらアンゲルスタ人だろう? 何でここにいる? 何が目的だ?」
俺が目的を尋ねても、魔物たちとともに俺たちを囲うアンゲルスタ人たちは、ニヤニヤと下卑た笑みを見せるばかりだ。
「交渉は出来そうにないか。仕方ない」
それならば、と俺が銃を構えようとすると、眼前の男は人質の男に強く銃を突き付けた。
「Hey! Don't move!!」
「何ですって?」
英語の分からないバヨネッタさんたちが首を傾げる。
「動くな。だそうです」
俺の説明に、全員煩わしそうに眉間にしわを寄せる。
「なあ、あんたら、俺たちに人質が有効だと思っているのか?」
俺の言にギョッとしたのは、横にいる俺たちを連れてきた冒険者の男だった。
「助けてくれないのか!?」
「うるさいな」
バンッ!
そう言って俺はガバメントの弾倉を差し替え、男の胸に一発撃ち込む。そのまま仰向けに倒れて動かなくなった男に、アンゲルスタ人たちは流石に血相を変えた。
バンッ!
俺はそんな事お構いなしに、眼前の男が人質にしていた冒険者の男を撃つ。
「Holy shit!!」
汚い言葉とともに、アンゲルスタ人の男は冒険者をその場に放り捨て後退る。逃さないよ。
ズガンッ!!
そう思ってガバメントを構えたところで、右から俺のこめかみに凄い衝撃がやって来た。
「あっぶねえ……」
それを寸でのところでアニンの盾が受け止める。見れば銃弾が盾にめり込んでいた。その直径は13ミリはあるだろう。この大きさ、対物ライフルか!? この閉鎖空間で対人相手に使うか!? 右を見れば、片膝を付いた男が対物ライフルを片付けて直ぐ様逃げ出そうとしていた。
「Oh my gosh!!」
そんな声が聞こえたかと思えば、その狙撃兵だけでなく、アンゲルスタ人たち全員が逃げ出す。成程、今の一撃で仕留めようとして、俺をここに立ち止まらせたのか。それが失敗したら逃走と。
「何なのこいつら?」
そう言ってバヨネッタさんがナイトアマリリスを構えたところで、相手が
「おーい、生きているかーい?」
俺たちをここまで連れてきた男の頬をペチペチ叩いてやると、ハッと目を覚ます男。男は直ぐ様上体を起こすと、自身の胸を確認した。
「死んだ? 死んでいない?」
「死んでいないよ。呪弾で動けなくしただけだから」
俺の言葉にホッとした男は、思い出したかのように周囲に視線を巡らせ、自身の横に、仲間が横になっているのを見付けた。
「おい! 大丈夫か!? おい!」
「う〜ん……? はっ!?」
揺さぶられた男は、はじめは寝ぼけていたが、直ぐに覚醒して勢いよく飛び起きる。
「ここは……!? 俺は……!?」
周囲をキョロキョロと見回し、すぐに相棒が自分の肩を持っている事に気付くと、男たちは抱き合い、互いに生きている事を泣いて喜び合うのだった。
「本当にありがとうございました」
冒険者の男二人が、俺たちに謝礼をして地下二階から上っていくのを見送ってから、俺たちは二階層を振り返る。
「武田さん」
「ああ。吸血神殿が広いから、本隊がどこかまでは確定出来ないが、奴ら、ここから左前方に監視を置いているな。付いてきてくれ」
確信を持って語る武田は、迷いなく偵察隊の方に向かって走り始めた。
「武田さん、先程の兵隊たちの誰が、『粗製乱造』のスキル持ちか分かりますか? 先に倒しておきたいんですけど」
ここにきても大量の魔物たちが俺たちの行く手を阻んでくる。これを少なくする為にも、『粗製乱造』の持ち主は先に行動不能にしておきたい。
「それか……」
だが武田は渋い顔をする。
「どうかしたんですか?」
「結論から言おう。俺たちが相手をした奴らの中に、『粗製乱造』の持ち主はいなかった」
「そうですか」
と言う事は、本隊の方にいて、そこで大量に生み出した魔物たちを送り込んでいたのかな。
「だが、魔物たちはあの場で増産されていた」
「は?」
武田の言に思わず間抜けな声を吐いてしまった。
「それはつまり、スキルが誰か分からないように『隠蔽』みたいスキル持ちがいたとか?」
「いや、『隠蔽』のスキルや、魔道具で隠されているなら、スキルの項目だけ、何も表示されないのはおかしい。他の項目は見えていた。アンゲルスタ人と言うのも隠しておきたい項目だろう。相手に出来るだけ情報を与えないのは良くやる戦術だからな」
確かに、スキルは隠しておきたい項目だろうけど、それだけを隠蔽するのも変な感じだ。
「それに、複数人があの場で『粗製乱造』のスキルを使っていたのを確認している。『粗製乱造』はそれ程数の多いスキルじゃない。レアスキルと呼んで良いスキルだ。その持ち主がアンゲルスタだけに多数出現しているものだろうか?」
「それは……、やっぱりアンゲルスタにも何かあるんじゃないですか? 実際、アンゲルスタ人には、性別、年齢、肌の色に関わらず、スキル持ちは存在します」
ダムで襲ってきた奴らは、確かにスキル持ちだった。
「それはそうなのだろう。だが、俺に見えた項目で、不気味なものが一つあったんだ」
「不気味なもの、ですか?」
「ああ。アンゲルスタ人全員に、服薬中と言う一文が明示されていた」
「薬ですか?」
何かヤバい匂いしかしないなあ。
武田と会話をしている内に、俺たちは偵察隊をどんどん追い詰めていき、偵察隊は本隊に合流して、こちらを待ち構える作戦に切り替えたらしい。地下二階、一番奥の部屋で、アンゲルスタの兵隊たちは待ち構えていた。
(入口の側に二人ずつ隠れているな)
俺たちはそれを警戒しつつ、ゆっくりと中に入っていく。すぐに入口脇の兵隊たちが襲ってくるかと思ったが、そんな事はなかった。全員銃を下げて、こちらを見守るような形だ。
「Welcome! Thank you for coming!!」
先程の男が手を叩いて俺たちを歓迎してくる。何人か柱の影に隠れているな。ちゃんと中に入らないと攻撃が当て難い場所だ。
「何なんだあんたら? さっきも聞いたけど、何が目的なんだよ?」
相手の武器は強力だが、俺たちよりは弱い。俺たちは何かあればすぐに部屋から出られるように警戒を強めながら、部屋の中に入っていく。そこには凍血鬼が何体も待ち受けていた。あれは本物だな。強さが違うのが肌で分かる。
「目的? 目的ナラ既ニ達成サレテイル」
既に達成されているだと!? そう思った次の瞬間、男の指示によって銃撃が襲い掛かってきた。直ぐ様俺とバヨネッタさんがアニンとナイトアマリリスを盾にするが、奴らの標的は俺たちではなかった。
入口脇の兵隊たちが、仲間によって蜂の巣にされる。どう言う事だ!? と疑問に思った次の瞬間、兵隊たちの中から巨岩が複数現れ、入口を封鎖する。そうか、こいつら『空間庫』の中にこれを持っていたのか。その量は大量で、部屋の半分が巨岩で埋まる。この量を一瞬で出すのは『空間庫』持ちでも難しい。だから殺したのか。馬鹿か!?
「狙いはこれか! 自爆かよ!!」
振り返って見れば、奴らはそれぞれ何かのスイッチを押していた。奴らはテロリストだ。自爆だってしてくる。俺とバヨネッタさんはアニンとナイトアマリリスを使って皆を覆った。
直後に爆発が部屋中を滅茶苦茶に搔き乱すが、俺たちががっちり防御した事で、爆炎も爆風もこちらに通る事はなかった。
「何だったんだあいつら? 狂っていやがる」
俺は毒吐くように言葉を口にしていた。訳が分からず、後味の悪さだけが残った。しかし、目的は達成した。と言う奴らの言葉だけは耳に残っている。何があるか分からない。早く部屋から出なければ。
そう思って動き出そうとした瞬間、部屋に大水が雪崩れ込む。何だこれ!? これも『空間庫』持ちが隠していたのか!? 水はあっという間に天井まで達し、そして部屋は一瞬にして凍結した。
「マジかよ!?」
「そう言えば凍血鬼がいたのよね」
アニンとナイトアマリリスによって作られた空間の中で、アネカネが嘆息する。自爆に付き合わされた凍血鬼たちの末期の抵抗か。成程、爆発で倒せなくても、こうやって閉じ込める算段か。なんて奴らだ。早く出ないと窒息死だ。
空間は氷で固まっているので、俺はアニンを腕輪に戻す。さて、どうするか? と思案する俺の目に、氷漬けにされた薬瓶が写った。自爆で『空間庫』から飛び出したのか? そのラベルには、『Skill enhancer drug』と印字されていた。
「スキル・エンハンサー・ドラッグ?」
「どうしたの?」
俺がそれを口にすると、全員が俺の見た方を見て首を傾げた。
「ああ、ええっと、つまりスキル付与薬って書かれているんです」
「スキル付与薬ですって!?」
全員の顔が、汚らわしいものを見る目に変わった。
「ヤバいですか?」
「何であれ、これを作った奴は人間をやめているわ」
そうなんだ。そんなに忌々しげに睨むものなんだ。
「へえッ!?」
そこにアネカネの素っ頓狂な声が響いてきた。何事か!? と全員の視線がアネカネに向く。
「皆! ここでジッとしている場合じゃないわ! 地上が大変な事になっている!」
アネカネが、召喚した角ウサギの目を通して、地上が大変だと教えてくれた。アンゲルスタが何かやりやがったな!
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