第259話 管財人は必要ですか?

「では、今回のバヨネッタ様、ゼラン様、異世界四国による合同企画展の会議を始めたいと思います」


 前日の翌日つまりは今日。なのだが、放課後クドウ商会に日本、異世界四国から様々な人々が集まり、菓子類や飲み物が配り終わったところで、モニター横に立った三枝さんのあいさつで、会議が始まった。


「今回の企画展は、日本で開催される展覧会でも最大規模となります。その為一ヶ所の博物館ではカバーしきれず、各国一ヶ所の博物館を使用しての展示となります。なので、四国プラスバヨネッタ様で、東京の五ヶ所の博物館を使います」


 モニターに五ヶ所の博物館が映し出される。どこも有名な博物館で、小中学生時代に校外学習で行った事のある場所も見受けられた。


「そして、今回のこの合同企画展を統括して、『未来地図フューチャー・アトラス』と言うテーマを打ち出して行きたいと思います。これは地球と異世界との未来へ向けた展望を、新たな地図を描くと言う表現で喩えた形です」


 自信満々に口にする三枝さん。


「フューチャー……マップじゃなくて、アトラスの方なんですね?」


 俺の疑問に、待ってました。とばかりに鷹揚に頷き返す三枝さん。


「はい。何故アトラスかと言いますと、ご存知の方もいらっしゃるかと思われますが、地図のアトラスとは、ギリシャ神話に出てくる、巨人アトラスからきています。ゼウスたち神々との戦いに破れたアトラスは、敗者の罰として、世界の西の果てで天を担ぐ役目を担わされました。その話を聞けば、異世界の方々は、こう思うのではないでしょうか? 『まるでマーマウのようだ』と」


 三枝さんの説明に、異世界人たちは皆一様に頷いた。マーマウと言うのは、平面世界である向こうの世界を、下から支える巨人の王の名である。確か驕る巨人の王は、神の座にその手を伸ばすが敗北し、罰として世界を支える役を与えられたんだったか。


「成程。マップよりアトラスが相応しい理由は分かりましたけど、何ですか? その絵?」


 モニターには、おそらくマーマウを描いたのであろう、平面世界を担ぐ巨人が映し出されている。しかし下手だ。辛うじてそれが何を表しているのか理解出来た自分を褒めたいレベルで。


「すみません。現物を用意出来なかったので、僭越ながら私が描かせて頂きました」


 恥ずかしそうにする三枝さん。この人、絵下手だったんだ。ちょっと意外。


「実際のパンフレットなどでは、ここは有名な絵画を撮影し、印刷したものを使用させて頂く予定です」


「有名な絵画、ですか? それって?」


 俺が疑問を口にするなり、


「画家イチェンエリの『世界を支えるマーマウ』の絵ね」


 とバヨネッタさん。それに首肯する三枝さん。


「有名なんですか?」


「うむ。余でも知っているぞ。模写したものが出回っておる」


 東の大陸にあるパジャンの天である、ラシンシャ天も知っているのか。


「余も知っている。何だか見た事があるぞ」


 対抗意識なのか、ジョンポチ帝が手を上げる。


「当然です。あの絵は帝城に飾られているのですから」


 と陛下の後ろに控えるソダル翁が教えてくれた。へえ、帝城にある絵なのか。あ、ジョンポチ帝が顔を真っ赤にしている。人前で帝に恥をかかせるのはどうなのだろう?


「その絵の事でしたら、昨日担当者から連絡を受け、今回の企画展に出展させて頂く事になっております」


 ソダル翁が付け加えて教えてくれた。


「じゃあ、本物の『世界を支えるマーマウ』が見れるのね!?」


 バヨネッタさんのテンションが爆上がりした。バヨネッタさんだけでなく、異世界人全員テンションが上がっている。そんなにテンションの上がる絵なのか?


「向こうで一番有名な絵画と言っても過言じゃないのよ!」


 と首を傾げる俺に、バヨネッタさんが教えてくれた。そんなに有名な絵なのか。それは期待出来るな。


「今回の目玉展示の一つですから!」


 三枝さんも、やってやった! って顔をしている。きっとこの絵をオルドランド側から引きずり出すのに、かなり骨を折ったんだろうなあ。


「分かりました。でも、そうなると警備体制なんかも更に厳重になりますね」


「はい。ですので、今回の企画展では、三段階の警備体制を敷く事になります」


「三段階、ですか? 三重ではなく?」


「はい。言ってみればエリア分けですね」


 エリア分け? 首を傾げる俺に三枝さんは頷いて言葉を繋げる。


「今回の各国の展示品には三段階のランク分けをして頂く事になりました。そしてランク分けされた各展示エリアごとに、警備体制を変える事になります」


 成程、それで三段階なのか。


「ランクの低い展示物としましては、各国の生活様式が見られる物、家具や食器、生活道具、仕事道具などの展示を予定しております」


 ふむふむ。


「続きまして、中ランクの物といたしまして、魔石や魔道具、魔物の剥製など、異世界でしか見られない物を予定しております」


 成程成程。


「そして最後の高ランクですが、これには、各国からの厚いご協力を賜りまして、その国の国宝、重文クラスの名品を出展して頂く事が叶いました!」


 盛大に拍手する三枝さん。それにつられてこっちまで拍手してしまう。三枝さんテンション上がっているなあ。ジョンポチ帝やラシンシャ天、ウサ公が鷹揚に頷いているので、本当に各国自慢の名品を出してくるつもりなんだろうなあ。


「それって、守るの大変なんじゃないですか?」


 俺の疑問に三枝さんがにやりとする。我に秘策あり。ですか。


「まず、当然盗まれては大問題ですから、こちらの警備体制の強化に加え、オル様の協力の下、魔法に対しての警備も強化します」


 それはそうでしょうね。


「その上で中ランクエリア以上には更なる警備体制を敷き、人数制限、荷物検査なども行います」


 成程。低ランクエリアであれば誰でも入場可能だけど、それ以上のランクには予約か何かしないと入れなくする訳か。


「更に高ランクエリアの出入り口では、魔法も使用しての身体検査も実施する予定です」 


 おお! 徹底的にやるんだ。


「でも、そんな事やるスペースあります? それならいっそ、低ランクエリアと中、高ランクエリアで建物ごと変えれば良いのでは?」


「私としてはそうしたかったのですが、文科省、博物館協会と協調して事にあたるに対して、予算の限界と言うものがありまして」


 まあ、そうか。国宝や重文クラスを借り受けるんだから、相当金は積むんだろう。その予算もそうだし、俺の意見じゃあ、単純に博物館の数を倍にしろ。って言っているもんだもんな。無理だわ。


「じゃあどうするんですか?」


「各国から管財人を派遣して頂ける事になりました」


「管財人?」


 って破産した時なんかに破産者の財産を差し押さえて、債権者に分配する人だよね? いや、異世界なんだからそんな訳ないか。


「向こうの世界での管財人とは、その名の通り財産を管理する人を指します。王侯貴族や豪商など、貴重な財産や財宝などを有する家では、管財人をその配下に置いている事が珍しくありません」


 そうなんだ。


「で、その管財人の方が来られると、警備がし易くなるんですか?」


 頷く三枝さん。異世界の人たちもなんだか納得している。


「管財人って言うのは、『空間庫』の専門家なのよ。様々な『空間庫』を時と場合に応じて使い分けられるわ」


 とバヨネッタさんが教えてくれたが、いや、さっぱり分からないのだが?


「つまり、見物客の皆様には、管財人の持つ庭園ガーデン型の『空間庫』に入り、その中で財宝の見物をして頂く運びとなります」


 成程。それなら出入り口は『空間庫』の取り出し口一つとなるのか。『空間庫』なら場所を取らなくて済むから、低、中ランクエリアに場所を譲れるし、警備するにしても、その管財人一人を警護すれば良くなるのか。考えてあるなあ。まあでも、警備レベルはトップクラスにする必要あるよなあ。


「あの、万が一、警備に失敗して、管財人がお亡くなりになったら、管財人が保有する財宝類はどうなるんですか?」


 と質問する。そう言えば考えた事なかったなあ。死んだら『空間庫』の中身ってどうなるんだ?


「それはもちろん、こちらの世界に飛び出す事になりますね」


 三枝さんが教えてくれた。そうなんだ。横でバヨネッタさんが呆れている。すみませんねえ今更で。


「あれ? でもバヨネッタさん、管財人いませんよね?」


「私は別にそんなに大層なものは展示しないわ。『マギ*なぎ』とのコラボだし。目玉展示は宝石樹かしら?」


「宝石樹、ですか?」


「そう。宝石の実がるの。キラキラして綺麗なのよ」


 いやそれ、絶対に管財人が必要なやつじゃん!

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