第216話 ままならない
日本人での話し合いが終わり、三枝さんと祖父江兄妹は神妙な面持ちで日本に帰っていった。残ったのは俺、タカシ、シンヤだ。三人で円卓を囲う。
「…………あー、元気にやってるんだろ? シンヤ」
タカシが話の口火を切る。
「まあね。ちょっと前に操られてハルアキを殺しそうになったけど」
場の空気が一気に重たくなった。
「あー、はははは。良くある良くある。ハルアキだもんな」
「タカシよ、俺をなんだと思っているんだ?」
「不幸の星の下に生まれた、波乱万丈な男」
絶妙に否定し切れない。
「不幸の星の下に生まれた。と言うなら、あの事故に遭った俺たち全員そうだろう」
「確かにな」
俺たちは顔を見合わせ笑い合った。
「しかし何の因果か、まさかこうやってシンヤと再会出来るとは思っていなかったよ」
腕を組んで天を仰ぐタカシ。
「そう言う割りにはタカシのスキル、『探知』じゃないか」
俺のツッコミに、タカシはバツが悪そうな顔になる。
「なんかさあ、こう言う人生の選択って上手くいかなくないか?」
タカシは卓に肘を付いて、俺たちに訴えてきた。
「どう言う意味?」
シンヤと俺は首を傾げた。
「俺は女の子にモテモテになるよう天使に頼んだんだ」
「タカシ、そんな願いをしたのか!? 勇気あるな」
タカシの事情を初めて知って、シンヤは驚く。
「でもさあ、そりゃあ女の子にキャアキャア言われはするけど、そこまでなんだよねえ」
?
「女の子もスキルで魅了されているんだけど、関係を進展させようと思ったら、こちらも要努力って感じ」
ふ〜ん。そんなだったっけ?
「まあ何であれ、俺の妹に手を出したら分かっているよな?」
「まあ何であれ、ウチのお姉ちゃんたちに手を出したら分かっているよね?」
顔を引きつらせて何度も頷くタカシ。
「それは分かっているけどさあ、なんて言うか、…………思っていたのとちょっと違う」
「ああ〜〜」
俺とシンヤは深く頷いた。
「僕も、勇者として異世界に行くから、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だろうなあ。と思っていたら、なんかパジャンって和風と中華風が混ざったと言うか、オリエンタル? アジアン? そんな感じのところなんだよねえ。こっちに来てヨーロッパ風だから驚いたよ」
勇者パーティの服装からなんとなく推察出来ていたけど、パジャンはやっぱりそんな感じなんだな。
「シンヤは最初どんな場所に転移したんだ?」
「僕の場合は召喚って感じだったから、宮殿の離れにある、泉の上の
「それならまだマシだよ。俺なんて転移先、真っ暗な崖下だったんだぞ」
俺の言っている意味が分からない。とばかりに首を傾げるシンヤ。
「しかもどこにも出口がないから、ツルハシでひたすら横穴掘っていたよ」
マジなのか? とシンヤはタカシを見遣るが、タカシが深く頷いてみせたので、苦笑いになった。穴掘り、大変だったなあ。
「トモノリもさあ、魔王になりたかったのかは知らないけど、まさか前世魔王と融合しちゃうとは思っていなかっただろうなあ。まあ魔王がトモノリか分からんけど」
タカシの言葉に俺とシンヤは深く深〜く頷いたのだった。
「そう言えば、多分気になっているだろう他のメンツだけど……」
と俺が口を開くと、二人の顔がこちらを向く。
「俺がオルドランドで占い師に占われた限りでは、俺は全員と会えるらしい」
「マジか!?」
驚くタカシとシンヤ。タカシは聞いていないぞ。と俺に視線で圧を掛けてくる。
「占い師の言葉だからな。鵜呑みには出来ないだろう? でもまあ、シンヤには確かに会えたしな。一応ここで情報共有しておこうと思って」
「それって、他の三人ともこの世界にいるって事か?」
とシンヤが首を傾げながら尋ねてくる。
「どうかなあ? 事故後にあの天使が夢枕に立った時、何て言っていたか覚えているか?」
俺の発言に、二人は顔を合わせて首を傾げる。覚えていなさそうだ。
「言っていただろう? お望みなら、もっと科学文明の発達した世界でも、まだ人間の生まれていない原初の世界も選べるって」
二人が、思い出した。と言わんばかりに大きく頷いた。
「他の世界なのに会えるのか?」
とシンヤ。
「実際俺たち会っているしな」
俺の言に納得したのか、二人して頷いている。なんか俺も含めて頷いてばっかりだ。
「でもそれって、ハルアキだけなんだろう?」
とタカシが尋ねてくる。
「俺だけ。かは分からないけど、まあ、俺が死ななければな。俺が死なない限り、全員生きているともとれるからな。可能性としては全員が顔を合わせる事も夢じゃないかも知れない」
夢のまた夢かも知れないが、この場でくらいこんな話をしても良いだろう。
コンコン。
話が一区切りして、皆でコーラで再会に乾杯していると、部屋の扉がノックされた。
「はい」
「私よ。アネカネ。ティティお姉ちゃんの妹の」
ああ、アネカネか。何か用だろうか? 俺は二人の方を見遣る。シンヤは別に問題ないと頷き、タカシは女の子の声に鼻息荒く興奮して頷いていた。この調子なら、と俺は扉に近付き止まった。俺たちは日本語で話していた。そこにアネカネだ。二人が頷いたことから、アネカネが日本語で話し掛けてきた事が理解出来たからだ。
「どうかした?」
扉の向こうで話し掛けてくるアネカネ。俺は一度振り返るが、タカシが早く開けろと急かす。まあ『言語翻訳』のスキルか何かなのだろうと納得して俺が扉を開けると、アネカネが一人で立っていた。
「入って良いかしら? なんだか大人たちは難しい話をしていて、私一人外野って感じなのよ」
ああ、勇者パーティがやって来た事で、『魔の湧泉』をどうするか三公らを交えて議論になっているらしいからなあ。確かにアネカネくらいの立場だと、蚊帳の外かも知れない。
俺は特に部屋に入れても問題ないだろう、とアネカネを迎え入れた。
「初めましてお嬢さん」
アネカネが部屋に入ってくるなり、スッと立ち上がったタカシが、スススとアネカネの前までやってきてあいさつした。
ブズッ。
「んぎゃあああ!?」
両目を指で突き刺された。デジャヴかな?
「何こいつ? いきなり『魅了』掛けてきたんだけど?」
とアネカネが俺に文句を言ってきた。
「ああ、天使に貰ったスキルだから、自動発動なんだよねえ」
「成程」
すんなり納得するアネカネ。アネカネに目潰しをされたタカシは、ポケットから
「も、申し訳ありませんでした」
「何あれ?」
謝るタカシを無視して、アネカネは円卓に近付いていった。気になったのは俺たちが飲んでいたコーラらしい。
「コーラって言う飲み物だよ」
「へえ。そう言えばお姉ちゃんから聞いたんだけど、ハルアキって異世界人なのよね? って事は……」
何かを期待するかのように、アネカネが下から俺の顔を覗いてくる。
「ああ。確かにそれは俺たちの世界の飲み物だよ。飲む?」
「飲む!」
お目々キラキラさせているなあ。俺は『空間庫』からペットボトルのコーラを取り出すと、蓋を開けてアネカネに渡した。
それを、ゴクリ。と一口飲み込んだアネカネは、炭酸の刺激に眉根を寄せながらも、その後満開の笑顔を見せた。
「面白い!」
美味しいじゃなくて面白いか。それでもゴクゴクとコーラを飲んでいるので、嫌いな味ではないのだろう。
「ふふっ。良いわね。未知のものに触れるのは楽しいわ。ハルアキの世界にはどんな動物がいるのかしら?」
俺たちの世界?
「興味あるの?」
「あるわ。大ありよ。連れて行ってくれるの?」
「こっちの世界の人間を、勝手に向こうに連れて行くのはどうなんだ?」
俺の発言に、シンヤやタカシも首を傾げた。
「そうね。確かに私たち会ったばかりだものね。…………そうだわ!」
何かを閃いたアネカネは、俺の真正面に立つと、俺の両手を握り、俺の瞳を覗き込む。
「私と結婚しましょうハルアキ!」
「……………………はあああああ!?」
俺の声は裏返っていた。
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