第197話 対吸血鬼(中編)
「くっ!」
バヨネッタさんの銃弾を受け、左肩から血を滴らせたウルドゥラは、目を血走らせながらこちらを睨み付けてくる。
ダァンッ!
更に一発、バヨネッタさんはピースメーカーを鳴らすが、撃ち抜いたのは霧となったウルドゥラだった。
「攻撃の瞬間以外では、こちらの攻撃は通用しないか」
そう言ってバヨネッタさんは両手に金と銀のピースメーカーを構えて、いつ何時ウルドゥラが現れても大丈夫なように備える。
「何をボサッとしているの? ハルアキが頼りだと言ったでしょう。どうせ同情して殺せないのだから、もっと気を張りなさい」
「バヨネッタさん……」
「殺せないだと? そいつはお優しい事だな」
バヨネッタさんのすぐ前に現れたウルドゥラは、両手を広げて、大鎌で袈裟斬りと斬り上げを同時に仕掛けてくる。俺はそれを腕と足から生やした黒剣で受け止めた。
ダァンッ!
そしてまるでそれを信じていたように、直後にバヨネッタさんのピースメーカーが火を吹く。銃弾が頬を裂き、耳を削ぐ。すぐに二射目を発射するが、その時にはウルドゥラは姿を消していた。
「どうやら、ウルドゥラはバヨネッタさんに目標を定めたみたいですね」
「当然よ、ハルアキがいるのだから」
「俺ですか?」
「ウルドゥラからしたら、自身の攻撃は防がれるのに、ハルアキの攻撃が当たるなんて、自尊心が許さない上に、ここで倒せなければ、逃げ出したとして、対抗手段がない。と喧伝しているようなものだもの。だからどうにか眼前で私を八つ裂きにして、あなたが動揺したところを仕留めるつもりなのよ」
ウルドゥラにとって俺は、目の上のたんこぶみたいなものなのか。それにしてもそんな理由でバヨネッタさんを狙うとは、タチが悪い。
「それは分かりましたけど、それはそれとしてプランAとか、プランBとか、訳分かんないんですけど?」
戦場である為に、
「プランAはさっきの竜の火炎よ。私とリットーだって、漫然とここまで戦っていた訳じゃないわ。ウルドゥラと戦いながら奴に有効な攻撃はないか探っていたのよ」
とバヨネッタさんがそこまで口にしたところで、鋭いウルドゥラの大鎌が、バヨネッタさんの脳天目掛けて振り下ろされる。
ギィンッ! ダァンッ!
俺がそれを振り払った瞬間、銃声が鳴り響き、奴の脇腹に穴が開く。そしてまた消え去るウルドゥラ。
「そして二つの可能性を見出したの」
話を続けるバヨネッタさん。その間もウルドゥラは攻撃を仕掛てくる。それを俺は捌きながら、次の瞬間にはバヨネッタさんが攻撃していた。この一連の繰り返しだ。ただし気になるのは、段々とウルドゥラの攻撃が強さを増していっている事だ。
「世界を騙すウルドゥラの『認識阻害』だけど、世界そのものを破壊するような範囲攻撃ならば、世界ごとウルドゥラを滅殺出来るんじゃないかと」
「それが、ゼストルスの竜の火炎ですか?」
「そうよ。私が千万の銃砲で斉射しても良かったのだけれど、それを準備するまでに奴に隙を見せる事になるから却下したの」
確かに、ゼストルスの火炎も不意打ちだった。バヨネッタさんのバヨネットでは、更に準備に手間取って、一斉射撃の前に攻撃を受けるか、ウルドゥラに逃げられていた可能性は高い。
「それでやってみた結果、奴には無効だと分かったわ。それでプランBに移行したの」
プランBと言うのが、今やっているカウンター攻撃なのだろう。
「例え『認識阻害』を使用していても、攻撃の瞬間にはウルドゥラも実体化するわ。そこを狙えば良い事くらい、幼子だって分かる事。でもそれがとても難しい事だったのよ」
「でも今、当てられていますよね?」
「だからそれはハルアキがいるからよ」
「はあ?」
「はあ」
俺の返答に溜息を返されてしまった。なんか分からないけど、すみません。
「ウルドゥラの攻撃は私の銃撃より初動が素早く、また攻撃が決まった次の瞬間には消えているの。奴に攻撃を当てようと思ったなら、こちらは、奴の攻撃を受け止めてから反撃するしかなかったのよ」
それは無謀と言うやつだ。俺とバンジョーさんは、バヨネッタさんとリットーさんが八つ裂きにされたと聞いたからこんな迷宮の奥までやってきたのだ。それなのにわざわざ自分から八つ裂きにされると言うのは頂けない。
「ハルアキが言いたい事は分かっているわ。私たちだってそこまで無鉄砲じゃないのよ」
心を読まれたようで、なんとも気恥ずかしい。
「そこで頭に浮かんだのがハルアキよ」
「俺、ですか?」
「ハルアキには元々『野生の勘』と言うギフトがあったわよね? これがあれば、事前にウルドゥラの攻撃を感知して、それを防ぐ事が出来るんじゃないかってね」
成程。そして実際に俺はウルドゥラの攻撃を防ぎ切っている訳か。
「こちらの予想を上回る働きよ、ハルアキ」
ん?
「予想通りではないんですか? 俺の『野生の勘』でウルドゥラの攻撃を防ぎ、その瞬間を狙ってバヨネッタさんが奴を撃つ」
「期待値としては半々だったわ。私たちだって気を抜けば首を飛ばされるのよ? ハルアキにどれ程防げるかなんて分からないじゃない」
言われてみれば確かにそうだ。この迷宮に入ってからの俺の勘の冴えがなければ、俺自身、首を飛ばされていても不思議じゃない状況が、今も継続中なのだ。そんな事を考えながら、俺はウルドゥラの大鎌を受け止め、次の瞬間にバヨネッタさんのピースメーカーが火を吹く。
これで何発目だろうか? ウルドゥラは全身を血に染めながら、しかし何が面白いのか、ニタァと笑い、また消え去るのだ。そして次にくる斬撃が強くなる。
「ハルアキ、自分の『野生の勘』の能力が上がっている事に自覚はあるわね?」
「はい」
「恐らくそれは、坩堝のフタが開いた事が無関係ではないはずよ。『回復』のスキルも上がっていたように、他のスキルやギフトも軒並み能力が向上し、また、混ざり合ったりしている事でしょう」
「能力が混ざり合う? ですか?」
「つまり、あなたの『野生の勘』と『時間操作』が混ざり合って、ちょっとだけ未来を感知出来るようになったと言う訳よ」
成程。ほんのちょっとだけ未来が見れるようになったが為に、バヨネッタさんやリットーさんさえ後手に回るウルドゥラ相手に、これだけ正確に防御出来ていたのか。
「そいつはまた、ズルい能力だな?」
どこからともなくウルドゥラの声が聞こえてくる。あれだけ血を流しているのに、ウルドゥラは攻撃の手を弱めない。それよりも明らかに段々と攻撃力が上がってきている。
「気を付けろよ二人とも! ウルドゥラのギフトは『供血』だ!」
『魔の湧泉』から溢れてくる魔物の相手をしているリットーさんが、俺たちに注意喚起してくれた。
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