第179話 一対五千の乱戦
「撃てーー!!」
ジョーエルの号令で一斉に撃ち込まれる魔法に竜の炎。飛竜の火炎が、その熱波で俺のすぐ側の木を消し炭に変え、頭上からは氷の槍が降り注ぎ、側面からは疾風の刃が斬り刻み、雷電が迸る。大地は大きく揺れてひび割れ、大きな石筍が無数に飛び出てきた。
攻撃が止んだ頃には、辺り一面は攻撃の余波で粉塵が立ち昇り、俺がいた場所は何も見えなくなっていた。そこに風が吹き流れ、粉塵を流して行く。薄くなった粉塵の中、俺は無傷で立っていた。
「馬鹿な!?」
拡声魔法を入れたままのジョーエルの声が響く。「馬鹿な!?」と言われてもな。俺には『聖結界』があるから、魔力が続く限り、攻撃は無効化出来るのだ。しかしそれも魔力が続けば、だ。
俺は『聖結界』を解除した。五千対一では、どう考えても俺の魔力の方が先に尽きる。そうすれば先程と同様の攻撃を生身で受けて、俺の身体は微塵も残らないだろう。その前に決着を付けねばならない。
自分たちの一斉攻撃が通用しなかったところで、動揺が走る賊軍目掛け、俺は『時間操作』タイプBで加速して突っ込んでいく。こうなれば先に大将首を獲った方の勝ちだろう。俺の方は俺しかいないけど。
俺は走りながら腰の改造ガバメントを引き抜き、両手に構えると、賊軍の間を縫うように、ジョーエルの元まで一直線に駆け抜け、その姿が見えた時点で、銃を構えて引き金を引いた。
動揺にザワつく賊軍の中で、銃声が鳴り響くが、俺の放った銃弾はジョーエルの直前で弾かれ、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。
「結界かッ!」
これはこのまま撃ち続けるのが正解なのか、それともアニンの黒剣で斬り裂くのが正解か、逡巡した隙に、
「何をしている! さっさとそいつを殺してしまえ!」
と言うジョーエルの命令に、我に帰った兵たちが襲い掛かってくる。
俺は剣で、槍で、魔法で、攻撃を仕掛けてくる敵兵の攻撃から逃れる為に、アニンを翼へ変化させて宙に飛び上がった。
が、それを「待ってました!」と言わんばかりに、飛竜が俺に噛み付こうとしてきたのだ。俺はそれを身体を捻って避けるが、避けた先にまた飛竜、また飛竜、と避けるだけでも精一杯だ。
このままではじり貧である事は自明である。俺は『時間操作』タイプBを更に加速させて、飛竜の攻撃を振り払う。
「クソッ、なんて速さだッ」
竜上で悪態を吐く竜騎士の背後に立った俺は、二丁の銃を構えて引き金を引く。
「がはっ!?」
撃たれた竜騎士は電撃と呪式で麻痺して、手綱を離して地上へと落ちていった。まずは一人だ。
地上へと落ちていった竜騎士は、地上に叩き付けられてビクビクとしていた。竜騎士の鎧と言うものは、こうした不測の事態で竜上から落下する事になっても大丈夫なように、物理耐性に特化して作られているのだそうだ。だから俺が前に首を落とした飛竜に乗っていた鎧の男も無事だったし、今回の竜騎士も死んでいない。これで思う存分空で戦える。
俺がガバメントを構えると、飛竜自体は俺の事を気にも止めないが、竜騎士たちに緊張が走る。俺はそれを見逃さなかった。タイプBで加速し、一人の竜騎士の死角を取ると、銃弾を撃ち込み、そこに飛竜が噛み付いてくれば、避けて更にそこに乗っていた竜騎士に銃弾をお見舞いしてやる。
俺はこれを繰り返していくが、相手の数が多過ぎる。飛竜だけで百頭以上いるのだ。弾倉の装弾数には限りがあり、マガジンチェンジで『空間庫』から弾倉を取り出す時にどうしても隙が生じてしまう。
相手もさるものであり、俺の隙を見逃さず、飛竜の尾によって、俺は地面へと叩き付けられてしまった。
直前で『聖結界』を張った事で、ダメージこそなかったものの、落とされた先は敵陣の中だ。落ちてきた俺へ、剣が槍が魔法が降り注ぐ。俺はそれらをバッと地面を蹴って避けながら、攻撃してきた敵兵たちの後ろに回り込むと、弾倉が空のガバメントのフレームで敵兵を後頭部から殴り倒す。
魔法や剣槍の飛び交う乱戦の中、俺は魔法を避け、そこに剣を振るってくる敵兵を躱しながら、ガバメントを鈍器へと変えて殴りまくった。流石はゴルードさん謹製の改造ガバメントだ。そのフレームは剣や槍を砕き、敵兵の鎧を
ここにきて白兵戦で俺と戦うのは分が悪いと考えたのか、剣や長柄武器で俺に襲い掛かってくる者の数が減っていった。皆が魔法にシフトしようとした瞬間、今度は相手側に隙が生じた。
俺はその隙を見逃さず、『空間庫』から銃弾を取り出して、改造ガバメントに装着させた。その異様さに、こちらへ攻撃しようとしていた敵兵の動きが止まる。それはそうだろう。何せ数多の銃弾は一列になって連なり、その先は未だに『空間庫』へと続いているのだから。
これが俺が今回の戦いの為に用意した秘密兵器、『無限弾帯』である。弾帯とは機関銃などに使用される、大量に銃弾が連結された帯の事だ。こいつを弾倉の代わりに改造ガバメントに装着したのだ。無限と呼称しているが、もちろん有限である。でも大変だったんだぞ、魔弾を二百万発も用意して、連結させるのは。
さてと、それじゃあセレクターをフルオートに切り替えて、と。
「ここからは無双モードだ!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ…………!!!!
俺の突き出した改造ガバメントから、電撃と呪式の魔弾が、途切れる事なく敵兵たちを撃ち抜いていくのだった。
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