第152話 おや?
「そうか。分かった。確かに向こうの言い分は分かる。こちらにしても、転移能力者に好き勝手に日本国内を動き回られたら、難儀するだろうからな」
辻原家別荘にて、対面する辻原議員は俺の説明に深く頷いていた。
「それで? オルドランド側の転移能力者が揃うのは、いつくらいになりそうなんだ?」
辻原議員にそう言われて、俺は首を捻ってしまった。はて? いつになるのだろうか? 聞いていなかった。
「おいおい、聞きそびれたのか?」
俺は首肯する。
「それよう、体よく国交締結を先延ばしにされただけなんじゃないか?」
そう言われると反論に困る。確かに、オルドランド側に転移能力者が揃わなければ、こちらからは動きようがないのだから。オルドランドが何人転移能力者を揃えるか、それまでに掛かる時間はどれ程なのか、把握しそびれたのは俺の失態だった。ジョンポチ陛下を無条件で信用し、向こうの言う通りに動かされたと言われても仕方ない。
「何でか知らんが、向こうのやつらは、基本的に赤ん坊の時に祝福の儀を受けるだけなんだろう? 赤ん坊じゃあ、転移能力が使えるようになるまで、いったい何年待たされるやら」
それはそうだ。それに赤ん坊じゃあ、祝福の儀でスキルを取得するにしても、完全にランダムで、俺の時のように、願いに添ったスキルが授けられる可能性は低い。
う〜ん、それともスキル屋で『超空間転移』を探してくるつもりなのだろうか? それなら分からなくもない。『超空間転移』を持っていたとしても、使い勝手はよろしくない。何せ最初に異世界と繋がるのはランダムだからな。どことも知れない場所と繋がるスキルを持っていたとして、日常で使えなければ、手放す人間はいる可能性がある。いや、『空間庫』の一つと考えれば、なくはないのか?
「どうなんだ? それとも、オルドランド人は日本と国交を結ぶ為に、わざわざ祝福の儀を再度行うと思うか?」
「それは宗教によると思います。ですが、日本と国交を結ぶのを大義名分に、祝福の儀を行う事はないでしょう」
「やはりそうか」
「ただ、可能性がない訳ではないかと。モーハルドが信仰しているデウサリウス教では、赤ん坊の時以外に祝福の儀を受けるのは、ご法度みたいな雰囲気でしたけど、実際にはこっそり祝福の儀を行っていたりしたようですし。また、一つの宗教から別の宗教に転向する時に、再度祝福の儀を執り行う事もあるようです。今回、日本と国交を結ぶにあたって、新たに転移能力を獲得するには、何かしら、宗教的に抜け穴が必要になってくるのは間違いないと思いますけど」
俺の話を聞いて、腕組みをして唸る辻原議員。
「そもそも、向こうの世界の住人は、何で基本一度しか祝福の儀を受けないんだ? 便利なスキルが授かれるんだ。何度だって祝福の儀を受ければ良いだろう?」
「それは、スキルが単に便利な能力なのではなく、神、または神々との繋がりだと思われているからでしょう」
「繋がり?」
俺は首肯する。
「向こうの世界では、スキルやレベルシステムがある為、実際に神が存在する。と言う考え方が一般的です。ですから、神からスキルを授かると言う事は、そのスキルを通して神と繋がる事を意味しているのです。それはつまり、そのスキルを使って生きよ。との神からのメッセージでもあり、宗教によっては、宿命や運命と定められる事もあります」
俺の説明に辻原議員は深く頷いていた。
「そしてそれは視点を変えれば、神からスキルを通して監視されているとも取れます。ですから、スキルを得る為に何度も祝福の儀を受ける行為は、どの宗教でも神への背信行為と定義され、場合によっては神から天罰が下ると考えられているようです。まあ、実際には何度も受けている人や、スキル屋を活用する人もいますけど」
「神か。日本人にはピンとこない考え方だな」
確かに。地球でも外国では宗教に入っているのは一般的で、日本人が無宗教だとカミングアウトすると、ヤバい奴のように見られて距離を置かれるのだそうだ。それは宗教と道徳が密接に絡んでいるからで、宗教に入っていない奴は、道徳や倫理感を持ち合わせていない奴と見做されるかららしい。日本人からしたら、宗教がないと自分を律せない方が変わっているが。
「春秋は、神がいると思うか?」
「どうでしょうねえ。天使には遭いましたけど、神とは遭遇していませんから。神はいるのか、それとも個としての神は存在せず、この世界全体を包むシステムが神なのか。俺には分かりかねます」
「この世界を包むシステムが神か。案外それが当たっているかも知れんな」
日本人の想像力では、これが限界かなあ。神がいるにせよ、いないにせよ、現行大事になってくるのは、神が存在するとされる世界のシステムが、地球でも使えると言う事実である。
天使の話では、世界は他にもいくつかあると口にしていた。つまりこの地球がある世界も、向こうの世界も、ある同一の理の中の別の面だと言う事だ。では何故、向こうの世界ではスキルやレベルアップのシステムが存在し、地球のあるこの世界には存在しなかったのだろう? …………それこそ、神のみぞ知るってやつだな。まあ、何にせよ、
「次に向こうの世界に行った際に聞いておきます」
俺は辻原議員にそう言うと、その場を辞したのだった。
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