第120話 無敵装甲
ビール川は上流へ行けば行く程、支流が増えてくる。これはピルスナー川やラガー川のように、本流から支流に分かれていくのではなく、いくつもの支流が合体して、本流の大きなビール川となる為だ。
そしてそんなビール川と支流の合流地点の一つは、木々が鬱蒼と生い茂り視界は悪く、ビール川を往来する貨物船や客船を狙う、川賊の温床となっていた。
「ぐっへっへっへっへ!」
そして今、俺たちが乗る『麗しのジョコーナ号』を、川賊船数隻が取り囲んでいた。
始めから俺たちが目的であったらしく、最初に支流の方から川賊船が見えた瞬間からこちらは逃げ出したのだが、逃げ出した先の支流にもお仲間がいて、回り込まれてしまったのだった。そして追いつかれ取り囲まれる俺たち。
「おい! 身包み全部置いていきな!」
川賊のリーダーである男が、山刀のような剣を、こちらへ突き付け命令してくる。だと言うのに、
「凄い! 自走船に乗っていて川賊に襲われるなんて低確率なのに、まるで当然のように襲われている!」
などとバンジョーさんが感心している。そしてバヨネッタさんは、
「はあ? するわけないでしょう? 馬鹿なのあなたたち? いえ、馬鹿だからこんな事をしているのだったわね」
売り言葉に買い言葉で、真っ向から川賊の要求を拒否する。
「なっ!? ほう? 死にたいみたいだな! お前らやっちまえ!」
とリーダーの号令の下、無数の矢の雨が降ってくるが、俺の『聖結界』に阻まれて一本も当たらない。
「なにっ!?」
驚くリーダーは、直ぐ様矢を止めさせる。
「結界か」
直ぐに答えに至るリーダー。
「そう言う事よ。諦めなさい」
とバヨネッタさんが、川賊たちにどこかに行けと手を振るう。
「はっ、だったらやる事は一つだよなあ」
川賊のリーダーの言葉に続いて、『麗しのジョコーナ号』に体当たりをしてくる川賊の自走船たち。
「はっはっは、結界を張ったのは失敗だったな! 結界を張れば中の者も自由に外には出れまい。その間に俺たちは、結界をぶっ壊させて貰う! せいぜい、結界が壊れるまで、中で恐怖に
との川賊リーダーの言。どうやら彼らは何が何でも俺たちから財産を奪い取らないと気が済まないらしい。
「ハルアキ」
「は〜い」
俺の『聖結界』が簡単に壊れる事はないだろう。『聖結界』なら仲間なら出入り自由だし。そして面倒臭い事だが、ここで川賊を倒しておかないと、後々この川賊が他の人を襲う訳で、気分が悪い。
俺が甲板に立つと、同時にミデンとアルーヴ五人組が立った。どうやらともに戦ってくれるらしい。
ハンドサインで左右を決める。俺とミデンが左で、アルーヴたちが右だ。さあ、川賊退治だ。と川賊船に乗り込もうとしたところで、
「バンジョーは戦わないの?」
とバヨネッタさんが無表情に尋ねてくる。
「いえ、ボクは吟遊詩人ですから」
首を左右に振るバンジョーさん。
「バンジョーは戦わないの?」
バヨネッタさんは無表情ながら圧が強い。
「…………はい」
根負けしたバンジョーさんが、トボトボと俺とミデンの方へやって来る。
「大丈夫ですか? 戦えますか?」
「ははは。ええい! こうなりゃ
と声を張り上げるバンジョーさん。それと同時に、デルートに変化していたオルガンの姿が变化していく。バンジョーさんの全身をぐるぐると覆い隠していき、そして硬質な物体へとその黒い身体が変化していった。バンジョーさんの全身を覆い隠したオルガンのその姿は、正しく黒い全身鎧であった。両腕にはブッ太い杭が付いており、あれで攻撃されれば物凄く痛そうだ。
「……はあ。凄いですね」
感心する。楽器に変化出来るかと思ったら、次は全身鎧か。同じ化神族であっても、変化するものは大違いだ。
「行くよ!」
と自棄になったバンジョーさんは、敵川賊の船に飛び乗る。ドシャンッとバンジョーさんが乗ったところが沈む。それ程オルガンが変化した、あの黒い全身鎧が重いと言うことなのだろう。
そんなバンジョーさんに乗り込まれた川賊たちは、剣で、槍で、弓で、魔法で、攻撃してくるが、それら全てを弾き返す黒い全身鎧。
「ふふふふ。この無敵装甲には、どんな武器も魔法も通用しないのだ!」
そう宣いながら、ドスンドスンと敵船の甲板を進むバンジョーさん。そして攻撃。攻撃はとてもシンプルだった。殴る蹴るである。あの装甲を維持する為に魔力のほとんどを使っているからだろう。両腕の杭以外武器は使用出来ない仕様らしい。
それでも強い。まるで戦隊ヒーローの巨大ロボットのように、全てを薙ぎ倒していくオルガン&バンジョー。なんか、俺やミデンの出番はないんじゃないかなあ。
「あなたたち、何サボっているのよ? 行きなさい!」
とバヨネッタさんに叱咤されて、俺とミデンもオルガン&バンジョーの後に続いて、敵船に乗り込む。
と言ってもこの船は既に二人が制圧していると言って良い。俺とミデンは『麗しのジョコーナ号』を囲う他の敵船へと移動する。
「この野郎!」
剣を振り上げ襲い来る川賊を、アニンを黒い棒に変化させて突く。
「げぶっ!?」
と甲板に倒れて動くけなくなる川賊。ま、一丁上がり。次、と思って辺りを見回すと、オルガン&バンジョーが黒い全身鎧で無双しているし、ミデンは分身して数を増やしてこちらも無双しているし、どうやら俺の出番はなかった。
「あ、ありがとうございます」
後になって俺たちの元に駆け付けてきた水上警備隊が、ちょっと引いていた。どうやら川賊とやり合って、生き残ったり、一部を追い返したり、一部を捕獲する事はあっても、一隻で多数の川賊の船を、一網打尽にしたのは珍しい事だったらしい。
「こちらを持って警備隊詰め所に来てください。今回の謝礼金をお渡ししますので」
朱印の押された紙を貰った。これをお金と換えてくれるらしい。
「お疲れ様でーす」
警備隊が現場検証を行っている横を、俺たちは首都へと進んでいく。
『麗しのジョコーナ号』の甲板にて。
「バンジョーさんって強かったんですね」
「はは、強いのはオルガンだよ。ボクはオルガンの中に引き籠もって震えているだけさ」
謙遜するバンジョーさん。
『どうだかな』
とオルガン。そうでもないようだ。
「いやいや、そんなご謙遜を。化神族を扱うには相応のレベルや魔力量が必要になりますからね。俺には全身鎧に変化させる事は出来ません。バンジョーさんは凄い事をしているんですよ」
「いやあ、そう? そうかなあ?」
俺の賞賛に照れまくるバンジョーさん。あまり褒められ慣れていないようだ。凄く喜んでいる。
『あまり褒めないでやってくれ、バンジョーのやつが調子に乗るから』
とオルガンに諌められてしまった。
「そんな事言うなよ〜」
とデルート姿のオルガンを揺らすバンジョーさん。仲良いなこの二人。
「さて、話も一旦落ち着いた事だし、デルートの練習に入ろうか」
話も一段落したところで、俺もアニンをデルートに変化させ、ここ数日の日課となっているデルートの練習に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます