第90話 笑えない笑い話

「マジかあ〜〜〜……」


 翌日の昼休み、現状確認と言う事で、俺、タカシ、祖父江小太郎、祖父江百香と言ういつもの四人で、いつもの階段に集まって話をした。


 まず俺が現状の変化について、と言うより、シンヤが向こうの世界にいるらしいとの報告を上げる。


「まあ、そうなるんじゃないか、とは思っていたけど、予感って当たるものだな」


 とタカシ。はは。そうだな。こうなってくると残る三人もあの世界にいる気がする。でも、


「確定ではないけどな。シンヤを見たと言う人と出会ったってだけで」


「まあそれは確かにそうだな。でもハルアキの話じゃ、俺たちの事故の原因である天使って結構テキトーそうなやつじゃん。多分、あの事故で死んだ人間やら行方不明者は、大体そっちの世界に送り込んでいる気がする」


 否定出来ないな。だが、SFで言うところのパラレルワールドや並行世界のように、あの世界にいるシンヤや桂木翔真は、俺の知るシンヤや桂木翔真とちょっと違うのかも知れない。俺の中から、その可能性や疑惑は拭えていなかった。


「んで? シンヤはなに? 冒険者として活動してるの?」


「いや、勇者らしい」


「…………は?」


「おおっ」


「ぶっあっはっはっはっはっはっ」


 これを聞いて三者三様の反応が返ってきた。タカシは理解出来ないし、したくないと言った反応。祖父江兄は素直な驚きの中に興奮が混じり、祖父江妹は大爆笑である。


「勇者ってゲームに熱中してる小学生じゃないんだから。ぶっあっはっはっはっはっはっ」


 余程祖父江妹のツボにハマったようだ。いや、祖父江兄妹って忍者だよね? 忍者は良いのか? とは言わない。俺たちはお腹を押さえて笑い続ける祖父江妹を無視して、話を先に進めた。


「どうして勇者なんて呼ばれているんだ? 自ら「俺は勇者だ!」とでも呼称しているのか?」


 と祖父江兄が尋ねてくる。


「ああ、何でも、シンヤのいる国には伝説があって、魔王が復活せし時、とある泉にある遺跡に、勇者が降臨するとかなんとか」


「んで、降臨したのがシンヤだったのか」


 タカシに首肯する俺。互いに顔を見合わせては嘆息する。


「大変だな。お友達が魔王と勇者だなんて」


 祖父江兄よ、物凄い憐れみの視線を、こちらに投げかけないでください。


「いやいや、魔王が俺たちの友達だと決まった訳じゃないから」


 と一応反論しておく。本当に魔王がトモノリでない事を祈るばかりである。


「そうだったな。それで?」


「それで?」


「会いに行くのか? その勇者のお友達に」


「行かないよ」


 俺の反応に、祖父江兄妹は少し驚いた様子だった。タカシはそうだろうな。と言った感じだったが。


「会いに行かないのか?」


「だって自ら異世界に転移して第二の人生を送っているやつだよ? 今更前の世界の友達に会いに来られても困るでしょ?」


「…………そう言うものかな」


 祖父江兄の顔は納得いくといかないの半々の表情をしていた。


「まあ、シンヤを発見した竜騎士さんには、今度また会ったら、桂木さんの方に行くように、言伝てを頼んでおいたから、そっちの方に行くと思うよ」


「はあ!? 何だよそれ? なんか厄介事増やしてくれてねえ?」


「厄介事、巻き込まれてるの?」


 何気ない俺の問いに、二人とも押し黙ってしまう。それでは厄介事に巻き込まれていると言っているようなものだ。


「まあ、隠しても意味ないか。モーハルドで、魔王討伐の動きが本格化してきている」


「そうなんだ」


 どうやらモーハルドは国主体で魔王討伐の為に動き出したらしく、討伐の為の兵を、モーハルド国内だけに留まらず、近隣各国にまで求めているとか。どうなんだそれって?


「つまり、その流れの中で、桂木さん率いる地球人による異世界調査隊にも、魔王討伐に加わるように要請があったと?」


「ああ」


 ああ、どこもかしこも物騒だねえ。これは誰のせいなのか? 魔王のせいなのか? 天使のせいなのか? それとも人間が本来持つ性分なのか? まあ、答えは出ないですけど。


「でも異世界調査隊を魔王討伐に加える意味ってあるのか? 弱いだろ?」


「おい!」


「ちょっと!」


 タカシの言葉に祖父江兄妹が語気を強める。


「でも確かにな。加えるならレベルの高い人間を加えるべきだろう。成人してから異世界にやって来た調査隊員のレベルなんてタカが知れてる。それでも入れると言う事は、魔王が俺たちの世界からやって来たかも知れないって言う、あれの影響なのか?」


「そんな訳あるかよ」


 と反論する祖父江兄。違うのか。


「確かに調査隊の大半は弱い。それは認めるけど、調査隊にだって強い人はいる。その代表が護衛を務めてくれている自衛隊の面々だ」


 そうか、異世界調査隊って、活動範囲が広がったから、自衛隊がその護衛に付くようになってたんだっけ。確かに、自衛隊のプレイヤースキルは高いだろうから、それを維持したままレベルを上げていけば、低レベルでも強くなれるか。それに銃火器が異世界でも強力なのは、バヨネッタさんで理解しているつもりだ。


「でも、自衛隊は護衛は出来ても戦争は出来ないだろ?」


「人間相手ならな」


「ああ、そうか。相手は魔物になるのか。って事は、現地人が怯える脅威の排除? 湾岸戦争後のPKO活動みたいな?」


 首肯する祖父江兄妹。


「理論的には無理矢理だな。それに魔物にだって知性のある知的生命体がいるかも知れないだろ?」


「そこなんだよなあ。自衛隊としても今後どうすべきか調整やら話し合いやらが行われているらしいし。桂木さん的にも、異世界調査隊的にも様々な意見が出てるよ。行くべきか、行かないべきか、な」


 大変そうだなあ。人数が増えればそれだけ様々な意見が出されて、それをまとめるのが難しくなっていく。桂木も『魅了』が使えるんだから、無理矢理にでも自分に従えされられるだろうに。まあ、それが後で発覚したらまずいからしないのか、『魅了』に上限があるのか。


「そうなってくると、地球での拠点を海外に移す可能性も出てくるな」


「ああ」


 素気ない反応。すでにそう言う意見も出ているようだ。こっちも大変だけど、桂木の方も面倒臭そうだなあ。もしかして桂木も英雄運のギフト持ちなんじゃないか?

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