第27話 島の北へ
新しいナイフを手に入れた。桂木翔真が選んでくれたナイフじゃない。その日俺は何を血迷ったのか、桂木翔真のお世話になるのが嫌で、刃はダマスカス鋼、グリップは貝殻を磨いて虹色に輝かせたもの。しかも
その新しいナイフの切り初めって事で、鳥の解体に挑戦。晴れて俺は鳥の解体に成功したのだった。やっぱりナイフの切れ味が良いと、思った所をスッと切れる。
血抜きをし、羽をむしり、肉を冷やす。肉は冷やしておかないと、雑菌が繁殖して不味くなるそうだ。
今回内臓を先に抜く事にした。肛門に傷を付け、ゴム手袋を着けた右手で、でろんと全部の内臓を引きずり出す。グロいが健康な内臓はテラテラしていて美しくもある。まぁ、食べずに捨てちゃうんだけど。
内臓の入っていた鳥の内側を水魔法で綺麗に洗い、肉をバラしていく。もも肉、むね肉、手羽にササミ。鳥の部位に詳しくない俺としては、これくらいだろうか? そういや骨からは鶏ガラが食えるんだよな。
小型のBBQグリルの上に、鍋を置いて洗った鶏ガラをいくつか入れて野菜も加え、水で煮込む。味付けは塩胡椒だけ。
鳥肉は串焼きにする。部位毎に串に刺していき、塩胡椒で味付けすると、鶏ガラスープの鍋を横にずらして、BBQグリルで焼いていく。
まだ肉が余ったので、ミンチにして肉団子にして鍋の具にした。
う〜ん、味付けが塩胡椒しかないのが辛いな。
今のうちに醤油を持ってこよう。俺はBBQセットをその場に残し、転移門で自室へ、台所から醤油、ついでに味噌、ソース、ケチャップ、マヨネーズをかっ払ってきた。
「フフン。これで美味いものが食えるぞ」
BBQ会場に戻ってきてみると、串焼きの方はもう食べられそうになっていた。
もも肉をばくりと食らいつく。…………肉が硬い。そう言えば聞いた事がある。闘鶏などで闘う事もある
初めて自分で解体した鳥。食えない事はないけど、硬い。味はまあ悪くないか。良く噛まないといけないけど。ちゃんと血抜きをしたから、血生臭さはないけど。食べてる餌のせいだろうか? 少し臭い。
さて、鍋の方はどうだろう? 器にすくい、一口飲んでみる。う〜ん、やっぱり独特の臭いがあるなあ。でも一緒に煮込んだ野菜がそれを消してくれている気がする。串焼きよりも食べやすいかも。
肉団子を食べてみる。あ、これは美味しいかも知れない。結構パクパクいけるぞ。俺は鍋の方が好きかも知れない。
ああ、でもこのままでは他の串焼き食べないと丸焦げになってしまう。調味料を使えば、食べられるようになるか?
俺は持ってきた調味料を、ちょっとずつ串焼きにかけていく。う〜ん、調味料の香り。良き。
調味料がかかった。味は美味くなった。が、やはり肉が硬い。どうすりゃいいんだ? この鳥が珍しく硬いだけなのだろうか? 魚はそんな事なかったもんなあ。
食事を食べ終わった俺は、残った食器類を魔法『浄化水』で綺麗にする。この魔法は、浄化魔法と水魔法をミックスさせたものだ。
浄化と言うものは汚い物や場所を洗浄する魔法で、身体や服、食器や道具、武器についた汚れを綺麗に浄化する魔法である。
まあ、ぶっちゃけこの浄化の魔法があれば、プラスして水魔法を使う必要はないのだが、中空に浮かぶ浄化水に食器やBBQグリルなどをぶち込んで、ゴシゴシ洗う。この洗って綺麗になっていくのが、なんだか心が洗われてスッキリするのだ。
「ふう〜。綺麗になったな」
食事の汚れで濁った浄化水から食器類を取り出す。水は浄化水に取り残されるので、食器類は取り出してすぐカラカラだ。
食器類を全部取り出したら、魔法を解除する。汚水が地に落ち、染み込んでいった。
さて、腹は膨れた。今日も島を探索しよう。前は島の東側に向かったから、今日は西から回って北まで行ってみよう。
島の西には特筆するものがなかった。なんか林が続く。そう言えば林に注目した事はなかったな。
「この木はなんて木なんだ?」
杉や檜のように真っ直ぐな木を指差し、アニンに尋ねる。
『シデルの木だな。建材にする木だ』
ふ〜ん。ぐるりと周りを見渡すと、このシデルの木がそこかしこに生えている。
「あんまり他の木をみないな」
『シデルは建材として真っ直ぐ育てる必要かあるからな。平地で育てていたんだ。果実のなるビヨやバッコロなんかは山でも見掛けるぞ』
成程。ビヨやらバッコロなんて果実があるのか。食べてみたいな。
『今は時期じゃないがな』
なんだよ。
島の西を抜けて、北に来た瞬間、ゾワッとした。
ドキドキと早鐘のようにうるさくなった俺の心臓を落ち着ける為に、何度も深呼吸する。直ぐに敵に見つからないようにしゃがみ、じっと動かない。
と、北の奥の方に、巨大な影がうねっているのが見えた。何だあれ?
大きさから、俺の腰程あるベナ草の二倍以上の高さがある。壁のようにも見えるが、うねっているのだ。生き物なのだろう。それが北を塞いでいた。見える範囲全てこの壁だ。これ以上こちらへ来るなと言う意思表示だろうか?
そしてその巨体は何かを見つけたらしく、巨体とは思えない素早さで動き出した。
ガバアッ!! と壁の先端が何かを食らい込み、飲み込むためにその頭を持ち上げた。蛇だった。大きな大きな蛇が同族の蛇を一度に何匹も飲み込んでいる。何だこの地獄。大きな蛇なんて言葉が可愛く思える。
だってそうだろう? 高さは俺の身長以上。そしてその長さは恐らく十メートルとか二十メートルどころじゃない。百メートルはある。あれは規格外だ。
「逃げるぞ」
『当然だ』
今回はアニンも戦えとは言わなかったな。目が合ってないしな。俺たちはこの大蛇に見つからないように草むらの中を、ゆっくりゆっくり下がっていく。
だが大蛇は先程食べた蛇では物足りなかったのか、大きな頭をのそりと持ち上げ、周囲を窺っている。
やばいなあ。
『何がだ?』
蛇には熱を感知するピット器官って器官があるんだ。それは目に見えなくても、獲物の温度を感じ取る器官なんだよ。
『つまり、隠れていても駄目。と言う事か』
俺は首肯する。
俺は草むらから、出来るだけ音を出さないように大蛇から遠ざかっていくが、どうしても音が出てしまい、その度にドキドキする。
そしてそのドキドキが頂点に達したところで、勘が「後ろ!」と叫ぶので、振り返ると、大蛇が大口開けていた。
「…………!」
悲鳴を上げそうになるのを、口を両手で抑えて駆け出す俺。そんな俺に向かって、大蛇が大口開けて襲い掛かってきた。
ドーンッ! 俺の横に大蛇が顔面ごとスライディングしてきた。
「ひっ!?」
俺は避けた訳じゃない。元々大蛇の狙いが俺の横だったのだ。大蛇の口には、大きな蛇が咥えられていた。
え? 何? 蛇が好物なの?
だが今がチャンスだ。俺は全速力で北から逃げ出した。
「ぜぇ……、ぜぇ……、ぜぇ……」
良かった。生きてる。俺は南の港跡で、大の字になって天を仰ぎ息を整えていた。
「何だあのバケモノ!?」
『確かにのう。我らは眼中になかったようだが。同族食いとは、また稀有な奴であった』
「同族食いってそんなに珍しい事なの?」
『同族を倒したところでレベルアップしないからな』
そうなんだ。まあそうだよな。それだと殺人や戦争の絶えない世界になってしまう。でも大蛇にしろ大トカゲにしろ、奴らは同族食いをしていた。何かおかしくなっているのかも知れない。孤島だから食料不足か? でもカエルは大量発生していたしな。
まあ、俺の考える事じゃないか。北は無視して、島脱出を本格的に始めるか。
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