第12話 魔法……?
翌朝、タカシからDMが届いた。
『ニュース見たか?』
『異世界行った、って言う人の話か?』
『そうそれ。結構ネットで騒ぎになってる』
『みたいだな』
あの男性、桂木翔真はテレビでニュースが流れた後、ネットに異世界調査隊の隊員募集のサイトを出した。それはネットで一定の話題になり、一時SNSのトレンド入りを果たした程だ。隊員募集にも、今朝の段階で既に数千人の物好きが応募していた。
『あれって本当だと思うか?』
『多分な。俺たちのグループからも四人異世界に行ってるし、天使は他にも異世界行ってる奴がいるって匂わせてたからな。そのうちの一人があの人でも不思議じゃない』
『だとしてもハルアキの状況と随分違うな。ハルアキは崖下だってのに、向こうは普通に町に行ってるみたいだし』
『全くだよ。あの事故で軽症だったからか知らないが、俺、天使に冷遇されてないか?』
『あっはっは、それはハルアキにあの崖下に連れて行かれた時に俺も思った』
くっ、やはり他人の目から見ても、そう見えるのか。
『で、どうするんだ?』
『どうって?』
『隊員募集、応募しないのか? ハルアキなら異世界行った経験もあるし、あの事故の関係者って募集要項に記載しとけば、優遇してもらえるんじゃないか?』
かも知れない。俺もそれはちょっとばかし頭を過ぎった。でも、
『応募はしないかな』
『そうなのか?』
『あの人と俺とでは、行った異世界での経験が違い過ぎるからな。俺が調査隊に入隊したところで、他の隊員以上に活躍する事はないだろう。それに』
『それに?』
『なんかただでさえ異世界転移の能力で負けた気がしているのに、更にその下につくなんて、惨め過ぎて俺の心が耐えられない』
『あっはっはっはっはっ!』
『笑うな』
『スマン。しかしハルアキも意外とプライド高いな。俺なんかそこら辺気にしないけどな』
確かに、調査隊に応募しないのは、俺の無駄に高いプライドや拘りのせいだろう。今までの穴掘りが無駄になると思うと、勿体ない気持ちにもなる。このまま俺は一人でもやっていける気もしてるし。根拠はないけど。
『とにかく、俺は調査隊には応募しない。俺は俺独自に異世界を攻略する!』
『オーケー、了解』
『タカシの方はどうするんだ?』
『俺か? 確かに異世界の女の子にも興味はあるが、今はこっちの女の子たちで手一杯だからな。それが落ち着いたら……、ハルアキの方に乗っかろうかな。よく分からんお兄さんより、昔からの友達の方が融通が利きそうだ』
『なんだよその理由』
タカシはタカシだな。
『だから、とっととトンネル開通させて、俺を日の下に連れ出してくれよ?』
『はいはい。じゃ、この話はこれで終いって事で。学校で会おう』
『ああ、学校で』
学校に行くと、一部の学生たちが騒いでいた。特に男子。「行ってみてえ!」と声高にキャッキャしていたが、話に耳を傾けていると、どうやら年齢制限があり、最低十八歳以上であるらしい。なんだ、そもそも俺は応募も出来なかった訳だ。今朝のDMも無駄だったな。
「いや、特例も認めるって記載されてたぜ。異世界調査に有用な能力を持っているなら、例え十八歳以下でも採用するって」
「ええっ? でもそれでそいつが大怪我でもしたら、責任取れるのか?」
確かにな。もしかしたら桂木翔真って人は、調査隊の隊員募集で、俺みたいに天使から特別な能力を賜った人間、または生まれつき不可思議な能力を有している人間を探しているのかも知れない。
だからと言って、未成年に異世界調査に随行させるのは、冷静に考えれば危険だと分かるだろうに。クラスメイトが話していたように、大怪我でもさせたらどう責任取るんだろ?
テレビで見掛けた程度だが、勢いだけの人には見えなかった。と言う事は、誰か怪我をしても治せる算段があの人にはあるのだろう。
レベルアップか? 確かにそれは計算の内だろうが、それだけとは思えない。となると……、魔法か!
もしかしたら異世界に回復魔法の使い手が、協力者としているのかも知れない。それなら未成年にまで募集年齢を下げているのも納得出来る。それでも危険な事に変わりないが。
魔法か……。俺も爆破魔法でも使えればなあ。あの硬い岩盤を爆破してぶっ壊すのに。いや、そんな事をしたら、周りの岩盤も崩落して生き埋めになっちまうか。
……いや、カエルや魚から手に入れた魔石が結構な量になったから、集めて一気に爆破させれば、あの岩盤に亀裂を入れる事ぐらいは出来るんじゃないか?
やってみるか? いやあ、それでも生き埋めの可能性もあるか。
俺はそんな事を一日中考えながら、学校から帰宅した。
妹のカナは既に帰宅していて、リビングでテレビを見ていた。
「早いな?」
「うん。今日先生の都合で部活なかったんだ」
そうなのか。
「お兄ちゃん見てよ。昨日の人が出てる」
テレビでは桂木翔真が何か話をしていた。
「昨日の再放送か?」
「ううん。なんかこの人が、異世界で覚えた魔法を見せるとか言ってる」
「魔法!?」
俺は思わず声を上げ、自室に戻るのをやめて、カナの横に座ってテレビを食い入るように見詰める。
「男子って魔法とか好きだよねえ」とカナが横で嘆息していた。
そうじゃない。地球の人間でも魔法が使えるようになるなら、この人のやり方を模倣すれば、俺でも魔法が使えるようになるかも知れないのだ。
桂木翔真は魔法を使う前に、記者に手袋を見せていた。その手袋の手のひら部分には、簡易な魔法陣が描かれていた。円の中に五芒星が描かれている。
「この、魔法陣が肝要なんです」と語る桂木翔真。
そうか、魔法を行使するには、魔法陣が必要だったのか。しかも魔法陣を描いたインクはただのインクではなく、魔石を砕いて混ぜ込んだインクで描かれているのだそうだ。
成程。魔石なら結構な量ある。魔法のインク、作ってみるか。
桂木翔真は記者から手袋を受け取ると、右手に填めて人差し指を立てる。
「火よ!」
桂木翔真がそう唱えると、指先にボッとライターのように火が灯った。
「おお!」と思わず声を漏らす俺とカナ。
「あれってCGかな?」
「どうだかな?」
恐らく本当の魔法だろう。
「でも仮に本当に魔法だとしても、あんな小さな火じゃ、使い道ないよね」
「いや、そうでもないぞ。キャンプなんかで薪や炭に火を点けるのには便利だろう」
崖下で魚肉を焼いたり炒めたりするのに、炭を使ったりするのだが、火付けはなんだかんだ面倒臭い。
「それって結構限定的じゃない?」
確かに、日本で生活する分にはそうかも知れないが、調査隊としては少なくないウエイトを占めるんじゃないだろうか? いや、どうだろう? 分からん。
異世界の文明がどのようなものなのかにもよるよな。かまどで薪を使って料理するような感じなら、日々の火付けに大変役立つだろうし。
「光よ!」
テレビの中では、桂木翔真が今度は火の代わりに光を指先に出現させていた。一つの魔法陣でも何種類か魔法が行使出来るのか。勉強になるわ〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます