第9話 格付けと魚
それからは穴掘りとモンスター退治の毎日だ。
ツルハシで穴を掘り、たまに出てくるカエルやスライム、ムカデを屠る。
カエルにもやはり魔石があった。腹を開くと、心臓部分にくっつくかたちで存在していた。スライムの魔石と大きさは変わらないが、色がやや濃かった。
手のひらに載せて、熱くなれ、と念じてみると、スライムの魔石よりも熱くなる。それでも熱くて持てなくなる程ではなかったが。
だが、なんとなく崖下の強さのランクは分かってきた。
カエルが一番強く、次にスライム、一番下なのがムカデだ。これは対処してみたり、観察してみて理解した。
観察対象はスライムだ。スライムはカエルが生きている時には姿を現さない。恐らく自分が狩られる側である事を本能で理解しているのだと思う。
スライムがカエルの前に姿を現すのは、俺がカエルを仕留めた後に限る。どうやら相性が悪いらしい。一度だけカエルの死骸を貪っていて逃げ遅れたスライムの前に、カエルが現れた事があったのだが、なんとカエルは、スライムを丸呑みにして食べてしまったのだ。あんな酸の塊のようなスライムを食べてしまうとは、カエル恐るべし!
対してスライムはムカデを良く捕食している。岩壁や地面にべちゃんと広がって罠を張り、自分の上を通り過ぎたムカデを、身体で包み込んで酸で溶かして食べている場面を、何度か目撃していた。
カエルがムカデを捕食している場面にも遭遇した事があるので、やはりこの崖下で最弱はムカデのようだ。
ただ気に食わないのは、スライムは俺の前に逃げずに姿を現すし、ムカデやカエルは俺に襲い掛かってくる。つまり俺はこの三者から最弱だと思われている節があるのだ。幾度となく撃退しているのに、解せん。
魔石にしても、カエルの魔石が一番色が濃く、次いでスライム、更に色も薄く小さいのがムカデだ。
どうやら色が濃く、大きな魔石の方が魔法の触媒として優秀なようなので、俺はカエルの魔石を中心に、死骸から抜き出して物置に保管していたのだが、一度スライムによって集めた魔石を捕食されてしまった事があった。それ以来魔石は俺の自室で管理している。
この崖下には湖がある。体育館程の広さがある崖下の四分の一を占める大きさで、その一面を岩壁に接している。
近付くとカエルが沸いてくるので、あまり近付いたりしていなかったが、湖の大きさからしたら、カエルの数が多すぎではなかろうか? と俺は常々考えていた。何故なら、既に俺はこの崖下で二ヶ月を過ごし、百匹近いカエルを葬ってきたからだ。
湖はそれなりの大きさだが、一メートルあるカエルが百匹以上いるのなら、溢れかえっていてもおかしくない。しかし湖はカエルが出現する時に少し音がするぐらいで、いつもは静かなものだ。
俺は湖に近付いて、そっとその中を覗き込んでみる。浮上しようとしているカエルと目が合った。
俺はカエルが湖から顔を出すタイミングに合わせて、持っていたツルハシでその頭を突き刺した。一発で絶命するカエル。カエルの対処にも慣れたなあ、俺。
カエルを湖岸に引き揚げ、魔石を取り出すとその場に放置。あとはスライムが処理してくれる。俺はもう一度湖を覗き込んだ。
湖は思ったよりも透明で、底の方までヘッドライトの灯りが届く。湖はかなり深く、そして広かった。その奥行きは崖下を取り囲む岩壁の向こうまで続いているようだった。
う〜ん、もしかしたらこの湖、どこか外にある川か何かに繋がっていて、カエルはそこから来ているのかも知れない。そっちにカエル本来の生息地があるから、そっちで繁殖して、カエルは無限に沸いてくるのかも。などと考えてしまう。
ではこの湖を泳いでいけば、穴を掘らずに外に出られるって事だろうか? そうかも知れない。が、それは俺には無理だろう。
この湖が何処まで続いているのか知らないが、俺の息が続くとは思えない。スキューバダイビングの免許でも取るか? それでも無理だろう。途中カエルに襲われるのだ。スキューバの一式背負って対処出来ると思えない。
やっぱり俺には穴掘りしかなさそうだ。
と湖をじっくり見ていると、湖中がキラキラしているのが分かった。
(あれって、魚か?)
どうやらこの湖、魚かいるらしい。そりゃあ湖だし、魚くらいいるか。
翌日。俺はホームセンターで釣竿を買ってくると、この異世界の湖で糸を垂らしてみた。釣りには詳しくないが、餌はルアーの、ルアーフィッシングである。
三十分程経過したが、全く釣れる気配がない。釣り、つまんないな。湖岸に立つとカエルが襲い掛かってくるばかりで、静かに釣りなんて出来ないし。魚はルアーには引っかからないし。
もうやめようと竿を引き上げ、ちらりと見るとカエルの死骸が山になっていた。
……そうだ。俺は糸からルアーを外すと、包丁でカエルの肉を削ぎ落とし、針に引っ掛け湖に垂らしてみた。
するとどうだろう! 入れた瞬間魚が掛かったではないか!
魚はばくりとカエル肉に食いつき、そこからは魚との戦いだ。糸が切れないように時に弛めながらリールを巻き上げる。
魚は思った以上の大物のようだ。俺は身体が何度も湖に引きずり込まれそうになりながら、それを踏ん張って耐え、リールをギリギリと回していく。魚の引きが強過ぎて、少しずつしかリールを巻き上げられない。
どれほど魚と格闘しただろうか? 少なくとも三十分は湖岸で中腰になりながら踏ん張り、リールを巻き続けた。そして、
「よっしゃ! 釣ったぞー!!」
俺はへとへとになりながら、湖岸に魚を打ち上げた。魚は全体が銀の鱗に覆われ、中央には金の線が入っていた。その全長は一メートル五十センチはある大物だ。口から針を取り外したいが、口に牙がびっしり生えているのでそれは出来ない。
俺はまだピチピチ湖岸で跳ねている魚を足で押さえると、包丁でエラのところを突き刺してトドメを刺した。血を流して大人しくなる魚。大人しくなったところで口から針を取り外した。
俺はピクリとも動かなくなった魚の腹を開くと、内臓を取り出し魔石を探す。しかし心臓に魔石はなかった。
(あれ? もしかしてこの魚はモンスターじゃないのか?)
不思議に思って首を傾げると、ヘッドライトの灯りで魚の額がキラリと光る。それを見ると、魔石だった。魔石がモンスターの心臓って訳でもないのか。
魔石は青色で、カエルのより一回り大きい。カエルより魚の方が強いのか。まあ、カエルの方が強かったら、湖の魚を食べ尽くしているかも知れないもんな。
(しかし魚か……。この魚、食べれるかな?)
魚だもんな。食べれるよね? 今度BBQセットでも買ってこようかな。俺の腹がぐぅ〜と鳴った。
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