第3話 転移した先は……。
まず異世界にやって来て思ったのは、『洞窟』だった。
足下はゴツゴツした岩場で、周囲は岩壁に囲われている。肌寒く、懐中電灯がなければ真っ暗。と天井に懐中電灯を向けると、吹き抜けていた。
岩壁がかなりの高さまでそそり立ち、その向こうに空がポツンと見える。どうやら俺が今いる場所は、崖下らしい。崖上からここまで遠すぎて光が届いていなかったのだ。そして吹き抜けの空の形からして、崖にぐるりと囲われた穴の底だと推測出来た。
……え? いや、確かに異世界での転移先は選んでいなかったけど、崖下って……。天使よ、俺にはお前のような翼は無いのだが。
この崖、登れるかな? と手を掛けるが、硬いし引っ掛かりは少ないし、ロッククライミングは難しそうだ。そもそも素人が命綱も無しにやる事じゃないだろう。
となると、他に道を探すべきか。
崖下を探索して分かったのは、どうやらここは体育館程の広さであるらしい事と、湖のようなものがひとつあると言う事だけだ。出口はなかった。
はあ、マジか。いきなり詰んだ。異世界でのちょっとした冒険を期待していたのに。これでは異世界に行けてないのと変わらない。
とりあえず落ち着こう。と岩のひとつに腰掛けて、背負っていたリュックから水を取り出す。
水を一口飲んで一息吐いて考える。ここ本当に異世界なのだろうか? 単純に、地球の別の場所に瞬間移動したと説明されても納得してしまう。異世界らしい部分って、今まで出てきていない気がする。
「う~ん」
ラノベやマンガで出てくる異世界ってどんなだっけ? 少なくとも崖下ではないよな。と考えを巡らせ、ひとつ思い付いたので実行してみる。
「ステータスオープン!」
シーン。何も起こらない。超恥ずかしい! くっ、ラノベやマンガなら、これで自分のステータスが確認出来たりするのに! 呪文が違うのだろうか? いや、そもそもステータスやスキルが存在する世界であるとは限らない訳で。って誰に対して言い訳しているんだ俺は!
「はあ、何してるんだろ」
帰ろうかな。と腰を上げた所で、ちゃぽんと湖の方から音がした。
何事だ!? と俺は直ぐ様湖の方へ懐中電灯を向ける。この崖下に生き物の姿は見掛けなかった。音の出るものなんて存在しないはずだ。
目を凝らして見ると、湖の側に何か落ちている。ドキドキしながら近付いてみると、炭酸のペットボトルだった。多分、俺が異世界にくる前に転移門に投げ込んだペットボトルだろう。
しかし、だから何だ? ペットボトルがひとりでに音を鳴らす訳がない。と言う事は、音を鳴らしたのは他のものであるはずだ。
俺は懐中電灯で周囲をくまなく照らそうとして、後ろに気配を感じた。直ぐ様懐中電灯を後ろに向けると、そこには体高一メートル程のデカい灰色のカエルがいた。
うおッ!? デカッ!? 流石にこんなデカいカエルは地球にはいないはずだ! カエルの大きさとそのヌメヌメテカテカした気持ち悪さに、俺が驚いて固まっていると、カエルがビョンと襲い掛かってきた!
そのカエルには驚く事に鋭い爪があり、口には牙が生えていた。爪に引っ掻き倒され、カエルにのし掛かられる。
「痛って!」
倒されて打った背中と、爪に引っ掻かれた左腕に痛みが走る。しかし悶える暇もない。カエルは牙の生えた大口を開き、今にも俺を頭からかぶりつこうとしているのだ。
俺はカエルと自分の間に足を滑り込ませると、その足でカエルを蹴り飛ばした。何とか離れるカエル。その隙に立ち上がる。懐中電灯を持つ左腕を触ると、血が付いていた。
やってくれたな! カッと頭に血が上る。が直ぐに冷静になった。そして引っ掻かれた左腕から、毒やバイ菌などが侵入していたらどうしよう、と不安が頭をよぎった。
しかしそんな事を考えている暇をカエルは与えてくれない。再びビョンと俺に飛び掛かってくるカエル。ヤバい! 死ぬ? 死にたくない!
俺は包丁で応戦しようと考えるが、包丁は背中のリュックの中だ。こんな事になるなら、包丁はリュックから出しておくんだった。
爪を振り下ろしてくるカエルの一撃を紙一重で躱す俺。がリュックに爪が引っ掛かり、リュックが裂けて中身がぶちまけられた。
ラッキー! 俺はぶちまけられたリュックの中身から包丁を拾い上げると、更に襲ってくるカエルの腹に、包丁を突き刺した。
「ぐえッ!」
と一声鳴くカエルだが、この程度では攻撃をやめてくれる事はなく、包丁を腹に刺したまま手足の爪をブンブン矢鱈目鱈振り回して攻撃してくる。それが顔や腕や脚に傷を付けていくのを感じながら、俺は包丁を持つ手に更に力を入れ、カエルを地面に叩き付けた。
「ぐええッ!」
更に声を上げるカエルにマウントを取ると、俺は包丁を逆手に持って何度となくカエルを突き刺し続けた。カエルが動かなくなるまで。
「はあ……、はあ……、はあ……」
カエルがピクリとも動かなくなったところで、立ち上がってカエルから離れる。フラフラする。初めてこんな大きな生き物を殺した。アドレナリンが大量に出ているのか、身体が興奮しているのが分かった。
「はあ……」
今日はもう戻ろう。俺は転移門を開くと、自室に帰っていった。傷、どうやって家族に説明しようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます