第39話 奥底にある記憶
京夜を狙った奴はどこだ? 周りを見るが誰もいねぇ。
鳥とかは翼を広げて空を飛んでいるが、それ以外の動物はいない。それどころか人の気配すら感じねぇな。
「おい、今日はもう帰ったんじゃねぇの?」
「可能性はあるが、今は一応相手にとってはチャンスだ。そう簡単に姿を眩ませるとは思えねぇよ」
チャンス? なんでチャンスだよ。
「妖裁級の一人である京夜がここまで傷を負っている。殺すなら今が最適だろう。そこまで頭が回る相手ならの話になるがな。恨呪なら突っ込んできそうだが……」
ソワソワと風織が京夜の傷を見ながら説明してくれてるが……。その視線がある意味気になる。
心配してんならオーバーに心配しろよ。そんな風織の説明は納得のできるものだから良いけどよ。
でもよぉ。思ったより京夜は元気だし、風織も俺達は特に問題ないだろ。
風織も強いだろうし、京夜は体を上手く動かせないにしろワイヤー銃で援護が出来る。
「怪我しているにしろ、妖裁級が二人も居るからどうにかなりそうな気がするがっ──」
な、なんだ。この重苦しい空気。体にのしかかる……。おもてぇ!!
額から汗が落ちる。膝に手を置いて倒れねぇように耐えているが無理だ。膝が震える。力が抜けちまう。
「くっそ……。なんだよこれ……」
立っていらんねぇ。膝から崩れ落ちる。体を横に倒すな。これ以上バランスを崩すな。耐えろ耐えろ耐えろ!!
なんなんだよ、なんだよこれ。一体どこから感じている気配なんだよ!!
「ん〜。ここまで簡単に動きを封じることが出来るなんてねぇ。拍子抜けにも程があるんじゃないのかい。妖殺隊の諸君よ」
聞き覚えのねぇ声……? すっげぇ低く、重圧のある声だ。
押しつぶされそうになるが、負けるわけにはいかねぇ。誰だ。この声の主。誰なんだよクソが。
――……ゾクッ
……は? 無理やり顔を上げたはいいが、誰だよこいつ。なんか、"不気味"という言葉が具現化したような奴だ。俺達を見下ろしながら立ってやがる。口元にはきっしょい笑み。
目は全く笑ってはいない、体が震える。なんだこいつ。いや、ダメだ。こいつを敵に回すのは危険だ。
確実に、殺される。
「そんな怯えたような顔で見ないで欲しいなぁ。悲しくなるよ」
コツッ……コツッ……と革靴を鳴らしながら、俺に近付いてくる。何をする気だ。やめろ、こっちに来るな。
くそっ。動け、体。動けよクソが!!!!
「そんな無理やり動こうとしなくても大丈夫だから安心して。ほぉら、大丈夫だよ」
顎に添えられた手は冷たく、無理やり顔をあげさせられ……。
「はぁ……っ、はぁ……」
目の前には不気味な男の顔。憎悪が込められている赤と青の瞳。
や、めろ。そんな目で、俺を見るな。見るな。
「お、俺を……。俺を、見るなぁぁぁあああああ!!!!!」
────シュッ
っ?! ワ、ワイヤー?? いきなりワイヤーが目の前を横切った?
はぁ、はぁ……。いや、助かった。ワイヤーのおかげであいつが後ろへと下がったから距離を置くことが出来た。一体、なんだったんだよ。
あの視線から外れたおかげか、体にのしかかっていた重圧が軽くなった。
はぁ、あいつの目。俺の全てを見ているような、不気味で気持ちの悪い目。
ダメだ。今回は本当に俺、何の役にも立てん。体が震える。思うように動けない。
「おい、輪廻!」
「──悪い京夜。俺は戦線離脱する。こいつはダメだ。俺は、戦えない」
「なっ、おい!!!」
戦えない、戦えない。いや、違う。戦えないんじゃない。
俺はあいつと──戦いたくない。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
────ん? あれ。
「ここって、もう怨呪居なくなっ──って、ぇぇぇええええ?!?!! はははははははは幡羅さん?!?! 背中の怪我どうしたんですか!? 今どういう状況ですかこれぇぇぇえええ?!!!?」
なんで幡羅さんはこんなに大きな傷を負ってんの!? 白い包帯が真っ赤に染っているんですけど相当深いみたいですね大丈夫ですかぁぁぁああ!?!?
「黙れ。今はお前のコントに付き合う余裕はない」
「待ってください。私は一度もコントした覚えはっ──え、誰ですかあの高身長男性」
煙草を咥え、私達を舐め回すような気味が悪い目で見てくる。まるで蛇のような目、吐き気がするよ。
不気味と言う言葉が擬人化したような人だな。
って。な、なになになに? まだ戦闘終わってないし……。私、何をすればいいの?!
あ、幡羅さんと美輝さんが前に出て武器を構え始めた。私、二人の後ろに立っているのに鋭い殺気を感じる。
いや、状況が分かりません。あの男性が敵ということはわかるけど。
恨呪ってわけじゃなさそう。あれは本当にただ気持ち悪いだけだったし。今回のあの男性は気持ち悪いじゃなくて、不気味って感じ。
というか、なんでもう一人の私は引っ込んでしまったの? まだ戦闘は続きそうなのに。こんなこと初めてだ。
入れ替わろうと集中しても、底なし沼にでもはまってしまいそうな感覚になる。入れ替わることが出来ないな。もう一人の私が入れ替わるのを拒否しているようだ。
今までは外に出たがって仕方がなかったのに。まぁ、押さえ込んでいたから、無理やり出るのは途中で諦めたみたいだけど。
「やぁ、お嬢さん。目が覚めたみたいだね。お疲れ様」
「え。あ、はい。ども……」
目が覚めた? 確かにさっきまで寝てたけど、なんでわかるんだろう。もう一人の私が私の体を動かしていたはずだから、そうやって言ってくるのはおかしい。
……………………ん? この男性の声。どこかで聞いたことがある気がする。
記憶の奥底、今まで触れてこなかった記憶の蓋。その蓋の中に閉ざされてしまっている、思い出してはいけない記憶。その中に、この男性は存在する。
そんな気が、する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます