恨力
第31話 まともな人……?
彰一のめずらしい表情を見た日から何週間か経った頃。
「え、幡羅さんと一緒に怨呪退治──ですか?」
「らしいぞ、良かったなお転婆娘。俺のおかげで今回は怪我せずに済むかもしれねぇぞ。ニシシッ」
目の前には両目を紫と赤色のメッシュ髪で隠している小さな人、
幡羅さんの説明によると、主様が「これからは妖裁級である君達と一緒に行動することが増えてくる。だから、忙しくなる前に、慣れて欲しい」と言っていたらしい。だから、怨呪退治は必ず妖裁級の誰かと一緒になるとのこと。
そして、今回選ばれたのか幡羅京夜さんらしい。こ、怖いなぁ……。
「なんだ、俺だったら不満かよ」
「へっ? いやいや、そんなまさか。あはは……」
やば、顔に出てたかなぁ。まぁ、欲を言えば
「んじゃ、これから行くぞ」
「あ、はい」
幡羅さんはそのまま歩き始めてしまった。お、置いていかれないようにしなければ。
……にしても、本当に小さい人だな。いくつなんだろう。
「幡羅さんって成人してますか?」
「どうやらお前は殺されたいらしいな。今のお前を斬ったらどうなるか試してもいいか?」
「すいませんごめんなさい!!!!」
この人、身長に関する事を言うととものすごく怒るんだけど! ただ年齢を聞いただけなんだけどね!!
「たくっ。もう一人のお前には教えたが、俺は二十七だ」
「────へぇ」
「何を考えやがる」
「い、いえいえ。思っていたより年上だったなぁと思いまして……」
いや、ありえないでしょ。この見た目で二十七歳。小学生並の身長だし、背伸びしても中学生までだと思うけど……。でも、さすがにそんな意味の無い嘘を幡羅さんが言うわけないしなぁ。本当なのか。
「え、えっとぉ。あ、あの。どこに向かっているんですか?」
「待ち合わせ場所」
「え、待ち合わせ場所? 誰と待ち合わせしているんですか?」
「もう一人の妖裁級、
美輝風織さんか……。うん、誰?
名前だけなら妖裁級に居たような気はするけど、私、人の名前と顔を覚えるの苦手なんだよなぁ。
「誰かわかってねぇだろお前」
「うっ、はい」
「まぁ、お前にとってはまだマシな部類なんじゃねぇの? ニシシッ」
口元に手を当て笑う幡羅さん。やっぱり小学生みたいな感じだな。無邪気に笑うし。
そのまま歩いていると、屋敷等の建物がなくなり、緑が広がる自然豊かな道に出た。
周りには風を遮る物はなく、自然の音が鳴り響き気持ちが落ち着く感覚だぁ。
風が気持ちよく吹き、髪が顔にかからないように耳にかけながら歩いていると、先の方に人影が見えた。
「もしかして、あの人がさっき言っていた美輝風織さんですか?」
「そうだ。おい、あねっさん」
へぇ、幡羅さんはあの人の事"あねっさん"って呼んでいるんだぁ。
幡羅さんの声に反応するように、人影がこちらに振り向いた。
美輝さんは腰まで長い綺麗な黒髪に、ブレザーの前は全開。ワイシャツのボタンを三つくらい開けている。下は普通のズボンで革靴を穿いていた。そして、胸元が──
「お、大きい……」
「目線でどこ見ているかわかるが、お前が小さいだけだろ」
「うるさいですよ幡羅さん!! ここはデリケートゾーンなんですから言わないでください!!」
デリカシーが無いんだからさ!!! ま、まぁ、確かに。私はそんなに大きくありませんけど……。ありませんけどね!! 美輝さんのは異常なほど大きい気がする!
多分F……Gはありそうなほどの大きさ。マジで羨ましい。
悔しさに歯ぎしりしていると、よく分かっていないような顔で美輝さんが私に自己紹介してくれた。
「あの時のお転婆娘だな。私は美輝風織。知っていると思うが妖裁級に所属している。何か困ったことがあれば聞くと良い。答えられることなら答える」
…………ま、まともな人だぁぁぁぁあああ!!!!
最初男だと思ってごめんなさい!! いや、胸があるから普通に女性なんだけど。
こんなに話がしやすい人なんてこの世界に存在するんですね。ものすごく嬉しいですありがとうございます。
「お前、何考えてやがる」
「幡羅さんって読心術でも使えるのですか? それとも、恨力がそういう、人の思考を読み取る力なのでしょうか」
幡羅さんが氷のように冷たい目で私を見上げてくる。いや、視線と言うべきなんだろうけど。目は隠れてしまっているから見えないし。
「自己紹介をしてくれるか」
「あ、すすすすすいません。えっと、私の名前は
慌てて腰を折り、自己紹介したん、だけど……なんの言葉も返って来ない。え、なんで?
おそるおそる顔を上げると、美輝さんが怪訝そうな顔で私を見下ろしていた。いや、なんで?
「……ふぅ。確かに君は妖裁級に飛び級した。それは主様がそう言ったからであって、正直私は認めていない。君の実力をこの目で見た訳では無いが、元々中級だったのだろう。なら、実力はその程度ということだ。そんな弱い者が妖裁級でやっていけるのか分からぬな。すぐに根をあげるに決まっている。弱者が取る行動など手に取るようにわかるからな。大体君も君でなぜ妖裁級への入隊を断らなかった。君の実力ではやっていけるわけが──……」
「はいストップ。やっぱりあねっさんが話すといちいち長いんだよ。今回はそこまでな」
「なにっ?」
いきなり怒涛の言葉の攻撃で、私の頭の中は真っ白けっけっです。
そうか、やはりこの世界にはまともな人は存在しないんだな。気をつけよう。
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