第8話 作戦と催眠

 大きな岩が俺達に投げられる。


 さっきの彰一は正直言って悪くなかった。でも、あれなら俺でもできる。出来るし。できないわけねぇし。


「お前が出来て俺が出来ないのは悔しいから嫌だ。だが、出来なかった時のために準備だけしておけ」

「なんの話しかわからんし、偉そうだなお前」


「別にいいけど」と愚痴をこぼしているがどうでもいい。両手で一丁、彰一は両手に持っている二丁の拳銃を構える。


 多分だが、彰一は狙いを絞って撃った。そう考えられる。なら、俺もヒビが入っている所を狙おう。


 俺達に迫ってくる岩。ヒビは沢山あるが、ピンポイントに狙わなければ砕けないだろうな。

 徐々に大きくなるし、狙いやすい。狙いやすい………ん、だけどよ……。


「──何処だよ」

「さっさと撃てやぁーー!!!!」

「あっ」


 悩んでいると、いつの間にか岩が目前まで来ていたらしい。

 いつの間にこんな近くまで来ていたのか。もしかしたら脳が潰れていたかもしれねぇな。危ねぇ危ねぇ。


 彰一が痺れを切らし岩を破壊。


「さすが上級。よくやった」

「お前、潰される気だったのか!?」

「人間考え込むと周りが見えなくなるからな」

「お前は人間じゃなくてだろうがっ──」


 そんな会話をしていると、いつの間にか近付いてきた怨呪が、太く長い尻尾を振り回してきた。投石は諦めたのか。

 横からなぎ払われそうになったから、右手をその尻尾に付け横に回転し回避――


「くっ?! がはっ!!」


 なっ、くそ。地面に着地したのと同時に、さっき避けたはずの尻尾が迫ってきてやがった!!

 避けることが出来なかった……。腹にクリンヒットしたし、吹っ飛ばされて背中を長屋に強打しちまった……。痛みはないが、息苦しい。


「ゴホッゴホッ、ゲホッ」


 くそっ、背中はまずいだろうが。


「さっさと避けろ輪廻!!」


 っ!! なんだよ!! 次から次へと。  


「まじかよ……」


 横に跳び回避しなかったら今頃踏み潰されていたってことかよ、なんなんだよ!!


「おいおい、ふざけんなって」


 近付き過ぎれば体は固まるし、遠ければ攻撃が届かない。

 どうすればこいつを倒せるんだよふざけんな。


 俺は考えることが苦手なんだよ!!


 バンッバンッバンッバンッ!!


 後ろから破裂音?

 あ、彰一が二丁の拳銃を構え怨呪に攻撃を仕掛けてる。

 いや、こんな距離じゃ攻撃など効くわけが無いだろ。


 撃った弾は、やっぱり。届いたが毛ほども気にしていない様子だ。

 なにか当たったのかって感じだろう。


「怨呪には回復能力はない。次は潰れていない方の目を狙う。お前は気を引け」

「俺を囮に使う気か?」

「お前は脳さえ死ななければ回復できるだろ。せいぜい頑張れ」


 こいつ。本当に輪廻のことを好いているのか? 好いている奴を囮に使うのか?

 いや、今は輪廻であって輪廻では無いからか。


「回復にも限度があるんだからな──多分」


 何を言っても意味は無いだろうから、とりあえずお店を伝い上へと登る。怨呪は俺を意識しているらしく、潰れていない方の目を向けてきた。

 赤く鋭い目からは憎しみ、怒り、憎悪と。様々な負の感情を感じ取れてしまう。

 俺自身も負の塊だからなのか、毎度察しちまうんだよな、めんどくせぇ。


 頭の中に流れ込んでくる気持ち悪い感情。最初は慣れていないのもあったからか苦しく、過呼吸になったが──まぁ、慣れた。

 今では対峙している怨呪の想いを読み取れることができるようになっちまった。いらねぇよ、こんな能力。


 まぁ、感じ取っちまうのは仕方がねぇし、諦めてる。

 

 こいつの怨みはか。

 なるほど。だから、誰よりも大きく、持っているはずのない尻尾がある──か。

 他人を羨み、妬み。それが集まりこんなに大きくなってしまった訳か。クソがっ。


「はやく浄化しやがれ」


 怨呪と少し距離を取りつつ走る。


 ここでいいだろうな。すぐには前足も届かねぇだろ。

 足元に冷気を出し、氷の足場を作る。そのまま塔のように、怨呪の顔近くまで高く作り上げるぞ。空中戦が不利なら、物理的にでも足場を作り大きさのハンデをなくしてやるよ。

 

 拳銃の銃口。絶対に外さねぇよ。今度こそ、怨呪の目をつぶしてやる。


「っ! やっぱりか!」


 またしても体が動かなくなった。まぁ、分かってたわ。

 おそらく、これは催眠だ。目を合わせると体が動かなくなる。


「彰一!!!」

「わかっている!」


 彰一は気配を消しながら俺の後ろで待機しており、俺の向けている銃口を見て狙いを定めた。怨呪の目を見ているわけじゃないから、催眠は効かねぇだろ!!


「死ね。くそ怨呪」


 彰一が引き金を引いた。


 バンッ!!


 うし、目を潰した──って、は?


「なっ?!」

「うそだろ?」


 確実に目を潰したと思ったのに、彰一の弾は怨呪のによって防がれた、だと?

 意図的に防いだのか。それとも、偶然か。んなもん俺には分からないが、このままじゃまずい。俺達はこんな近距離にいる。


 ガァァァァアアアアアアアア!!!

 

 怨呪は俺達を直接狙わず、まず足場にしている氷を砕きやがった。


「はぁっ!? くそっ! 目を潰せば少しは殺りやすかったのによ!!」

「一旦距離を取るぞ!!」


 いやいやいや待て待て待て。彰一は動けるから良いが、俺は動けねぇぞ。いつまで続くんだこの硬直。

 そう思っていると、怨呪が口を開き俺をいただきますしようとしてきやがった!!

 

 何度この光景を見れば気が済むんだよ。俺は美味しい生肉じゃねぇぞ。


「頭さえ──」


 頭さえ守ることが出来れば治すことが出来る。頭さえ。


 っ、ほんの少しだけ動けるようになってきた。彰一、頼む。これしか動かねぇんだよ、少しだけ上げた手を、掴んでくれ。


「早くこっちにっ──」


 ――――ガリッ


 下半身に強い衝撃。血が流れ出る感覚。彰一も大きく目を見開き俺の後ろを見ていた。

 あぁ。痛みがなくてもわかる。この感覚は。



 ────俺の下半身が、怨呪に食べられた。






「──ぐろ」

「じゃないだろうが。俺じゃなかったら死んでるぞ」


 彰一はしっかりと俺の手を掴み、自身へと引き寄せてくれた。下半身がないから軽いだろう。楽させてやったんだから感謝しろ。


 と、そんなことを考えている余裕はないな。

 俺の体からはボタボタと血が流れ、内臓──とかはグロいから表現しないでおく。

 

 彰一は俺を抱きかかえながら上手く着地し、まだ残っているお店の隙間に入った。

 少し興味本位で後ろを見てみると……うわぁ。後悔したわ。

 俺が通った道にはボトボトと、グロい色々な赤い物体が落ちてた。普通にグロい。


 腕チョンパとかなら今まで結構してきたが、体真っ二つはさすがに初めてだ。さすがにすぐ治せそうにないな。


「これはすぐには治りそうにないな。うっ、本当にグロい」

「うるせぇわ。つーか、怨呪を忘れるなよ。俺の体ばかり見てんじゃねぇよ。変態」

「変態じゃねぇわ」


 怨呪は口を動かし何かを食べている。いや、口の中にあるのは俺の下半身だな。

 幸いなことに拳銃は手にあり、刀は運良く噛まれなかった。武器だけは無事だ。まぁ、だからなんだと言うんだって感じだが。

 下半身がなければどうすることも出来ない。


 彰一は拳銃を構え、狙いを残っている目に定めてる。

 さっきは地面から打っても意味はなかったが、今はさっきより近い。狙いさえ外さなければ潰すことが出来る距離だろうか。瞬きさえしなければ。


「──ダメだ。届いたとしても僕の技術じゃ潰すまではできない」


 おい、なんで一発も撃たない。諦めんなよ。


 彰一は構えていた拳銃を下げ、弾数を確認していた。そういやさっき、弾数には制限があると言っていたなぁ。めんどくさいな。


「何個だ」

「二つ」


 ギリギリだな。一度外したらもう後がない。

 どうすればいい。絶対に外さない方法。今の俺でも手伝える方法。

 今日だけでどんだけ頭を使うんだよ。知恵熱出るわ。


「とりあえず逃げるぞ」

「おっと」


 再度俺を抱きかかえ、隙間から出て怨呪の反対側に走り始めやがった。いきなりだと驚くだろうがよ。

 血がボタボタ落ちて、肉もボロボロと崩れる。早く治さなければ本当に死んでしまうかもしれない。

 今は意識をしっかりと持っているが、今後どうなるか分からねぇな。


「どうする」


 逃げは彰一に任せればいいし、普段使わない頭をフル回転させるか。知恵熱出ても俺は知らん。

 

 ────と、思ったが無理だな。馬鹿な俺には考える事は無理だ。すまんな彰一よ。あとは、頑張れ。

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