第21話 今度はそっちぃ?
「お邪魔します!」
いつも通りゲーム配信を五時間ほどした日の夜。
俺が夕飯を食べると言って配信を切った一瞬の隙を突いて、八坂は部屋に訪ねてきた。
「先輩、次のコラボはいつやりますか?」
「八坂が催促してこなくなった時」
「今言ったことは何も聞かなかったことにしてください」
そんな都合のいい話があるか。
大体、いつどういう配信をするのかなんて俺の気分次第だから、八坂に言われて変わるもんでもないけど。
「で、話はそれだけか」
「Vtuberについての話があります」
「嘘つけ」
そう言っとけば師匠と弟子協定のせいで俺が追い出せないからとりあえず言ってるだけだろ。
八坂とコラボするとなった時から薄々勘付いてはいたけど、こいつは一回踏み越えたラインは何度踏み越えてもいいと思ってるらしい。
「言っとくけど、コラボはしてもいいとは言ったけど、俺の一人を過度に削るようになったら誘わないぞ」
「過度ってどのくらいですか?」
「一分」
「もう出ていかなきゃいけないんですか!?」
出ていけるなら出ていってほしい。
まあ、どうせ八坂が素直に俺の言うこと聞かないことはわかってるけど。
ただ、さっきみたいに「八坂が催促してこなくなったらコラボに誘うかもな~」って少し希望をチラつかせたら大人しく従ってくれる率が高い。
姉の風無よりも先に八坂マスターになってしまったかもしれない。
「でもVtuberについての話があるのは本当だったりするんですけど」
「五秒で話せ」
「このまま一人で配信を続けていいのかと悩んでいます」
「大丈夫だ。お前は面白いから。ばいばい」
「これでも真面目な悩みなんですよ!?」
八坂はプンプン言いながら手を振り回して抗議する。
こいつの中身が真面目なことを思い出すと少し面白い。
「いや……真面目に、別にいいだろ。俺なんてデビューしてからここまでずっとこうなんだから」
「そうなんですけど、あれは闇也先輩だからできたことであって、私はまだ力量が足りないという可能性が……」
「大丈夫だ。真面目な八坂ならこのままでいける。俺を信じろ」
「っ…………ずるいですよ!?」
「知らん」
悪いけど今俺は俺のことで精一杯だし。
別に、八坂ならほっといても誰かとコラボして上手くやりそうだしいいんじゃね?
「いいだろまだ再生数伸びてるんだから……大体、具体的に何するんだよ」
「人狼とか、あと、今流行りのゲームがしたいです」
「どんな?」
「八人くらいでやるアレです」
「……ああ」
あの、顔が広くて八人くらいパパっと集められるVtuber達がこぞってやってるやつな。
俺には縁のないゲーム過ぎて興味もなかった。
「ああいうゲーム興味あったのかよ」
「はい。闇也先輩がどういうプレイするのか気になって」
「そういう興味?」
俺にやらせてみたいって意味の興味?
つまり今俺はファンの「このゲームやってほしい!」って話を聞かされてただけってこと?
「悪いけど俺はやらないし……俺以外とコラボするとしても八坂一人でできるだろ」
「いえ、やったことないですし不安なので、できれば闇也先輩に間に入ってもらって……」
「お前は俺か?」
俺と全く同じことしようとしてんじゃん。
ただ、だとしたら頼む対象が間違ってるんだよな。
「いや、悪いけど……そういうのは風無に頼んでくれ」
「え?」
「俺も風無に頼もうと思ってる」
コラボ関係に関しては風無が一番よく知ってるしな。
妹の頼みならあのシスコンも喜んでやるだろうし、何なら一緒に頼むか? ……と、言おうと思ったんだけど。
「……またお姉ちゃんですか」
「えぇ……?」
……何か不満でも?
「やっぱり怪しいですね……お姉ちゃんの言ってることも信用できないし最近のあの感じも……」
「あれ? 俺の部屋で自分の世界に入ってる?」
思考の中にダイブしちゃってない?
大丈夫か、姉妹で何かあったのか。
「おい八坂」
「そもそもずっと会ってないとは考えられないし私が学校に行ってる間に……」
「おーい、八坂」
「ということは私に言えない理由があるから私を出し抜くような形で先輩と……」
「おいってば」
「――うぇぁっ!? 先輩が瞬間移動して!?」
「してねーよ」
ゆっくり近づいて肩叩いただけだよ。
ったく……どうしたんだよこいつは。
「なんかあったのか……風無と」
「……それは私が聞きたい……という台詞は喉にしまっておきますが……」
「しまえてないけど」
喉から漏れちゃってるけど。
私が聞きたいってことは、俺が何かしてると思ってるのか?
「なんだ? また俺が風無とだけコラボするとか言いたいのか? 最近はそうでもないだろ」
「いえ、そうじゃないんですけど……その、先輩がお姉ちゃんに何をしたかだけ知りたいので、先輩の反応を見たいんですけど」
「俺が何かしたのは確定なんだな」
とりあえず俺は何かしたんだな。風無に。
「まあ、反応は好きに見ていいから、何か話したいなら話してみれば」
「はい」
そう言うと、八坂は視線を動かして隣の部屋と繋がった壁をちらっと見てから。
「最近――お姉ちゃんがちょっとおかしいんです」
「……今度はそっちぃ?」
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