第三章
第18話 自分が思ってるより美人だよ
「しゅみれぇ~助けてぇ~」
「邪魔……」
「このパスワードわかんなくなっちゃったぁ~」
すみれも私も暇な休日の朝。
私は今日も家で、妹にかまって時間を潰していた。
「……パスワードなんてお姉ちゃんしかわかないし」
「何かのアプリにメモしたから多分スマホの中にはあるんだけど……」
「…………はぁ」
大きな大きなため息を吐いてから、私のスマホを奪い取るすみれ。
隣の部屋にいる闇也は知らないだろうけど、Vtuberモードじゃない時のすみれは大体いつでもこのくらい冷たい。だから私もめげない。
「ありがと~」
「いいからお姉ちゃんは機械触らないで……」
「触んない触んない」
「これも触らないで」
「スマホも!?」
私が一人暮らしを始めた部屋に妹のすみれがやってきてからもう三週間は経ったのかな。
闇也にもよくシスコンと言われるけど、すみれが来てからは毎日すみれにくっついて過ごしてる。
「……直った?」
「直してるから黙ってて」
「うん」
って言っても、すみれが子供の頃はこんなにくっついてなかったんだけど。
どうしてだろう。一回離れたら、すみれが恋しくなったっていうのが一番だとは思うけど。
ただ、シスコンと言われると私は反論したくなる。
だってすみれの場合は妹だから可愛いわけじゃなく普通に可愛いわけだから。
私はどちらかと言うと父親に似たのかシュッとした顔に育ったけど、妹は母親に似たのかほっぺがぷにぷにした可愛い顔に育ったし。
闇也にはすみれの良さがわからないみたいだけど。
「直った~?」
「うるさい」
「……すみれ、闇也に似てきた?」
なんか、今一瞬闇也にくっついてる気分になったんだけど。
いや、闇也にくっついてるって、なんか……まあいいや。
「最終的には闇也先輩になるつもりだから」
「ああ、そうなんだ……」
個人的には、すみれはすみれのままでいてほしいんだけど。
元々、実家に一緒に住んでた頃のすみれはYoutube自体もあんまり見ない子で、ゲームも動画も大好きだった私とは話も合わなかったんだけど、そんなすみれがドハマリしたのが、私と同期デビューした闇也。
今はいろいろあって隣にいる。
隣にいるって言っても、お互いに本名すら知らない相手なんだけど。
間違って配信中に呼んだら困るから教えるなって闇也には言われた。
って言っても、すみれはすみれが本名なんだけど……私があいつの前で「すみれが~」って呼んでも疑問にすら思ってなさそうだから、そもそも興味がないんだろうけど。
あいつのことを端的に表すなら、一人大好き引きこもりVtuber、という感じ。
多分、他人にあんまり興味がないんだと思う。
いろいろ助けてもらってるから悪くは言えないけど。
「……配信準備したかったのに」
「ごめんごめんって……私が代わりにしてあげようか?」
「お姉ちゃんはそこ座ってて」
「うん……」
戦力外通告を受けた気分。
私の方が一応配信歴長いんだけどなぁ。
ただ、姉ではあるけど、Vtuberとして私の方がっていうのは、もう少しで言えなくなる気がしてる。
最近は闇也とすみれのコンビで、だいぶ知名度も上がったし。
元々は、『闇風』って厨二っぽいユニット名もあって、闇也とコラボするって言ったら私だったけど、今はそうでもないだろうし。
「……闇也はまだ寝てるんだろうね」
もう昼になるのに。
なんであんな生活をしてても一人で生きていけるのか不思議でしょうがない。
家ではあんな奴でも、間違いなく今後人気Vtuberになっていくんだろうけど。
……ま、私はすみれがいるから全く羨ましくないけど!
一人でいるよりすみれがいる方がいいに決まってるしね~。
「そういえば、お姉ちゃん」
「ん~? なに?」
「ずっと聞きたかったんだけど」
「うん。聞いていいよ?」
すみれがずっと聞きたかったなんて言ってくれることないし。
何でも答えてあげるよ、と優しい顔を向けると、
「闇也先輩とお姉ちゃんって付き合ってないよね」
くっついてるすみれからは、聞いたこともないような冷たい声が聞こえた気がした。
「……えっ、なんで?」
「そういう噂があったって聞いたから」
「……へー……凄いデマだね」
「デマなの? 本当に?」
「思いっきりデマだけど……」
だって、私が闇也となんて……ねぇ?
闇風のコラボを見たことある人ならあり得ないってわかるだろうけど。
あいつとは……デビューした時から一緒にやってる、戦友みたいなもんだし。
「良かった、お姉ちゃんがライバルだったらどうしなきゃいけないんだろうと思ってたから」
「……どうしようかと思ってたじゃなく?」
「最低限消さなきゃいけないのかなって」
「それで最低限!?」
闇也は他人で私は家族なのに!
えー……私より闇也が優先されるのー……?
「というか、別に消さなくてもいいでしょ……私が闇也と付き合うことなんてないだろうし」
「お姉ちゃんが好きだったらわからないし」
「いや、私からはそうだったとしても、闇也から見たらあり得ないでしょ」
そもそも私の性別知らないんじゃないの? あいつ。
誰かとゲームしたい時に誘ったら来てくれるだけの存在だと思ってそう。
「……本当にそう思ってる? お姉ちゃん」
「うん」
思ってるけど。
「……羨ましい」
「え? どこがっ? 私のどこが羨ましいって?」
「おめでたい性格」
「それ褒めてナクナイ……?」
すみれが羨ましいなんて言うから期待したのに。
「お姉ちゃんはパッと見裏表なさそうだし。深く考えないから、闇也先輩も話しやすそうだし」
「……それだけ聞くとただ明るいアホみたいなんだけど」
「うん」
そう言いながら、すみれは私のスマホを渡してくる。
画面には私がメモったパスワードが表示されていた。
「わー! ありがと~しゅみれぇ~」
「そういうところ……」
「そういうところ?」
が、なに? と目で聞いてみるけど、すみれの目はもうパソコンに向いていて帰ってこない。
用が終わったら相手してもらえない。悲し。
「じゃ……邪魔者は帰るから……」
この前家にパソコンが一つ増えたせいで、もうパソコン関係のことですみれに話しかける必要もなくなっちゃったし。
今日はバイトもないし私は私でゲームでもしてよっかな。
あ、そういえば二人プレイ用のイベント始まってたっけ。
もしかしたら起きたら闇也が誘ってくるかもしれないし――
「お姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
ただ、部屋を出ていく前に、てっきりもう相手してくれないのかと思ったすみれが話しかけてくる。
姉としては話しかけてくれるならいつまでも話してあげたい気分だったんだけど、こっちを見たすみれは、警告するような顔で。短く。
「お姉ちゃん、多分自分が思ってるより美人だよ」
「……へ?」
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