夏恋計画
海老名五十一
プロローグ
プロローグ
正門に向かう桜並木が、満開の花弁をつけている。
白い欠片が、風に煽られつつ、地面に積もってゆく。
制服を着た俺は、その光景を放心して眺めていた。
今日は高校の卒業式だ。卒業式に参加することのできなかった彼女の顔が、瞼の裏に浮かんでいた。
1人の少女が、俺の隣に立つ。
「死んじゃったね」
1年前に出会ったときと比べて、フランクになった口調で彼女は言った。
言葉にしなくとも、その対象は分かっていた。
当時、俺は命というものをあまりに軽く考えていた。
もっと、俺が命の重さを知っていたら…
もっと、何をしてやれるかを考えていたら…
胸中が苦渋で満ちる。
ギュッと、彼女が俺の手を握った。
「あなたの責任じゃない」
まっすぐに前を見据えたまま、彼女は言った。
「死んだのはあなたの責任じゃない。それより大事なのは、生きているあいだに何をしたかだよ。私の勝手な想像だけど… 短いあいだだったけど、あなたがいてよかったと思う」
俺はその場に屈みこんだ。
桜の花弁だけが、変わらずに降りそそいでいた。
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