第66話 君がいるから(9)
雪乃と智、蓮は浅見が運転する車に乗って、雪乃の家へ戻った。
本当は鏡明も現場に向かうべきなのだが、過去のことを考えると、雪子は鏡明に会うことは嫌がるだろう。
鏡明は使い慣れてない携帯電話ではなく、固定電話の前に座ってじっと結果を待つことにした。
「パパは、ママが祓い屋を嫌っている理由を知っていたの?」
雪乃は、車内で疑問に思っていたことを智に聞いた。
雪子は絶対に祓い屋には近づいてはいけないと、もしも会ったら逃げろとまで言っていた。
夫である智も、見える人間ではあるが祓い屋と関わることは今までなかったはずだし、小泉家にとって、祓い屋は天敵のはずだ。
「あぁ、知ってるよ。実は、俺の
柊さんとは、雪子の母、つまり雪乃の祖母である。
おばあちゃんと呼ぶと、怒られるので、雪乃はひいちゃんと呼んでいる。
「ママは祓い屋自体を毛嫌いしているけど、俺は祓い屋みんながそこまで悪いものだとは思ってないんだ。ママはもう二度と関わりたくないだろうけど……今回ばかりは仕方がない」
智は、見えるだけで何もできないのだ。
氷川家のような祓い屋の名家ではなかったし、祖母の実家はすでに跡継ぎにも恵まれず廃業していた。
柊から口止めされていたため、智は雪子にこのことは告げていない。
「でも……」
智は後部座席から、助手席に乗ってる蓮を睨みつけた。
「今は緊急事態だから仕方がないが、あの氷川家の人間であるなら、雪女には本来近づいて欲しくなかった。またママに何かあったら、俺が絶対許さないからな————」
いつも雪子の尻に敷かれっぱなしな父親の、こんな父親というか、男らしい表情を雪乃は初めて見た。
(パパはいつも頼りない上に、リアクションが大げさで、よくママにうるさいって注意されてたけど、ちゃんとママのこと、大事にしていたのね————)
* * *
顔がそっくりな二人が、檻の外から雪女を監視している。
冥雲会には、祓い屋と妖怪の両方が関わっている。
この檻は、妖怪と祓い屋によって作られたもので、一度中に入れられた妖怪は自らの力で外へ出ることはできない。
祓い屋が持つ鍵で開けるか、学校祭で蓮がやったように、檻ごと浄化させるしかここから妖怪は出られないのだ。
かつてその術をかけていた祓い屋は、歴代の氷川家の当主だった。
人や妖怪を仕入れては売りさばいて、その勢力を広げて言った冥雲会の幹部であったババが歴代の当主たちの教育をしていた為、誰一人そのことに違和感を抱くものはいなかった。
鏡明がそのことに気がついていなければ、このまま冥雲会はさらに勢力を広めていくところだった。
しかし、冥雲会に関わったものは皆霊界へ封印されていたはずだ。
雪子は鏡明の父や兄の聡明も例外なく霊界へ送られたものと思っていた。
ババだってそうだ。
霊道ができてしまっていたということは知っているが、なぜあの当時の姿ではなく、こんな若い姿で存在しているのか、雪子にはわからなかった。
ババは学校で雪乃を狙って追いかけてきた烏の中に入っていたが、これがババ本体なのだろうかとも思える。
それに、なぜエリカとこうも似ているのか……。
「エリカちゃん、あなた一体何者なの?」
小学生の頃のエリカにも、完全にギャルになってからのエリカにも何度も会っているが、冥雲会と関わりがあったとは雪子は思わなかった。
蓮が祓い屋であることは、鏡明とあの日対峙するまで全く知らなかったし、蓮がとエリカが親戚であることを、雪子は知らないのだ。
エリカが蓮よりも祓い屋としての才能があることも知らなかった。
ただちょっと、雪乃に対する態度が、親友というよりは片思いしてるような感じはしていたけども……
「エリね、ずっと氷川家を継ぎたいと思ってたの……鏡明じいちゃんに憧れてた。でも、諦めようかどうしようかって迷ってたけど、この人が————ババ様が教えてくれたんです」
エリカはまるで祈るように胸の前で両手を合わせると、隣にいる能面女と全く同じ笑顔で語り出した。
「氷川鏡明が、どんなに酷い人間だったか」
能面女……今目の前にいるババから聞いた、雪子が知らない真実を————————
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