祓い屋見習いと半妖の雪女
星来 香文子
第一章 祓い屋見習いと半妖の雪女
第1話 祓い屋見習いと半妖の雪女(1)
活動を休止します。
真っ黒な背景に、白いフォントでそう大きく書かれたサムネイル。
毎週決まった時間に更新されていた動画サイトのチャンネルを開くと、それまでのカラフルでインパクトのあるサムネイルとは全く違う、異質のそれがあった。
「え……うそでしょ!?」
いつもより早い時間に公開されていたことと、間近に迫った高校受験に向けて準備をしていたこともあり、気がつくのが遅れたのだ。
普段なら更新されてすぐに見ていたのだが、雪乃の知らぬ間にSNSのトレンドはその話題で持ちきりだった。
「いや、待って…………釣りかもしれない……きっと、きっとそうよ!! もう、レンレンたら!!」
そう自分に言い聞かせて、震える手でスマホ画面を押すと、いつもの可愛い女の子のコスプレではなく、学生服を着た茶髪の男の子はカメラに向かって言った。
『突然の報告になり、申し訳ありません。サムネにもある通り、活動を休止します』
雪乃はショックのあまり、スマホを床に落とした。
保護シートを貼っていた画面に、まるで雪乃の心のようにヒビが入る。
人気のコスプレイヤー兼ゲーム配信者であるレンレン(10代男子)は、コスプレも女装もせず、家業を継ぐための準備として、この日から突然活動を休止。
レンレンの大ファンだった雪乃は、レンレンロスに陥り泣き続け、受験どころではなくなってしまう。
この日から急激に気温が下がり続け、雪が降り続き最低気温も歴代1位、降雪量も歴代1位を記録。
交通の面で人々の生活に大きな打撃を与えた。
心の支えを突然失った雪乃は、もちろん第一志望に落ちてしまい、滑り止めで受けていた近所の私立高校に入学することになった。
* * *
新しい制服に身を包み、迎えた入学式。
雪乃は、新入生代表を務めた。
成績も良く、生徒会長もしていたということで選ばれたのだが、中学で同じ学校だった生徒たちは、この日の雪乃を見てとても驚いた。
「会長、なんか暗くない?」
「どうしたんだろな? って、もう会長じゃないだろ?」
中学での雪乃は、文武両道な上に容姿も美しく、彼女がいるだけで周りも明るくなるような人だった。
密かにファンクラブもあり、高嶺の花とも呼ばれていたが、この数ヶ月すっかり無気力で暗い表情に変わってしまっていた。
「きっと、受験落ちたからでしょ?」
「卒業式も体調不良で出られなかったもんね……」
一体何があったのか、生徒達は知らない。
雪乃がレンレンのガチファンだったことを。
それも、それを未だに引きずっていることも。
* * *
翌日、雪乃は初めてのホームルームで学級委員に選出されたが、否定するのも面倒でもうどうにでもなれと投げやりになっている。
教壇に上がり、クラスメートの顔を見ながらその他の委員を決めようとした、その時だった。
なんとなく、窓側の1番前の席の眼鏡男子と目があったのは……
(ん? なんだろう、この既視感————)
教壇の上にあった座席表の名前を確認する。
(
「れっ……————」
思わず叫んでしまいそうになった自分の口を両手で押さえて、脳内をフル回転させる。
真っ黒で男子にしては長めの髪と眼鏡のフレームで若干隠れているが、右の頬骨のあたりの2つの黒子の位置や、色白で綺麗な肌と、形の良い唇。
そして、首の後ろを掻く癖。
それは、もう一生見ることができないと思っていた、会うことができないと思っていた、レンレンそのものだった。
(レンレンっ……!! 黒髪になってる!! 尊い……っ!!)
興奮のあまり、血圧が上昇したのか、雪乃は突然めまいに襲われ、その場に倒れてしまった。
「小泉さん!? 大丈夫ですか!?」
驚いた担任が駆け寄って雪乃を揺らしたが、妙に冷んやりしている。
「…………冷たい? 誰か保健室に!!」
雪乃はこの日、運ばれた保健室のベッドで嬉しすぎてめちゃくちゃ泣いた。
笑いながら泣くという異様さに、養護教諭は驚いてすぐに保護者に連絡。
母親にしてはとても若くて色の白い女に連れられ雪乃は自宅に帰った。
養護教諭は一安心して、雪乃がいなくなったベッドを整えていると、先ほどまで人が寝ていたとは思えないほど、冷んやりとしている。
「あの子……大丈夫かしら?」
養護教諭は首を傾げながら、そうつぶやいた。
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