第121話 出立と心配

「それでは、ブリーフィングを開始する」


 サストの声が部屋中に響きた直後、椅子に座っている1人が手を上げ、サストに発言を許可されてから発言をし始めた。


「隊長。本当に、この訓練兵を連れて行くんですか? 俺は賛成出来ません」


 その発言をしたのは、サストが隊長を務める部隊の中隊長のカビルであった。

 するとその正面に座っていた人物が反論する様に発言し出す。


「おい、隊長が決めた事に文句言うのかカビル」

「いや普通に考えて、緊急任務に訓練兵を同行させる事が危険だと提言してるだけだ。お前はいつも、隊長隊長って従ってるだけじゃねぇかエス」

「私は既に隊長が決めた事に、反論してブリーフィングの時間を先延ばしにさせたくないだけだ」

「俺は緊急任務のメンバーを一任されているサスト隊長が、選んだメンバーにもしもの事があればサスト隊長の責任になるだろうが! 王国兵ならまだしも、訓練兵だぞ! 何があるか分からないだろうが!」

「そんな事サスト隊長も分かった上での同行許可だろう! お前が改めて心配する必要はないし、そんな事が起きない様に私たちが居るんだろうが!」

「だから!」

「まだ言うのか」


 とカビルとエスが言い合いを続けていると、サスト隊長が机を叩き2人の言い合いを止めた。


「いい加減にしろ、カビル。エス。お前ら中隊長だろうが」

「っ……すいませんサスト隊長」

「申し訳ありません、サスト隊長」


 2人はサストの言葉に冷静さを取り戻した。

 サストは小さくため息を漏らし、改めてブリーフィングを開始した。


「まずは今回の緊急任務内容だが、第一王子オービンと同じ学院に通う生徒が何者かに誘拐された。その者たちを追い、第一王子オービンとその生徒の保護が任務内容だ」

「っ!」


 その内容を聞き、アバンは大きく反応したがグッと堪えてサストの話を聞きづけた。


「ペイル、貰って来た情報を映せ」

「はい」


 そう言われるとペイルは卓上に設置されている魔道具に何かを差し込むと宙に様々な情報が映し出された。

 そこにはどのような人物が攫ったのかや、どのルートを通ったかなどの情報が出ていた。


「現状、誘拐犯たちは二手に分かれている。一方は、通報者の学院の教師が追っているがもう一方は、第二王子ルークと同級生が追っている」

「第二王子がですか?」

「あぁ。詳しくは伝わっていないが、通報して来た教師によると2人で追っているとの事だ」

「なるほど。状況から見て、人質も二手に分けて犯人らは逃走していますね」

「その通りだ。最終的には合流するかもしれないが、一度我々も二手に分かれて奴らを追う。ペイル」


 直後、宙に班分けがされた名前の一覧が表示された。

 アバンの2人はサストとペイルがいる班へと分けられていた。


「奴らは既に街を出ていると判断するべきだろう。周辺のアジトとされそうな場所は、既にピックアップ済みだ」


 再び宙の資料情報が変わり、街の外の地形情報へと変わった。

 そこにはいくつかバツマークがされていた。


「私たちの方は、教師が追っている方面へと行く。カビルとエスは第二王子ルークが追っている方面へと向かえ。目的地に着き次第報告し、調査後も報告する様に」

「「了解!」」

「そして今回の緊急任務は、極秘となる。第一王子の誘拐が外に漏れてしまっては、今後の王国の問題となる。対策や原因については解決後に、王国軍全体での課題となる。今は無事に誘拐された者たちを保護する事を優先に考えるように。では、出立は15分後とする。私は国王への報告を済ませ次第合流する。ペイル訓練兵2人は任せる。では解散!」


 あっという間にブリーフィングは終了し、サストはそのまま部屋を出て行ってしまう。

 アバンとベルヴァティは圧倒されていた。

 そこにペイルが話し掛けて来た。


「まぁ、そうなるよね。僕はペイル。一応小隊長なんだ、よろしく」

「あっ、よ、よろしくお願いします。ベルヴァティです」

「よろしくお願いします。アバンです」


 するとそこに中隊長である、カビルとエスが近付いて来る。


「お前らもしかして、噂のあのGSコンビか?」

「?」


 また聞きなれない言葉に首を傾げていると、アバンがその事について問いかける。

 するとエスがその問いかけに答えてくれた。

 現在、王国兵内で訓練兵に中々に凄い奴がいると噂になっているらしく、それがアバンとベルヴァティの事であると初めて知る。

 それで何故GSコンビと呼ばれているかと言うと、髪の色からであった。

 金色と銀色の髪の色からGOLDとSILVERの頭文字を取り、GSコンビと言われていたのだった。

 そこでやっと理解した2人は、少し呆れていた。


「(いや、何で髪の色からなんだよ……そこは名前の頭文字とかからだろ)」

「(噂になる事なんてしたか? そんな目立つような事はしてなかったはずだが……)」


 アバンとベルヴァティは互いに別の事を考えていると、カビルが覗き込んで来た。


「いいかお前ら。サスト隊長に選ばれて同行するからには、もう訓練兵なんて思うなよ。足手まといになると思っているなら、今からでも辞退しろ。これは訓練兵がやる様なもんじゃねぇ!」

「おいカビル。まだそんな事を」

「うるせぇ!」


 それだけ言い終えるとカビルは部屋を出て行った。

 その姿を見ながらエスは口を開いた。


「サスト隊長が認めた君らだからさっきはああ言ったけど、実際の所私も不安さ。君たちの実践経験はゼロに等しい、且つ能力や性格だって完全に理解出来てない。そんな状態で、今回の緊急任務に同行するのは正直危険だ」


 アバンたちはその言葉に、少し俯いた。

 それを誰かに言われる以前に、アバンたちは先程のブリーフィングからこの場に自分たちがいるのは場違いなのではないかと薄々思い始めていたのだった。

 だが、オービンの名前やサスト隊長に認められた事を考えた際に、今後の自分たちの為にもこの場で引くわけには行かないと考えており、それを口に出した。


「俺は、まだ訓練兵ですがこんな所で怖気づく様な王国兵にはなりたくないのです! これは強がりではありません。俺が目指す王国兵は、成長し続け進み続けるものです! ですから、俺は何を言われようと行きます!」

「オービンに色々と言われましたが、俺も弱腰の王国兵になりに来たのではありません! 強く、皆を守れる存在になる為にここにいるのです! それに、俺とオービンは絶対に足手まといにはなりません!」


 2人の発言を聞いたエスは小さく笑い、部屋を出て行った。

 ペイルは軽く拍手をした後、笑顔で2人に話し掛けた。


「意気込みは凄いけど、このままじゃ早速足手まといになるから早く行こうか」

「っ! す、すいません!」

「あー何か急に恥ずかしくなってきた……」


 そして2人はペイルが率いる班として、他のメンバーにも改めて挨拶をしつつ出発場所へと向かって行った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ではこれより、我々朱部隊一部メンバーと訓練兵2名を含めた10名で緊急任務に取りかかります」

「すまないね、サスト隊長。せっかくの収穫祭と言うのに」

「いいえ。一刻を争う事態、動ける者が動くのは当然です国王。それでは部下を待たせている為、これにて失礼致します。随時報告は致します」


 そう言ってサストは国王と王女に一礼して、部屋を出て行った。

 そして部屋に居たマイナが、タツミ先生からの連絡を報告し始めた。


「私の方で追跡させていた方は、見失ったらしいわ。申し訳ない……一応方向は分かるので、追跡は続行すると連絡を受けたわ」

「分かった。では、その情報もサスト隊長へと共有してくれ」

「えぇ。それより、先程訓練兵を連れて行くような事を言っていたけど問題ないの? こんな緊急事態に」


 するとティアが「問題ない」と答える。

 それでも少し不安に思っているマイナに、ハンスが話し始める。


「サスト隊長に人選は一任している。彼は無駄な人選はしないし、こちらからの要望だろうとも彼が必要ないと思えば同行などさせていないよ」

「ん? その言い方だとハンスが訓練兵を入れさせた様な言い草だけど」


 その問いかけにハンスははっきりとは答えず、軽く笑うだけであった。

 直後ハンスは立ち上がり、一度席を外しと言って部屋を出た。

 そして廊下を歩き、ある部屋へと入ると足を止める。


「いるな?」


 その言葉を突然口に出すと、何処からともなくハンスの背後に5名の人影が現れ片膝を付いた。


「はっ、こちらに」

「君たち暗部組織にも、残っているメンバーでオービンを攫ったのがどこの奴らかを調べて欲しい」

「御意。彼にも動いてもらいますか?」

「……いや、彼には知らせなくていい。今いるこのメンバーのみでよい。いらぬ動揺を与える必要も、責任も感じさせなくてよい。配慮はする様に。以上だ」

「御意」


 そう言うと、ハンスの背後に現れた人影は一斉に消えて行った。

 そしてハンスは窓の方へと歩いて行き、そこから遠くを見つめた。


「(どうか無事でいてくれ……)」

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