第114話 瓜二つ

 その光景を見たオービンは、絶句した。


「▼◎▼×□」

「予定外だが、見られたならこいつも連れて行く。お試しの器にも出来るだろ」

「○■◎◎□◆」

「多い分には困らないだろ」

「■▼◇」


 すると、黒いローブを来た1人が仰向けになった状態の私に近付いて来て、私を担ぎ上げた。

 そして、顔元に手をかざしてきた。

 何で……何でタツミ先生が……どう……言うこ……と……

 そこで、私の意識は完全に途切れてしまう。


「タツミ先生……貴方の差し金か?」

「……何してる。さっさと捕らえろ」


 その言葉に、残りの黒いローブを来た人物たちが一斉にオービンに近付いて行く。

 だがオービンは風の盾で、近付く奴らの動きを止めた。


「やっと動けるようになった所なのに、こんな事をしたら逆戻りなんですけど?」

「それは好都合だ」

「……」


 オービンは動きを止めていた奴らを、吹き飛ばすとタツミ先生に向けて、掌中で魔力を使い空気の弾丸を打ち放った。

 だが、それをタツミ先生は片手で虫を払う様に弾いた。


「っ!」

「早くしろ。時間を掛けすぎだ」


 直後、オービンの背後から新たに黒いローブを来た人物が突然現れ、オービンを捕らえる。


「(まだ居たのか!? 体調が戻ったばかりで、気付けなかったか……)」


 すると吹き飛ばした黒いローブを来た奴らも、オービンの足元を捕まえ、完全に身動きが取れなくなるオービン。

 そして背後にいる奴が、オービンの顔を覆う様に手をかざして来る。

 数秒後には、オービンの意識は完全に失われしまう。


「すぐさま撤収だ」


 タツミ先生の言葉に従う様に、黒いローブを来た奴らが医務室の壁側に移動する。

 その中から1人が壁に手を付けると、大きな音を立てる事無く壁を崩し、外への出口を作り出した。

 そしてそこから、黒いローブを来た奴らが外へと出始め、オービンと抱えた者とクリスを抱えた者も外へと出ようとしたときだった。

 医務室の扉が勢いよく開いた。


「はぁ……はぁ……よくも、やってくれたな犯罪者共!」

「……お前らが時間を掛けるかこうなるんだ」


 そこに居たのは、瓜二つのもう1人のタツミ先生であった。


「さっさと行け」

「逃がすかよ!」


 タツミ先生が逃げようとする黒いローブを来た奴ら目掛けて、突っ込んで行くがそれをもう1人のタツミ先生が止める。


「よくも俺に化けてくれたな!」

「っ!」


 止められたタツミ先生は、黒いローブを来た奴らに指示を出していたタツミ先生を勢いよく蹴り飛ばすと、蹴り飛ばされたタツミ先生は医務室の壁を突き破って行った。

 一方で、先にオービンやクリスを抱えて逃げ出した黒いローブを来た奴らの前に、ある人物が偶然立ち塞がった。


「異様な感じかしたから来て見たら、お前らこの学院の関係者じゃないな……」

「◇●◎■▼」

「□▼◇□」

「ん? 何て言ったんだ?」


 そこに立ち塞がったのは、ルークであった。

 するとルークは黒いローブを来た奴らの後ろの方に、誰かが抱えられている事に気付く。


「誰を抱えて……っ! お前ら何者だ? 兄貴にクリスを抱えてどこに行くつもりだ?」


 その問いかけに、黒いローブを来た奴らは答えずに1人の奴がルークに向かい飛び出して行くと、目にも止まらぬ速さで殴り掛かる。

 だが、ルークはうろたえる事無く立っていると相手の拳はルークの寸前で止まった。


「兄貴の様に瞬間的にはいかないが、お前たちを見つけてから念の為展開させてたんだよ。風の盾を」

「っ!」


 直後、ルークの後方から『バースト』の魔法が放たれて来てルーク目掛けて殴り掛かった相手に直撃し、吹き飛ぶ。


「おいルーク。何だよこれ?」

「さぁ、俺にも分からない。だけど、こいつらが兄貴とクリスを誘拐しようとしている」

「何だと!?」



 ――遡る事20分前。



 ルークは学院内の大食堂にいた。


「(何となく、クリスに会うのが気まずくてこっちに来てしまった……)」


 大食堂には、ちらちらと学生の姿はあったがほとんどの生徒は、収穫祭に出ているのだろうとルークは思っていた。

 そして小さくため息をつく。


「(今思い出しても、何で昨日あんな事を言ったんだ俺は……別に嘘じゃないけども、ああ言う風に言うものじゃないだろ。すれ違った時も、目を何となく逸らしてしまったし……本当、何やってるんだ俺……)」


 ルークはそこで先程より、深くため息をついた。

 暫くすると、大食堂にはルークだけとなると、そろそろ寮に戻るかと思い立ち上がる。


「(クリスに昨日の事は忘れてくれとか、何か言った方がいいか? いや、それはどうなんだ? 余計変な感じになるんじゃないのか?)」


 ルークは寮へとゆっくり歩きながら、どうにか胸の所でモヤモヤした様な状態やクリスとの変な距離感を解消したいと考えていた。

 その時ちょうど、学院内にタツミ先生を呼び出すアナウンスが流れるが、そんな事に気を留める事無く考えながら歩き続けた。


「ん? ルーク?」

「……」


 そこに声を掛けて来たのは、トウマだったがルークは考え事をしており、トウマの存在に気付いておらず無視したまま歩いていた。


「おい、ルーク無視か? おーい」

「……」

「ルーク! 聞いてんのか!」

「ん? あぁ、トウマか。何だ?」


 大声で呼ばれて、そこで初めてトウマの存在に気付くルーク。

 トウマは少し呆れた様にため息をつくも、何してるのかルークに問いかけた。

 ルークは「考え事だ」と言う事だけ返し、逆にトウマに「お前こそ、何しているんだ?」と問い返した。


「ちょっと忘れ物したから、寮に帰る所だよ」

「そうか」


 そして2人は何となく、一緒に寮へと歩き始める。

 途中でルークがふと思った事を口に出した。


「何で一緒に歩いてるんだ?」

「なんとなく?」

「……そうか」


 少しだけ会話をした後は、また黙って2人で寮へと歩き出し、近道でもしようとグラウンドの方へと出ると、ルークが突然足を止めた。


「どうしたんだよ、ルーク?」

「何か変な感じがしないか?」

「ん~……いや、特にしないが」


 ルークには何かを感じ取っていたが、トウマにはそれがピンと来ておらず首を傾げていた。

 するとルークはグラウンドを突っ切りだし、寮とは真逆の方へと歩き出す。

 トウマは訳が分からずに付いて行くと、その途中でルークに止められる。


「やっぱり、何か変な感じがする。トウマ、お前はここで魔法をすぐ使える準備をしてくれ。俺も念の為、防御態勢をとる」

「いきなりどうしたんだ。何を警戒してるんだよ、ルーク。ここは、王都内だしましてや学院内だぞ。賊的な奴なんている訳ないだろ」

「いいや、絶対と言うものはない。いきなりですまないが、頼むトウマ」


 トウマは、ルークの言葉に少しだけ口をとんがらせながら、ルークの言う通り魔法をすぐ使える体勢をとる。

 そしてルークは、違和感を感じた方へと進んで行くとそこで突然、黒いローブを来た奴らが茂みの奥から飛び出て来た。

 そこでルークたちは黒いローブを来た奴らと初めて遭遇し、先程の戦闘へと続き今に至るのだった。


「で、どうすんだルーク? 誰か呼ぶべきだろ」

「確かにそうだが、呼びに行っている間に逃げられそうだ。呼びに行くかならどっちかだ」

「……なら、俺が呼びに行く。俺が居なくても大丈夫か?」

「正直何とも言えないが、足止めくらいは任せろ」


 するとトウマが小さく笑う。


「そこは、全員ぶっ飛ばすとか強気な事を言うと思ったぞ」

「相手がどんな奴らか分からない内と、増援が来るまではだ」


 ルークが言い終わって軽くトウマにニヤついた表情を見せると、トウマは「なるほど」と呟いた。

 そしてトウマがその場から誰かを呼びに行こうとした瞬間だった。

 黒いローブを来た奴らが出て来た、茂みからタツミ先生が吹き飛んで来て、ルークたちの前で受け身を取り体勢を立て直した。


「タ、タツミ?」

「タツミ先生!」


 突然現れたタツミ先生に、2人が驚いていると吹き飛んで来た茂みから、もう1人のタツミ先生が姿を見せる。

 2人は瓜二つのタツミ先生が同時に現れた事に驚き、何度か交互に2人のタツミ先生に視線を向けた。


「何が起きてるんだ?」

「何でタツミ先生が2人いるんだよー!?」

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