第113話 収穫祭当日

「こちらになります」

「ありがとうございます」


 マイナの言葉に王城に仕える執事は一礼し、その場を立ち去って行った。

 そして執事に案内された扉を開け、中に入るとそこには丸テーブルを2人で囲む国王と王女の姿があった。

 マイナは部屋に入ると、片膝を付き挨拶をした。


「お久しぶりです。ハンス国王、ティア王女」

「マイナ、久しぶりだね。後ここには、俺たちしかいないから、そんなにかしこまらなくていいよ」


 とマイナに話し掛けたのは、金色の髪が特徴であるクリバンス王国で現国王でもある、ハンス・クリバンスであった。


「そうね。私は少し前に会ったから久しぶりって感じじゃないかもね」

「……はぁ~2人共少し気を抜き過ぎては?」


 マイナは小さくため息をついた後、立ち上がる。

 するとティアが両肘を机について、両手を頬に付けた。


「だってぇ~気を抜ける時なんて全然ないんだもの……久しぶりに会う友達の前の時くらい、いいじゃない」

「そうは言っても、一応ここ王城だし」

「まぁ、ティアもここ最近公務で忙しかったし、気を休める時間が取れていないから多めに見てくれマイナ。今日は昔みたいに呼び捨てで構わないからさ」


 ハンスの言葉にマイナは「分かった」と答えると、2人の近くの椅子へと腰を掛けた。

 3人は、同級生でもあり久しぶりに3人で集まれた為、学生時代の様に楽しくお茶をしながら思い出話に花が咲いていた。


「そう言えば、リーリアは今日の収穫祭には来るの?」

「一応招待状は出して、行くとは返事をもらっていたが」

「リーリアが来ないなんて事ないでしょ。収穫祭に皆で集まろうと、昔言い出した張本人なんだから」


 ティアはそう言って、飲んでいたティーカップを机に置いて、部屋に置いてある写真立ての方を向く。

 その視線に気付いたハンスが呟く。


「もう24年も経つか……」

「そうね」

「……」


 ティアが見つめる先の写真立ての中に飾られている写真には、ティアたちの学生時代の写真が飾られていた。

 そこにはティア・ハンス・マイナ・リーリア以外にもう1人男子の姿が映っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 今日は、前日祭に引き続き収穫祭と言う事で、前日よりも街がとても賑わっていた。

 私はと言うと、昨日あれから色々と頭を使ったので少し疲れており、未だ寮にいた。

 トウマは今日も街に行くと私に言い残して、先に部屋を出て行った。


 一方ルークはと言うと、昨日寮でバッタリ会った際には向うから一気に視線を外して来て、少し顔を赤くし気まずい雰囲気を出して立ち去って行った。

 私もルーク同様に目を合わせる事はなく、そっぽを向いて何事もなかった様にすれ違った。

 その時は、少しだけ鼓動が速くなっていた。

 今日はまだ会っていないが、食堂兼リビングに行くと人の姿はなく、皆外出か部屋にいるんだろうと思っていた。

 私は1人で少し遅い朝食を食べた後、一度部屋に戻った後大図書館に本を返すのを忘れていた事を思い出し、本を持って大図書館へと向かった。


「本当に、学院に生徒がいないな。皆収穫祭で外出してるんだな。静かすぎて、逆に怖いな」


 学院の廊下を歩いると、タツミ先生を呼ぶアナウンスが流れる。

 一瞬、突然のアナウンスドキッとしたが、そのまま私は大図書館へ向けて廊下を歩き続けた。

 大図書館に着くまで、自分が廊下を歩く音以外しないので少し怖くなっていた。

 そんな事を感じつつも、大図書館に着くと中には数人だが生徒も居て、自分だけじゃなかったと分かり少しだけホッとした。

 本を返した私はふとオービンはどうしているのか気になり、少し医務室に顔を出そうと思い向かった。


 昨日偶然会ったタツミ先生から、オービン先輩がやっと体調が少し回復したから、今まで寝たきりで機器とか付けてたけどそれも外したと聞いたから、顔を少し出してもいいと言われたんだよね。

 でも本当に一時はどうなるかと思ったけど、回復して良かった……まだ完全とは言えないけど、今は普通に動ける様になったことを喜ばないと。

 そう言えば、ルークやトウマも聞いたのかな? まぁ、それはいいか。

 そして医務室に向かっている廊下で、何か大きな物音が医務室の方から聞こえて来たので、何かあったのかと思い急いで向かい、扉を開けた。


「何かあった……だ、誰?」


 私が医務室の扉を開けると、そこには黒いローブを被りを顔が見えない人たちが数名いた。

 その奥にオービンが立ち上がり、壁際までそいつらに追いつめられているのが見え、私は声を出した。


「オービン先輩!」

「っ! クリス、今すぐここからっ」


 とオービンが私に気付き声を掛けて来た直後だった。

 1人のローブ姿の奴がオービンの腹部に拳を叩き込んだ。

 だが、オービンは寸前で魔力を使い、風の盾を創りだした。


「人が弱ってる所を襲うとは、いい度胸だ」

「……」


 オービンに殴り掛かった相手は、無言のまま拳に力を入れ続けると、オービンが展開した風の盾を突き破り腹部へと拳を叩き込んだ。


「ぐっぁ……」

「オービン先輩! 何してるんだ、お前ら!」


 私はすぐさま目の前の奴らが、部外者かつ敵対する者たちだと判断し、『バースト』の魔法を唱える。


「△●◎○×▽×◇▼」

「◎○▼▼△×◇▽●×□」


 何だ、この機会音の様なものは? いや、それより今はオービン先輩を助けないと!

 私は『バースト』を医務室内で極力抑えた状態で放つと、1人のローブを被った人物が前に出て来て、懐から大きな布を取り出しそれを盾の様に構えた。

 直後私の放った魔法がその布に直撃するも、爆発は起きず布に飲み込まれて行った。


「えっ!?」


 何が起こったのか理解出来ずにいると、オービンを殴った人物が私の方を向くと、一瞬で私との距離を詰めて来た。

 目で追えない速さに驚愕していると、次の瞬間には私の腕はその人物に掴まれ、地面に向けて投げ飛ばれている所であった。

 何も出来ないまま、私は背中から地面に投げつけられてしまう。


「がぁっ!」

「○×▽▼」

「▼△×◇◎○▼▽●×□」

「××▼◎□○□△◇」


 私は投げられ、勢いよく地面に打ち付けられた衝撃で、体中に痛みが走り全く動かずにいた。

 な、何者なんだこいつら……話しているのか? 分けが分からないし、何でこんな奴らが学院に居るんだ? どうやって入り込んだ?


 王都メルト魔法学院は、部外者は入れない様に見ない魔法がかけられており、どんな時だろうと学院に許可がないと入る事は出来ない様になっている。

 また、それだけではなく警備をする人間もいる為、抜け道などはなく学院生にとって安全な場所とされている。

 それなのに、目の前にいるのはどう見ても許可など貰えるような奴らではなく、更には私たちに攻撃を仕掛けて来てくる程凶暴な奴らだった。

 私は何とかこの状況を誰かに知らせないといけないと思い、窓に向かい魔法を放とうとするが、黒いローブを来た1人に腕を踏みつけられる。


「ぐうぅはあぁっ!」

「□○■」


 くそっ! 何もさせなつもりか……それにさっきから何を言ってるのか分からないし、何が目的なんだ、こいつら。

 私が下から見下ろす様に見て来ている黒いローブを来ている奴らを見ると、そいつらは何故か私ではなくオービンの方を見ていた。

 それに気付き、私もその方に視線を向けると、オービンは先程殴られた箇所を片手で抑えつつ、立ち上がろうとしていた。


「お前らの目的は俺だろ。そんな知らない奴に、構っている時間なんてあるのか?」


 その言葉を聞いた、黒いローブを来た奴らはオービンの方へと近付いて行き、私を踏みつけていた奴も足を私からどけて近付いて行った。

 オービン先輩、まさかわざと挑発してるんじゃ……

 私がオービンの方を向くと、オービンは口パクで「逃げろ」と言っている事に気付き、私は這いつくばったまま力を振り絞り医務室の扉の方へと向かった。


 必ず誰かを呼びます! ですから、無理だけはしないで下さい! オービン先輩!

 歯を食いしばりながら、医務室の扉前に着き立ち上がろうとした時だった。

 その扉が突然開いたのだ。


「何してるんだ、お前ら……」

「タ、タツミ先生」

「ん?」


 私はいいタイミングでタツミ先生が来たので、直ぐに助けを求めようと手を伸ばした。

 タツミ先生も私の存在に気付き、私たちを助けてくれると思っていた。

 だが、そんな私の気持ちをタツミ先生は踏み躙った。


「おい、まだやってるのか。時間かかり過ぎだ……それにこいつも逃がすな」

「えっ……」


 直後、タツミ先生は私を思いっきり蹴とばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る