第67話 思わぬ所での凄さ

 お兄ちゃん事、アバンの突然の訪問に戸惑う私の所に、ルークが偶然通りかかっただけなのに、お兄ちゃんが挑発した事でルークは気が立ってしまい喧嘩が始まろうとしていた。


「学生だからって下に見てると、足元すくわれる事分からせてやる」


 そう言ってルークは、片手を突き出し魔力分類の創造を使い、アバンの足元の地面を引き上げた。

 だがアバンは動じる事無く、片手で指を鳴らした。

 するとルークが引き上げた地面が、4つに切り分けられ、もう一度アバンが指を鳴らすと、4つに切り分けられた地面がルーク目掛けて放たれる。

 思ってない事に驚くルークだったが、すぐさま真下の地面に魔力分類の創造を使い、地面を引き上げ壁を創ると同時に魔法の『ロック』使い壁を強化させた。


 アバンが放った地面は、ルークの壁にぶつかると弾け散った。

 ルークはそこから目の前の壁に両手をかざし、魔力分類の技量と質量を同時に使用し、ゴーレムを創りだしアバンの放った攻撃が消えたのと同時に突撃させた。

 するとルークの視線に入って来たのは、アバンが左手で銃の様な構えをこちらに向けている姿だった。

 次の瞬間、アバンは右手で指を鳴らすと左手の人差し指の先に、魔力が一点集中した。


「バン!」


 と、アバンが口に出すと人差し指に集中していた魔力が弾丸の様に放たれた。


「馬鹿にしやがって!」


 ルークはゴーレムの両腕を突き出し魔法を唱えた。


「『バースト』『スパーク』『ロール』!」


 3つの魔法を次々に唱えると、ゴーレムの腕から炎と電撃が放出され、それが交わりそこに回転が加わり勢いが増して魔法融合したものが放たれた。


「ほう、魔法融合か。だが、そんな繊細なものを感情のまま放った所で、脅威でも何でもないな」


 アバンがそう口にした直後、ルークが放った魔法融合させたものは揺らぎ始め途中で弾け消えてしまう。

 その事に驚くルークだが、そこにアバンが放った魔力の弾丸がゴーレムに近付くと、咄嗟にゴーレムで受け止めようとする。

 だがしかし、魔力弾丸はゴーレムの腕を突き破り、核までも突き抜けゴーレムは崩れ去る。


「くそっ! 何なんだよ、あれは!」


 ルークはそう言いながら、片手を突き出し自分が一番威力が出せる魔法を唱えた。


「『バースト』!」


 突き出した片手から最大威力の炎を放つと、迫り来る魔力の弾丸と衝突した。

 その直後、大きな爆発音が響き周囲が煙で覆われる。


「(っ! しまった、視界が)」


 咄嗟にルークは、自分を守る様に壁を創り上げようとするが、そう考えた時には既に遅く、背後に気配を感じ振り返った時だった。

 髪を掴まれ上を向く様にされ、喉元にナイフを突きつけられた。


「はい、今のでお前は死んだよ。もし俺が暗殺者だったら、今頃国は大騒ぎだよ、ルーク・クリバンス王子」

「お、お前、俺の事を知ってて」

「ああ、そうさ。でも安心して、俺は暗殺者でもないし、王国を恨む輩でもない。正真正銘の王国軍兵士の見習いさ」

「じゃ、さっさとこの状態を解いてもらいたいね。しゃべるのもきついんだが」

「ん~まだ無理かな」

「何で!」

「まだ、聞きたいことがあるんだよ」


 そこまでアバンが言った時に、周囲の煙が晴れて、私は現状を確認し目を疑った。

 お兄ちゃんがルークの首元にナイフを突きつけているのを見て、私はすぐさまお兄ちゃんの元へと走った。


「何だよ、聞きたい事って」

「それはね、君がア」

「何してるの、お兄ちゃん!」


 そう叫びながら私は、お兄ちゃん目掛けて両足飛び蹴りを脇腹に叩き入れ、お兄ちゃんを吹き飛ばした。

 お兄ちゃんは転がった先で、私の名前を言いながら何をするんだと言うが、何故か最後に良い蹴りだと褒められた。


「何をするも何も、お兄ちゃんがルークにナイフを突きつけるからでしょ! てか、何勝手に喧嘩までしてるのさ! これも、どうするの?」


 私はお兄ちゃんに芝生の場所がぐちゃぐちゃになっているのを指さしながら、お兄ちゃんが持っていたナイフを回収した。

 ルークは少しむせつつ、お兄ちゃんの方を見ていた。

 すると私が回収したナイフがぐにゃっと曲がった。


「ぐにゃ?」

「本物何か持ち歩く訳ないだろ。それはおもちゃのナイフだよ」

「おもちゃ?」


 お兄ちゃんは、既にケロッとした様に立ち上がって私に近付いて来て、ナイフを取り上げられた。

 そのナイフに自分の魔力を通す事で、本物の様に見えるナイフにする魔道具だとお兄ちゃんは説明した。

 直後、ぐちゃぐちゃになった芝生の所に片足だけ踏み込み、片手で指を鳴らすと、一気に元の芝生状態に戻った。

 それを目の当たりにしたルークは、驚きを隠しきれなかった。


「これで、元通りだ。問題ないだろ、アリス」

「お兄ちゃん、問題大あり。あの野次馬もといい、皆にどう説明するの」

「え?」


 私は先程の騒ぎで、寮にいた皆が気になり表に出て来て、一連の事を見ていたと伝えた。

 お兄ちゃんは、それは困ったなと言いつつ前に出て行き魔道具の暴発だと伝えた。

 さすがに苦しすぎる言い訳だと思ったが、お兄ちゃんは更に何かするつもりなのか更に寮の方に近付いた。


「すまない! その前に、一度お手洗いを借りられるかい!」

「……へぇ?」


 その後、お兄ちゃんは一番近くにいた野次馬こと、ノルマに近付き寮のお手洗いを借りたいと物凄い勢いで頼み込み、ノルマも断り切れずに案内するのだった。

 結局、原因であるお兄ちゃんが突然と消えた事で、騒ぎは直ぐに収まった。

 私は直ぐに寮へと戻ろうとしたが、ルークが全く動かなかったので、声を掛けるも返事がなくただ茫然と直った芝生を見ていた。

 ルークには先に戻るとだけ言って、私はお兄ちゃんを追って寮へと急いで戻った。


「……あり得ない。あれほどの損害を一瞬で直すなんて。何者なんだ、アリスの兄貴は」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「いや~助かった、助かった。本当にありがとう」

「で、クリス。その人は誰なんだ? 後、さっきの爆発とかも説明してくれるのか?」

「……うん」


 ノルマからの問いかけに答え、私はお手洗いを済ませたお兄ちゃんと一緒に寮の食堂兼リビングにいた。

 そこには、先程の騒ぎの一部始終を見ていた寮生と、騒ぎを聞きつけた寮の皆がほとんど集まっていた。


「えっと……その……何から説明していいか……」


 話し始めに困る私を見たお兄ちゃんは、それを察したのか自分から話し始めた。


「俺から話すよ、

「え?」

「俺の名前は、アバン・フォークロス。隣にいるクリスの兄だ」

「クリスの兄貴? でも、何で兄貴がうちの学院の敷地内にいるんだ?」

「あっ確かに」


 私は、マックスからの問いかけに、改めて気付いていなかった疑問点に気付きお兄ちゃんの方を見ると、学院長から立ち入りの許可は貰っているとその証を皆に見せて納得させた。

 えっ!? そんなの持ってたの? てっきり、勝手に入って来たのとばっかり思った!

 私も皆と同じような反応をした。

 するとシンリがお兄ちゃんの名前を聞いた直後から、何か思い出そうとしている表情が目に入った。


「アバン……アバン……う~ん、どっかで聞いたような名前なんだけどな~」

「何だシンリ、変な顔しながら何うなってるんだ?」

「いや、クリスのお兄さんの名前がアバンって言って、どっかで聞いた事がある様な気がしたんだけど、それが思い出せなくて。アルジュは知ってる?」

「アバンって言えば、2年前の学院対抗戦で寮長に唯一勝ったって人じゃないのか?」

「それだー!」


 シンリの突然の大声に、その場にいた皆が一斉に振り向いた。


「あの、間違ってたらあれなんですけど、クリスのお兄さんって昔、学院対抗に出てうちの寮長に勝った人ですか?」


 その問いかけに、皆が一斉にざわつく。

 するとお兄ちゃんは、あまり寮長と言う所にはピンと来てない感じだが、シンリの問いかけに頷き、学院対抗には2年前に出て負けなしだったと少し笑いながら答えた。

 私はその年の学院対抗戦は、体調を崩して見れていない年だったので、初めて聞いて再び驚いた。

 お兄ちゃんの返答に、皆は一層ざわつきだす。


「やっぱりそうだ。あのアバンだよ。うわ~初めて生で見たわ。寮長が第1学年でも上級学年にも負けなしと言われていた中、圧倒的に勝利したあのアバンに会えるとは。感激だわ」

「まじか、クリス綺麗な姉さんもいて、兄さんがあのアバンかよ。凄いなお前」

「お姉さん?」


 お兄ちゃんがその単語を聞くと、チラッと私の方を向いた。

 私は分かってもらえないだろうと思いつつ、とりあえず小声で色々とあって姉がいる設定を作ったと言うと、何故か直ぐに頷いて分かったと言ってくれた。


「皆が盛り上がってる事は、俺はあんまり覚えてないが、たぶんそのアバンで合ってると思うぞ。と言うわけだから、さっきの事は見なかった事にしてくれないか。いいかな?」


 すると皆は、あのアバンに頼まれちゃ仕方ないよなと言って何故か納得し始めていた。

 私のお兄ちゃんが、皆の中でもそんなに凄い人だと思っておらず、あんな一言でさっきの事態を収拾させた事にもう、あ然としてしまう。


「じゃ、解散って事で。クリス、お前の部屋で少し話せるか?」

「え、うんルームメイトのトウマもいないから、大丈夫だよ」

「そうか、それじゃ行こう」


 そう言って、私はお兄ちゃんを案内するように先に歩き出すと、お兄ちゃんは一度足を止めて振り返った。


「そうそう、ルーク。お前も一緒に来てくれ。まだ話したい事、聞きたい事があるんだ」

「……」


 ルークは少し離れた場所に壁に寄りかかっていたが、お兄ちゃんからの呼びかけに無言で了承したのか、こっちに歩いて来た。

 そのまま私はお兄ちゃんとルークを自室へと招いた。

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