第50話 後を追うだけの作戦

 そして合同合宿6日目、遂に私も体調が回復したのでカリキュラムに参加していた。

 6日目になると、基礎訓練と魔力分類の苦手分野特訓も行われており、各チームごとに独自のメニューで進めていた。

 また、合同合宿も半分が過ぎた事から、混在チームも新たに振り分けられていた。

 チームメンバー数は変わらずに、新しく振り分けれたチームではルークとトウマと運よく同じチームになれ、また新しいクレイス魔法学院の生徒と同じチームになった。

 そして、シンはニックとフェルトと同じチームで、初日のベンとマイクとも違う生徒がチームにいた。


「よし、運よく同じチームになれたな。それじゃ、早速作戦開始だ」


 小声で呟くルークに、私とトウマは小さく頷いて答えた。

 そして、交代しつつシンの動向を観察し続けた。

 私たちがあれから考えた作戦は、至ってシンプルなものだ。

 ここ最近シンは、どこかで犯人にいじめられているので、ずっと観察し続け姿を消した時に追いかけて、現場を抑えるという、とてつもなくシンプルな作戦だ。

 そしてその場で何をするかと言えば、お説教だ。


 そんな事をしても何の解決にはならないのは、分かっているが、まずは思い知らせてやらなければいけないと意見が一致していた。

 だが、それで終わりではなく、そこからはシンにかかっていると言える作戦なのだ。

 私たちは、カリキュラムをこなしつつ、シンを観察し続けていた。

 一番私がシンの事を観察する事が出来たのだが、その訳は、まだ回復して初日という事もあり、軽めのメニューにしてもらっていたためだ。

 そして時間も過ぎ、お昼時になった。


「はぁ…はぁ…意外と、体が鈍ってるな……息が上がるのが早い……」


 私は、他の皆より軽いメニューであるが、意外とこれが体にきており既に疲れ始めていた。

 少しふらつきながら、早くメニューを終わらしてシンの事を観察している、ルークとトウマの元に歩いて行った。


「それであれから、どう?」

「あぁ、まだ動きは特にないな」

「そう」


 トウマも、変わった事は特に無かったと首を横に振った。

 そのまま午後のカリキュラムも始まるが、そこでも全くシンに変わった事はなく、今日は何もないのかと思っていると、カリキュラム終了後にどこかへと歩き出したのだ。

 それを見逃さなった私は、直ぐにルークとトウマに声を掛けて、後を追った。

 そして、シンが辿り着いた所は、人目がない森の中であった。

 シンが森の中を歩いて行くと、少し開けた場所にクレイス魔法学院の男子生徒が5名程いた。


「ようシン。今日も素直に来てくれたんだな」

「今日は紙をこっそりと忍ばしておいたが、気付いてくれて良かったよ」


 シンは男子たちが笑いながら言う言葉に、震えながら頷いていた。


「それじゃ、今日はそこの木の所に立って的当ての練習をさせてくれよ。あっ、狙いはお前じゃなくてその後ろの木だから、安心しろよ」


 1人の男子生徒がそう言うが、シンは震えたまま動かずにいると、もう1人の男子生徒近付いて来て、後ろから強く押し出して歩く様に強く言い放つ。

 シンは、言われたまま歩き出すが、途中で止まり後ろを振り返ろうとすると、1人の男子生徒が魔法を放ち、シンの顔の真横を通過する。

 その魔法は木に命中し、放った男子生徒は冷たく、早く行けって言ってんだろとシンを脅す様に言い、シンはそのまま指示された場所に立ってしまう。


 直後、男子生徒たちは一斉にシンに向けて魔法を放ちだす。

 その魔法は、ギリギリシンに当たらない所目掛けて放っていたが、わざとらしく手が滑ったとか言いながら、シンへ当てている生徒もいたのだった。

 またとある生徒は、少し笑いながらそれを行ったり、ストレス発散するように行う生徒もいた。


「これは、これは、またおかしな現場に出くわしたもんだ」


 その声が周囲に響き渡り、クレイス魔法学院の男子生徒たちは手を止めた。


「誰だ?」

「少し考えれば分かる事だろうが。全く、実際に現場を見ると、お前らむごい事してるんだな」

「っ!?」


 ルークの言葉の直後、私たちがシンのいじめの現場を確認したので、そこへ歩いて出て行った。

 クレイス魔法学院の男子生徒たちは、私たちがここに居る事に驚いており、言葉も出なかった。


「それじゃ、まずは説明してもらおうか、ベン。そして、マイク」

「っ! ク、クリス……どうして、ここに」


 そう、シンをいじめていた奴らに、ベンとマイクもいたのだった。

 ひとまず話を聞くために、ルークがトウマを呼び寄せた。


「もういいぞ、シン。魔法を解いてやれ、トウマが辛そうだ」


 そう言うと、今までシンであった人物の姿がトウマになり、トウマであった人物がシンへとなったのだった。

 その事に、クレイス魔法学院の男子生徒たちは、訳が分からず混乱していた。


「全く、シンを演じるのも意外と大変だし。それよりお前ら、色々としてくたな」


 今までシンだったトウマが、ベンやマイクたちに詰め寄ろうとする所を私が止めた。

 そう、まず今から行うのは事情の確認と説教なのだから、勝手に手を出されては困るので、トウマを呼び寄せた。

 そしてルークが入れ替わる様に、近付き少し脅すように、ベンに全て話してくれるようなと訊ねると、ベンは少し震えながら頷くのだった。

 そこからは、その場にいた全員がシンをいじめていた事を認め、シンにも事実かを確認した。


「そ、それで、これから俺たちは教員に突き出されるのか?」


 恐る恐る聞くベンに、ルークが答えた。


「いいや、軽く説教もしたし、反省してるならいい」

「おい、そんな簡単に許すのかよ!」


 その言葉に、ベンたちは小さく安堵の息をついていた。


「俺たちの目的は果たした。後は、シンの問題だ」


 そう言って、ルークはシンの方を見て入れ替わった。

 シンは、ベンたちの前に立つが握り締めた手は震えており、ただ立ち尽くしている状態になっていた。

 それを見たベンたちは、何故か小さく鼻で笑っており、トウマが全然反省してないぞと小声でルークに言うが、黙ってろと返していた。

 そう、ここからが、本当の作戦なのだ。

 そして、シンは覚悟を決めたのか、大きく深呼吸しベンの目を見つめて、初めて口を開いた。


「ぼ、僕と決闘しろ!」

「っ!?」

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